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夕方、久し振りに私にも料理をさせとくれ、というばあちゃんと一緒に
台所で夜ご飯の準備をしていると、いつものようにオウウンが
顔を出した。
見た目は今までと変わらないように見えるんだけど……

「これはおばあ様。ご無沙汰しておりました。
 お元気でしたか?」

オウウンは微笑んでばあちゃんに挨拶する。

「久し振りだね、オウウン。
 私は相変わらず元気だよ。今日は私がご飯を作ってるからね。
 ここはもういいから、あんた達は部屋で話でもしながら
 待ってておくれ。」

相変わらずマイペースなばあちゃんに、オウウンと僕は顔を
見合わせて苦笑した。


さすがに今夜の事に触れる事は出来ず、僕はオウウンと
今日あった出来事を話しながら部屋に向かった。

襖を開けると、そこには既にシコウとキハクが座っている。
僕はキハクと向かい合っているシコウの隣に座り、オウウンは
シコウの斜め後ろに座る。
相変わらず下を向いているオウウンを、キハクは痛いほど
見つめていた。

……オウウンが今日消えてしまう事を、キハクも気付いて
いるのかもしれない。

キハクのその瞳を見ながら思った。


その後ばあちゃんの作った料理を5人で食べた。

キハクはばあちゃんの話をシコウから聞いていたらしいが、
実際にこうやって会ってみて、さすがにばあちゃんの
マイペースぶりに驚いていた。
でもすぐに慣れて、結構気も合うらしく、そのうち二人で
冗談を言いながら色んな話をしている。

その様子を僕とシコウは苦笑しながら見ていた。
ふとオウウンを見ると、今まで一度もキハクを見なかったのに、
今だけは顔を上げ、少し微笑みながらキハクを見詰めている。

……これもばあちゃんのおかげかな?

ばあちゃんの明るさに少し救われた感じがして、
僕はちょっとだけ胸を撫で下ろした。


いつも通り僕の淹れたお茶をみんなで飲んだ後、ふと会話が
止まった。
そしてそれと同時にばあちゃんが僕に、琴を持っておいで、と言った。
琴を何に使うのかはわからないけど、取りあえず、わかった、と
言って腰をあげる僕に、ミツキには無理だから、とシコウが
付いてきてくれる。

そして琴の部屋に向かう途中、僕はシコウに聞いた。

「……あのさ、オウウンの事、シコウ達はやっぱり気付いてたの?」

するとシコウは難しい顔で頷く。

「キハクは最後までオウウンの傍にいるつもりだ。
 思いは成就しなくても、しっかり最後まで見届けてやりたいと
 思っているのだろう。」

……胸がズキズキと悲鳴をあげる。

…………今頃二人はどんな気持ちなんだろう。
周りでただ見ている事しか出来ない僕達だって、
こんなに辛いのに……