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「……力を抜いているのだよ……」

訳がわからないまま後ろを散々慣らされた後、その言葉と同時に後孔にあてがわれた麒白様自身が、私の中にズズズと入り込んでくる。
まさかこんな風にするとは夢にも思っていなかったけれど、『私を受け入れてくれ……』 という先程の麒白様の思いに私の全てで応えようと思った。
はぁはぁと肩で浅く息をしながら両肩の上に置かれている麒白様の腕に掴まり、強烈な熱さと圧迫感を必死で呑み込もうと、ギュッと目を瞑って力を抜く努力をした。


ドクンドクンと脈打っている麒白様自身をようやく最後まで呑み込んだその部分はただただ熱く、そのまましばらく動きを止めている麒白様の霊力が全身に送り込まれている気がする……


その時突然目を閉じている私の脳裏にあの桜色の瞳がよみがえり、微笑みながら私を見詰めている桜雲の姿がよぎる。
何だろうと思っているうちに桜雲の全てが私の中に流れ込んで来たような、不思議な 感覚が私の全てを捉え、目蓋の裏には走馬灯のように桜雲の生きて来たさまや深い想いが駆け抜けていく。
そして心の底から湧き上がるような感無量さが一度に込み上げ、閉じたままの目から私でありながら私ではない涙が次々と溢れ出て行った。

……あぁ…やっとわかった……


……桜雲。
貴方が望んでくれたからこそ今の幸福な私がいる。
貴方と私の繋がりがどんなに切ろうと思っても切れない事を、辛いと思っていた自分が恥ずかしいです。
桜雲が白桜になるのではなく、白桜が桜雲に戻るのでもなく、麒白様が言われたように 私達は本当に一つの魂なのだと、今、ようやく心からわかりました。
生まれ変わる事をこんなに心から望んでくれてありがとう。
貴方が存在してくれて、貴方が麒白様を愛してくれて、そして 麒白様が貴方を愛し続けて下さって、本当に良かった……


桜雲の思いが心から理解出来た感動に震えながら涙を流したまま静かに目を開けると、麒白様が驚かれたように息を飲んで私を見下ろしていた。
強い霊力のある麒白様には、私と桜雲の魂と思いが本当に一つに なった事が感じられたのだろう。

……桜雲、麒白様に触れる自由が叶わなかった貴方ですが、 これからは常に私と共に麒白様を愛していきましょう……

私は桜雲へ、心からの感謝を込めてゆっくりと左手の痣に口付ける。
それから、どうか桜雲をもう一度抱き締めてあげて欲しい、と心の中で麒白様に願いながら両手を伸ばし、そっと麒白様の頬に触れて微笑んだ。
すると周りの白いオーラが激流のような渦を巻き始め、同時に私の頬に、ぽたりぽたり、と温かい雫が降り注ぐ。
そして次の瞬間、息が止まるほどに強い力で思い切り抱きすくめられた。

「……桜…雲……ッ!」

麒白様は折れそうなほどに強く私の体を抱き締めながら全身を震わせ、押し殺すような嗚咽を 漏らした。

激しくむせび泣きながら私を抱き締めるその腕の中で、麒白様が深く深く桜雲を求めている痛いほどの思いが伝わって来る。
それが心の底から嬉しかった。
麒白様は桜雲であり白桜である同じ一つの魂を求めてくださっているのだから……

以前はただ一度しか触れる事が叶わなかった、そして今では いつも私を慈しみ守ってくださっている温かくて大きな背中を、 桜雲と白桜の二人分の思いを込めて思い切り抱き締め返した。
永い永い時を過ごす間も、一点の曇りもなく桜雲を愛し続けて 来た麒白様。
そして私を白桜としても愛して下さった麒白様。
こんなに愛情深い方に愛されて、桜雲も白桜も本当に本当に 幸せです……


「……白桜……お前のおかげで再び桜雲を
 抱き締める事が出来た……本当に…ありがとう……」

麒白様は涙を流しながらそう囁かれ、微笑んで頷き返した私にそっとキスをする。
そしてそのまま何度も何度も数え切れないほどの口付けを交わした。

私達は涙を零し、嗚咽を漏らし、何が何だかわからないままに お互いを求め、自分の持ちうる全てを相手に与え続けた。
麒白様に激しく幾度も貫かれ、咽喉が嗄れるほど麒白様のお名前を 呼び続け、涙にむせびながら喘ぎ声をあげて麒白様を求め続ける。
白桜なのか桜雲なのか、自分でもわからないまま全てを受け入れ 全てを与えて……


桜雲は生まれ変わる度に名前が変わり、そしてその分新しい愛が足されながら、 終わる事なく永遠に麒白様を求め続ける。
鬼神である麒白様と一介の鬼である私達では、時の流れが 違う為に様々に形は変わるだろうけれど、それでも桜雲の愛は 受け継がれ、麒白様を求め続ける思いは変わらないのだと、 今、ようやく身にしみて実感していた。

渦を巻き続ける真っ白なオーラと、麒白様の角から舞い落ちる金色の光に包まれながら、改めて 桜雲の生まれ変わりである私は幸せだと思った。


麒白様、桜雲と白桜の愛はこうして受け継がれていきます。
……これからも…永遠に…愛しています……