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その日他にやる事のなかった僕は、合間に昼食や夕食を挟みながら、 オウウンにこの世界について色々教えてもらった。

この世界は鬼達の属性によって、木、火、土、金、水と 全部で5つの大陸に分けられている事。
それぞれの大陸の間は対岸が見えない程の大きな川で 区切られていて、そこを渡れるのは唯一長のみ。
それ以外の者は川の不思議な霊力により、近付く事も 出来ないそうだ。

そしてその5つある大陸のうちの一つ、火の属性がここ、 シコウが治める獅紋領。
僕が今いるこの建物は獅紋殿といい、シコウの仕事場兼居住区 なのだそうだ。
昨日僕が出ようとした扉が丁度その区切りに当たり、 あの扉を出た先に仕事場がある。
そしてその外に、この屋敷をぐるりと取り囲むようにして鬼達が住んで いるらしい。

僕が立っていた所と扉に埋め込んであった獅紋鏡は、 代々伝わるシコウの家の家紋のような物で、 扉や大事な所などに埋め込まれているという。
それにはシコウの霊力が込められていて、 長以外の者は触れるだけで体が蒸発してしまうという話だ。
なのでこの獅紋領で、居住区と外を自由に行き来出来るのは シコウ一人だけ、という事。

……だから昨日、あれに触ってなんともなかった僕に シコウが驚いたんだ。

「僕は何故獅紋鏡の上に立ってたんだろう?
 っていうか、あの場所は何か大事な所なの?」

ふと疑問に思って聞いてみる。
するとオウウンは少し困ったように言った。

「ミツキ様があれに触れて何故何ともないのか、
 そして何故獅紋鏡の上に現れたのか、
 ミツキ様のお帰りになる方法がわからないように、誰一人
 わからないのです。
 それからあの場所に獅紋鏡が埋め込まれている理由ですが、
 それは私の口からお話して良いものかどうか……」

「……その先は私から話そう。」

オウウンが言い淀んでいると、サッと部屋の襖が開いてシコウが 入ってきた。
慌てて平伏するオウウンに、下がって良い、と言い、 オウウンは僕達に頭を下げて出て行った。

僕の目の前にシコウが座る。
オウウンがいた時の柔らかな雰囲気と違い、 シコウが入って来ると同時に部屋の空気が一変した。

やっぱりちょっと怖いかも……。

「……庭に連なっている鬼火は見たであろう?
 あれは一つ一つがこの屋敷に仕える鬼達なのだ。
 普段はあの姿で過ごし、私が指示を与えた時だけ先程の
 オウウンのように人型を造る。」

嘘っ?!あの鬼火が?オウウンも?

「そしてミツキが現れた獅紋鏡は、
 配置されている鬼達の丁度中心に位置している。
 あそこにある事で、鬼達の統制が取れるように出来ているのだ。
 それ以外の獅紋鏡についてはこの屋敷を建てた後、
 当時の獅紅が扉などに印していった物らしいが、
 あそこだけは元々あの場所にあって、
 それにあわせてこの屋敷が建てられたと文献には書かれている。」

僕は頭の中でシコウが今言った言葉を復習する。
まずあの庭の鬼火が一人一人の鬼だという事はわかった。
だからこんなに広い屋敷なのに人の気配を全く感じなかったん だろう。
オウウンが部屋を教えてくれなかったのも、それを聞けば納得がいく。
元々オウウンの部屋などないのだから。

それから、出入り口とか大事な所に獅紋鏡が配置されているのも わかった。
僕が立っていた場所が大事だという事も。
そう言えば……

「ねぇシコウ、あの鼓みたいな音は何?今もずっと続いてるけど。」



そう、それも気になっていた。

ばあちゃんの指輪もそれに合わせて光っているように見えたし。

「あれはこの世界が出来ると同時に鳴り始め、
 この世界が終わると共に鳴り止むと言われている。
 鼓の音のように聞こえるが、誰かが鳴らしているわけではなく、
 この地とお前の住む世界が共鳴している音だ。」

共鳴?

「……シコウは僕の住む世界を知ってるの?」

そういえば、シコウもオウウンも僕の事を生身の人間と言っていた。
それってどういう事なんだろう?

「当たり前だ。……お前はオウウンを始めここに住む者が皆、
 鬼だと聞いたのだろう?」

「うん、それは聞いたけど。でも鬼と僕の住む世界が
 どう関係あるの?」

僕が尋ねると、シコウは僕の顔のすぐ近くまで自分の顔を近付けて、 まじまじと僕の目を見、

「……お前、鬼を何だと思っている?」

と問い返してきた。