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その後シコウに手伝ってもらいながら 何とか以前着ていたのと同じ白い服を着込み、 朝食を食べる事にした。

今日が祭祀の最終日だという事で、シコウは準備の為に 部屋を出て行く。
僕が朝食を食べる間、横に座っているオウウンと色んな話をした。

「ミツキ様がいなくなられた後、それはそれは大変だったのですよ。
 珍しくシコウ様は取り乱しておいででした。
 最初はどこかに紛れてしまったのかと屋敷はもちろん
 領内や他との境にある川にまで足を運ばれました。
 それでもいない事がわかると、残りの4つの領にまで
 行かれたのですよ。」

オウウンは微笑んだ。

「しばらくして、あの獅紋鏡の上に手紙が置かれていたのです。
 詳しい内容は存じかねますがそれを読まれたシコウ様は
 ミツキは帰ってしまった、と私供に告げ、
 必要以外一切部屋から出ていらっしゃらなくなりました。
 私も長くシコウ様にお仕えさせていただいていますが、
 あんな余裕のない姿を拝見したのは初めてです。」

……シコウはそんなに必死で僕を探してくれたんだ……

「……ん〜、でも、僕がいなくなった時から昨日までって
 そんなに日にちが経ってないはずじゃない?
 確か僕が帰った日から祭祀までって、あと10日位だったと
 思うんだけど。」

そんな短い間にあちこち探す時間があったんだろうか。
祭祀の準備であんなに忙しかったのに。
するとオウウンが驚いた。

「ミツキ様、ミツキ様がいなくなられてから、
 こちらではもう3年の月日が経っているのですよ?」


さすがに驚いた。
僕にとっては8ヶ月、でもシコウにとっては3年だったんだ……
8ヶ月でさえすごく長かったのに、3年もの間シコウは散々僕を 探した挙句、こうやって忘れずにいてくれた。
本当にここに戻って来れて良かった。
シコウの傍に……


……それにしても手紙って何だろう?

「ねぇオウウン、その手紙って誰からだったの?」

その手紙を見て、シコウは僕が帰った事を知ったんだよね?

「え?シコウ様は、ミツキ様ご本人からの手紙だったと……」

間違いなく僕じゃない。僕がそんな事出来る訳ないし。
……じゃあやっぱりばあちゃんかな。
まぁ、きっとシコウが心配しないように 僕が帰った事を知らせてくれようとしたんだろうけど。
それにしても手紙には何て書いてあったんだろう?
後でシコウに見せてもらおうっと。


夜になり、儀式が始まった。
僕も少し正装を、という事で、シコウが用意してくれた上下とも白の 羽織袴を身につけた。

オウウンの提案で琴を弾く事になった僕は、 少し緊張しながら祀ってある獅紋鏡の側に座っている。
相変わらず鬼達は片膝をついて頭を下げている。
中心に立っていたシコウが獅紋鏡に向かって なにやら聞いた事のない言葉を唱えた後、 僕の方を見て軽く頭を下げた。
それに僕も頷いて返し、琴を弾き始める。


色々あった。
突然この世界に連れて来られ、シコウを好きになり、 また自分の世界に帰される。
そしてシコウが好きだと再確認をしてこの世界に戻ってきた。
もうシコウと離れない。
何があってもシコウの傍にいよう……


演奏が中盤に入りちらっとシコウを見ると、 僕を真っ直ぐに見ていたその真っ赤な目が、少し微笑んだ気がした。
僕もそれに微笑み返し、ふと獅紋鏡の方を見る。
するとそこから淡い光が靄と共に立ち昇ってきた。

……何だ?

そう思いながらも演奏を続ける。
シコウもジッとそちらを見ている。

光はだんだん濃くなり、靄の中に人影が見えてきた。
巫女装束を着込み、頭にはシコウと同じ様な額飾りを付け、 僕の琴に合わせて踊っている。
そしてその人物は……ばあちゃん……


やはり僕と同じ歳位の姿をしたばあちゃんは、 僕が琴を弾き終わるまでそれに合わせて踊り続ける。

……沢山の鬼達が傅いている前で、パチパチと燃える篝火に 照らし出されながら、琴に合わせてしっとりと舞う巫女……

その幻想的な光景に、僕は思わず息を飲んだ。