| 気が付くと、畳の上に敷かれたふわふわの布団に寝かされ、
先程の人(?)が僕の枕元に座りながら真っ赤な瞳で僕を見下ろして
いた。 
「……やっと目覚めたか。腹の具合は?」 
その言葉を聞くと同時に、僕のお腹がギュ〜っと鳴る。恥ずかしくて掛け布団を顔まで被ったものの、さすがに空腹感には
勝てずに、顔を隠したままウンウンと大きく頷いた。
 それを見たその人(?)はパチンと指を鳴らし、夕餉の支度を、と言う。
 すると、いきなり僕がここに来てから全くなかった人(?)の気配が
沢山して、少し経った後、赤い髪の人と同じ様な着物を着た
男の人が、御粥やら漬物の様な物やら色々載ったお膳を運んできた。
 
「私は席を外すが、何か困った事があればこの桜雲(オウウン)に聞くが良い。」
 
そう言ってその人(?)は部屋から出て行ってしまった。名前の通り肩までの桜色の髪と目を持ったとても綺麗なその人は、
ニコニコと僕の斜め前に座っている。
 怖い顔しかしない無愛想な赤い髪の人に比べ、
とても人懐っこそうなその雰囲気に僕は少し安心して、
御粥を食べながら話しかけた。
 
「オウウンさん、僕はどうやったら家に帰れるの?」 
尋ねる僕に、その人は本当に申し訳なさそうに言う。 
「ミツキ様は今の所あのお方の客人という事になっておりますので、どうぞ私の事は呼び捨てにされて下さい。
 それから、申し訳ない事に、
 何しろこのような事は初めてなので誰にも何もわからないのです。
 通常だと生身のままここに存在出来る筈がないのですが……
 でも、きっとその内シコウ様が何らかの方法を見付けて下さると
 思いますよ。
 大変な霊力を持ったお方ですから。」
 
「シコウ様ってさっきの人の事?」 
余りにも僕が知る現実とは異なる反面、
夢だと思うには触れる物全てが現実的な感触を持ち過ぎる。だから、ここが僕の住んでる所ではなく、
違う世界だという事は事実として認めようと思う。
 それなら少しでも早くここの情報を集めて、帰る方法を探そう。
 幸い言葉は通じるんだし。
 こういう時、自分が楽天的で本当に良かったと思う。
 
「そうです。あのお方は獅紅(シコウ)様と仰るのですが、私共のような者を治める役割を担っていらっしゃるのですよ。
 言うなれば長(オサ)ですね。」
 
オウウンがそう教えてくれる。でも私共のような者って?
 僕がそう聞くと、
 
「気付きませんでしたか?私は鬼なのですよ。」 
と僕の方に頭を下げ、そこから生えている長さ5cm位の桜色の角を
見せてくれた。 
……ホントに角だ…… 
それを見て僕は少し後ずさる。 
「……お、お、鬼って、赤とか青の体で、トゲトゲの棍棒もって、100年経っても破れない虎柄のパンツ穿いて、
 人間を食べるんじゃなかった?」
 
確かに角はあるけど、シコウさんやオウウンは僕が思っている鬼の
イメージと余りにも違いすぎる。 
「ん〜、確かに赤とか青の肌をした鬼もいますけど、棍棒も持ってないし普通に服を着てますよ。
 あ、中に虎柄の下穿きをつけている者がいるかどうかまでは
 わかりかねますが。
 それに私達は元々食すという文化を持っていないので、
 人間の肉を食べる者はおりません。
 なので心配はいりませんよ。」
 
そう言ってフフッと笑った。……ホッとした。
 
 自分の行動を振り返ると、僕は余りにも無防備だったから。
 でも、食べられる事はないと聞いて少し安心だ。
 
「じゃあシコウさんにも角があるの?さっき見た時には気がつかなかったけど?」
 
と聞いてみる。すると、ああ、と言ってオウウンが答えてくれた。
 
「もちろんシコウ様にも角はあります。ただあのお方の場合、普段角を出される事はありません。」
 
「角って自由に出し入れ出来るの?」 
僕の質問に、う〜ん、と少し悩んだ。 
「私共には出来ません。シコウ様が特別なのですよ。霊力を使用する時や感情が高ぶった時などに
 自然に現れるそうです。
 でも、シコウ様が角を出されるのを皆怖がるんですよ。
 お怒りになられる時ももちろん拝見する事になってしまいます
 からね。
 あのお方を怒らすと、それはそれは恐ろしいのですよ。」
 
とペロッと舌を出して、片目を瞑って見せた。僕はその様子をクスクス笑って見ながら、
この人(というか鬼)には何でも話せそうだな、と思った。
 
その日結局シコウさんは戻って来ず、
お腹もいっぱいになったし疲れも取りきれていなかったので、
取り合えず制服を脱いで、Tシャツとトランクスのまま再度眠りに
ついた。 
 
 
 
       
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