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僕がここに来てから10日。
相変わらずオウウンに教えてもらってこの世界の勉強をしたり、 散歩したりして過ごしていた。

一度興味本位で、 オウウンは自分がどんな人間だったか覚えてる?と聞いてみた事が ある。
前にシコウが、どんな人生を歩んできたかで 鬼になった時の姿が変わるって言ってたから。
オウウンみたいに髪も目も角も桜色で綺麗な人は、 きっと人間の時に幸せだったのかな、って思った。
それに僕も死んだら鬼になるんだから それを今から聞いておけば今後の役に立つでしょ?
僕だってあんまり変な色とかの鬼になりたくないし。
僕がそう言うと、残念ながら鬼になると同時に記憶は無くなるの ですよ、と笑っていた。


居住区は好きに歩いていいと言われていたので、 今は建物の中をぷらぷらしている。

この世界は一見昔の日本の様な感じで、生活する分には特に 不便ではない。
食べ物に関してはシコウとオウウンが用意してくれて 何から出来ているのかはわからないけど、どれもおいしい物ばかり だったし、その他の事に関しても、オウウンが色々細かく気を 使ってくれて、僕はすごく甘えさせてもらっている。

ただ、贅沢を言うと、太陽を見たり月を見たりしたかった。
ここと僕の世界の最大の違いはそこだと僕は思う。
まあ鬼や神様と一緒に生活している事が一番の違いと言われれば それはそうなんだけど。

でもこの世界は昼は明るいし夜は暗くなるのに、太陽も月も星もない。
その上天候が変わる事もないので、 あまり好きじゃなかった雨が逆に恋しくなる位だ。
たまには雨を感じたいな〜とシコウに言ったら、 そんなに濡れたければ着物のまま湯に浸かればよい、と あっさり言われてしまったけど。


そんな事を考えながら廊下を歩いていた時、ふいに人の気配を 感じた。

何だろう?昼間忙しいシコウがここにいるわけないし、オウウンかな?
でも今日はシコウの手伝いがあるって言ってたけど……

そう思って、僕はその気配を感じた部屋の襖に耳をつけてみる。
全く何の音も聞こえない。
でも、何となくだけどこの部屋に誰かがいる気がする。
一瞬どうしようか迷ったけど、好きに歩いていいってシコウも 言ってたし。
僕は思い切って襖をノックしてみる。

……返事はない。

もう一度叩いてもやはり何の音もしないので、僕はそっと襖を 開けてみた。


僕が襖を開けた瞬間、ふっとその気配が消えてしまった。
何だったんだろう?と思いながら、そのまま襖を大きく開けて 中に入り、一通り周りを見てみる。
その部屋は僕が使わせてもらっている部屋より一回り位大きかった が、それ程変わった様子はなかった。
ただ、床の間の様な所に琴が置かれていた。
近くに行ってまじまじと眺めてみる。
そして僕は目を見開いた。

通常琴の弦は13本。それか十七弦琴と呼ばれる17本が 一般的だろう。
でもこれには5本しか弦がない。
そしてその横には真っ赤な琴爪が3個置いてある。

……僕、これと同じのを知ってる。
って言うか、ばあちゃんが亡くなるまでよく弾いていた……

僕が生まれた時から家にあったその琴は、時々ばあちゃんが 大切そうに持ち出してはいつも同じ曲を弾いていた。
実の娘である僕の母さんにも触らす事がなかった程大切に していたのに、僕が小学校に上がると同時に、僕にその曲を 教えてくれるようになったんだ。
母さんは全然気にしてなかったけど、 何となく悪い気がして何故僕にだけ?と聞いたら ミツキが18歳になったら教えてあげるよ、と言っていた。
なのに、去年僕が16歳の時に亡くなってしまって、結局理由は わからずじまい。
それ以降僕も琴を弾く事がなくなり、 今でもそのままにしてあるばあちゃんの部屋に置いてある。


……またばあちゃんだ。

この琴と言い、相変わらず僕の胸元で点滅を続ける獅巫石と言い、 何かにつけてばあちゃんが関連している。
ばあちゃんはこの世界と何か関係があったのだろうか。
でももしそうなら、誰かがそういう話を聞いた事があるとか 何らかの資料が残っているとかしてもいいと思うんだけど、 今の所シコウやオウウンも全くわからないと言う。

……シコウやオウウンが調べてわからない事を、 今僕が考えてわかるわけないや。

小さく溜息をついて、苦笑した。
しばらく弾いてないし気分転換にもいいかもしれない。
今日の夜にでも、シコウにこの琴を弾いていいかどうか聞いてみよう。
僕はそう決めて、そのままその部屋を後にした。