シリーズTOP



「悪かったね、ミツキ。
 でも術をかけてる最中に邪魔が入ったりとかこっちにも色々
 事情があって、ほんの少しだけ時がずれちゃったんだよ。
 だけど鬼界の歴史を変えない為には、
 18歳になって祭祀の時に出現する事が大事だった。
 それに、18歳になっていないあんたの琴の音には霊力が
 足りないし、祭祀の時に出現した巫女の使いだからこそ鬼達も
 あんたを無条件で信じるんだ。
 だから悪いけど1度帰ってもらったんだよ。
 でも、結果的にはそれが良かったんだと思う。」

……ばあちゃんにも事情があったのはわかるし、言っている事も 理解出来る。
でも、こっちに帰って来てから僕が辛い思いをしなきゃいけなかった 事が、何故結果的に良かった事になるんだろう?
僕は不貞腐れながらも考えた。

「ミツキの時代のシコウは、
 3代後の私達の時代に伝わる程恐ろしくて有名なんだ。
 だから私はあんたが生まれた時、そんな怖い人の元に大事な
 あんたを送りたくないと思ってた。
 だけどその時おじいちゃんが言ったんだよ。
 伝説よりも噂よりも、本人が実際に触れてどう思うかが
 大事だって。」

「ミツキは私の気配を感じてただろ?
 私はミツキが鬼界にいる間、出来るだけ側にいたんだよ。
 もちろん常に一緒にいるのは無理だったけどね。
 でもミツキの様子を見て、やっぱりおじいちゃんの言った通り
 実際に触れてみてもらって良かった。
 ……だってミツキはシコウに惚れただろ?
 そして、一度こっちに戻って来たおかげで
 その気持ちがシコウに言われたような勘違いじゃないって
 確認出来ただろ?」

そう言ってばあちゃんは笑う。

「ほ、惚れたって……!」

全くばあちゃんは何て事を言うんだ!
僕がそう思って真っ赤になっていると、

「ねぇミツキ、嫌な人と義理で一緒にいなければいけないのと、
 義務はあっても好きな人と共に過ごすのには大きな違いがあると
 思わないかい?」

……そりゃそうだ。
僕が鬼界に行くのを避けられないんだったら、 嫌な人といるより好きな人といたいと思う。

でも、人間と鬼神が結ばれるはずがないし僕達は男同士だよ?と 僕が言うと、

「そんな事を気にするなんてナンセンスだねぇ。」

と笑い飛ばされてしまった……


「さあ、そろそろ時間だよ。
 まだわからない事はあると思うけど、それはまた先々話そう。」

「ま、待ってよ!ばあちゃんにはまた会えるの?」

「ミツキが呼べばいつでも行くよ。
 あ、それと前に言った通り獅巫石を絶対離すんじゃないよ。
 指に嵌める時が来るまで首から下げておきなさい。」

……僕はもう一度胸元の獅巫石を握り締め、決意を固めた。
僕が行かなきゃ鬼界がダメになるって言われたら、 何があっても行かなきゃって思う。
いきなり迷い込んだ僕(ばあちゃんの失敗のせいだけど)を、 あんなに優しく受け入れてくれた、とってもとっても大事な 場所だから。
それに……

……スガヤさん、あんなに僕を大切にしてくれたのに 本当にごめんなさい。
でも僕、やっぱり、やっぱりシコウが……

「……ばあちゃんは今幸せ?」

一度は僕をこの世に送り出す為にシコウと別れたばあちゃん。
今はどうなんだろう?
するとばあちゃんは

「もちろん。私は幸せじゃなかった事なんて一度も無いよ。
 おじいちゃんがいてくれて、ミツキの母さんを授かって、
 その上ミツキと一緒に過ごしてきた。
 そして死んだ今はシコウと結ばれて一緒にいる。
 ややこしい運命なんか吹き飛ぶ位、私は常に幸せだよ。」

と笑いながらグッと親指をたててみせる。
僕も笑い返しながら、この人の強さを学んで行きたいと思った。


「……ミツキ、最後に1つ。あんたのシコウはずっと悩んでた。
 ミツキが巫女ならば手を出しちゃいけないと信じてるからね。
 あんた達がこれからどういう関係を築いていくかは
 私にもわからないけど、あんたは巫女である私の使いっパシリ
 だって教えておやり。」

……パ、パシリですか。

ばあちゃんは僕を見て微笑みながら

「あれはいい男だよ。恐ろしいけど、その分強さと優しさを持った男だ。
 ……まぁ私のシコウには負けるけどね。」

と片目を瞑ってみせる。
ばあちゃんはこの明るさと強さで、自分の人生を切り開いて きたんだろう。
僕もばあちゃんのように、頑張って自分の人生を歩いていかなきゃ。


「また会いに来てね。
 まだまだわからない事だらけだから、僕を助けてね。」

「ミツキ、絶対幸せになるんだよ。私はいつでもあんたの側にいる。
 それにおじいちゃんもね。」

……おじいちゃん?

そう聞く僕に、さあいったいった、と僕を立ち上がらせて 獅巫石を握らせる。
そして一度行灯に手を翳した後、あの琴を奏で始めた。
ばあちゃんの指には、真っ赤な琴爪……

一瞬行灯の光が強くなった後、だんだん目の前が回り始める。
何も見えなくなる直前、

……本人は記憶が無いけど、オウウンがあんたの おじいちゃんだよ……

というばあちゃんの声が遠くから聞こえた。