シコウの部屋に連れて来られた僕は、シコウに聞きたい事が
沢山ありすぎて、何から聞いていいのかわからなくなった。
そしてそのまま立ち尽くしていた僕をシコウは一度優しく
抱き締めてくれ、その後二人で並んで腰をおろした。
「お前に話しておかねばならぬ事がある。」
僕が質問をする前に、シコウはそう切り出した。
僕は横に座るシコウの顔を見る。
シコウは僕の方を見ず、真っ直ぐに前を見ていた。
「オウウンはもうすぐ消える。」
…………消える?オウウンが?
「……な、なんでっ?!」
思わず声を大きくして、僕は体毎シコウに向き直った。
するとシコウは顔だけ僕の方に向け、更に話を続けた。
「以前に鬼というのがどういう者か、お前に話した事があるが
覚えているか?」
「うん、もちろん。
えっと、人間が死んで鬼になって、この世界に来てから
いくつかの段階を経て、天地の神霊へと変化していく……って、
あっ!!」
自分で言って驚く僕に、シコウは頷いて見せた。
「……そうだ。オウウンはもう最終段階に入っている。
先日オウウンの体が薄く透けていた事があっただろう?
今では余程の霊力を使わなければ人型をとっていられない程だ。
だからお前の所で過ごす時間も日々少なくなっている。
先程私の霊力を多少送り込んだが……
どっちにしろ後何日もしないで自然に消えていく。」
驚きのあまり言葉が出てこない。
オウウンがいなくなるなんて。
この世界に来てからずっと僕を支えてくれた、あのオウウンが……
そして、はたと気が付く。
「……だからオウウンとキハクが結ばれないって言ったの?」
するとシコウは少し辛そうな目をして答えた。
「そうだ。そしてその変化は鬼神である私にもキハクにも
止められぬ……
だが、結ばれぬ理由はそれだけではない。」
と言って僕の手を痛い程握った。
「お前の場合は存在自体が異なる者だから大丈夫のようだが、
普通属性の違う者同士が触れ合えば、霊力が強い方に弱い者の
霊力が飲み込まれ、一瞬のうちに消えてしまう。
あれ達の場合、間違いなくオウウンはキハクに飲まれて終わりだ。
だから、あの二人はこうやってお互いに触れ合う事が出来ぬ。」
そしてシコウは握っていた僕の手を引っ張り、いきなり抱き寄せた。
「……好きな者が目の前にいながら、
それも相手も自分に思いを寄せていると知りながら、
髪の毛一筋たりとも触れられぬ辛さがわかるか、ミツキ?」