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ポーン……ポーン……

8ヶ月振りに聞く鼓のような音。
……僕は鬼界に戻って来た。

もう二度と自分の世界に帰らない為に……


飛ばされる瞬間、思わず下を向いてギュッと目を瞑ってしまった僕が ゆっくりと目を開く。
足元にはあの獅紋鏡。
それから鼓のような音に混じってパチパチという小さな音が聞こえる。
ゆっくりと顔を上げると、その音が青い鬼火ではない、 本物の赤い篝火(かがりび)が燃える音だとわかった。
真っ暗な中いくつもの篝火が燃え、獅紋殿全体を映し出す。
その広大な庭と屋敷には、数え切れない程の鬼達が僕の方を向いて 頭を下げ、片膝をついていた。
まさに『荘厳』という言葉が相応しいその情景。

そして目の前にはあの琴が置かれており、その向こうには同じく 片膝をついて、僕の方を見上げて驚いているシコウの姿があった……


初めて見るシコウとオウウン以外の鬼達は、 朱色や桃色など色の違いは多少あれど 全体的に赤っぽい色の髪や角をしていて、自分の色と同じ色の着物を 着ている。

それからシコウのすぐ斜め後ろに控え、 顔をこちらに向けていなくても一目でオウウンだとわかるその人は、 やはり桜色の髪に桜色の角、それに桜色の着物。

……そしてその攣りあがった真っ赤な目を見開くように僕を見ている シコウは、唯一真っ白な古代衣装を纏い、真っ赤な帯を締めている。


「……ミツキ、何故……?」

シコウは小さくそう呟き、ゆっくりと立ち上がって、 立ち竦んでいる僕の方に手を伸ばす。
でもその一瞬後ハッとしたようにその手を引っ込め、後ろの鬼達を 振り返ると、大きく両手を振り翳した。

シコウの頭には、初めて見る捻じれた2本の銀色の角……

あっ!と僕が驚いている間に、ブォンという音と共にシコウの背中から 一瞬で発せられた赤い光で獅紋領全体が包まれ、それが一本の光に なった後、他から集まってきた同じ様な青・黄・白・黒の光と共に 天空に消えていった。

呆気に取られて上空を見上げていた僕が、ようやく我に返って 周りを見渡すと、そこには既に鬼達の姿は無く、 覚えている通り青い鬼火達が道標の様に燃えているだけだった。

僕のその様子を静かに見ていたシコウは

「部屋へ……」

と僕に告げ踵を返す。
その揺れる赤い髪を見ながら、慌ててシコウの後に続いた。