ばあちゃんのシコウが僕の知っているシコウの3代後なんだったら、
確かにシコウ達がどんなに文献をあさっても出て来ないはずだ。
だって未来の事なんだから。
「私はこの世界に戻って来る時、獅巫石と琴を持って帰ってきた。
でも、シコウが忘れられない私は
誰とも結婚して子供を作る気にはなれなかったんだ。
そんな時に幼馴染だったあんたのおじいちゃんに
結婚を申し込まれたんだよ。」
そう言ってばあちゃんは微笑む。
じいちゃんは僕が小学生の時に亡くなってしまったけど、
とても穏やかな人だった。
いつもばあちゃんの横にいて、ハイカラなばあちゃんが行き過ぎる
度に、苦笑しながらばあちゃんを諌めていた。
とてもとても好きな人だったんだ。
「私はあんたのおじいちゃんに全てを話した。
それでもおじいちゃんは全部を受け入れてくれたんだ。
そんなおじいちゃんを私も愛した。
シコウとおじいちゃんのどちらかが一番ではなく、
どっちも私の一番なんだよ。」
ばあちゃんが綺麗に笑う。
僕はその微笑みに、この人が本当に二人を愛しているのだと感じた。
「私がシコウに別れを告げて自分の世界に戻らなければ
ならなかったのは、あんたをこの世に送り出し、そして18歳の
誕生日に鬼界に行ってもらう為だった。」
……僕を?
「ミツキは巫女ではないから、獅巫石を持っていないと鬼界と行き来が
出来ない。
だから私はあんたに獅巫石を託した。
ミツキは私が教えた琴を火族に伝える役目を持っているんだよ。
あんたがシコウ達にあの琴の旋律を伝えない事には、
私は3代後のシコウに召喚されない。
巫女を召喚する為にはそれが必要だから。」
……何だかこんがらがってきた。
5つに分かれた鬼達のバランスが崩れ、世界が崩壊するのを
防ぐ為に、始祖が紋鏡と巫石と琴を残した。
紋鏡はそれを防ぐ役目をする巫女が現れる場所として
それぞれの属性に一つずつ残され、
火族の巫女に選ばれたばあちゃんは巫女の証として獅巫石を持って生まれた。
3代後のシコウはバランスが崩れた鬼界を立て直す為に、
伝えられている琴の音を奏で、ばあちゃんを召喚する。
召喚されたばあちゃんはシコウと協力して鬼界を治める。
でも、そもそもばあちゃんが召喚される為に必要だった琴の旋律を
火族に伝えるのは、自分が元の世界に戻って母さんを産み、
その母さんが産んだ僕の役目だった。
だから僕は鬼界に行って鬼達に琴を教えなきゃいけない。
……これで合ってるかな?
「……でも、僕は琴の旋律を伝えるとかそんな事はしていないよ?
ただシコウとオウウンの前で、一度弾いただけだもん。」
僕がそう言うと、ばあちゃんは
「ミツキは元々あの時に鬼界に行くはずじゃなかった。
18歳の誕生日に向こうへ送って、
そのままこっちの世界に戻って来ない事になってたんだ。
でもちょっと送る時を間違えちゃってねぇ。」
と少しだけ申し訳なさそうに舌を出して笑った。
……間違い?僕があの時行ったのは間違いだったって?!
「ちょっと!間違いってどういう事?
じゃあ行かなくていいものを行かされて、
ようやく馴染んだと思ったら連れ帰られて、
その間にシコウを好きになって悩んだ僕はどうすればいいの?!」
まさかばあちゃんの失敗の為に、
今まで僕がこんな思いをしてきたなんて思わなかった……
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