シリーズTOP



中にいたのはおかっぱ頭で真っ赤な着物を着た、僕と同じ歳位の 女の子だった。
真っ暗な中、立てかけてあった琴を自分の前に置いて 正座をしている。
横には、向こうの世界で見た鬼火によく似た行灯のような物を 置いていた。
そして僕の方に微笑みかけながら、オイデオイデをしている。

……お化け……?


すっかり立ち竦んでしまった僕に、その女の子は声をかける。

「ミツキ、早く入って戸を閉めなさい。時間が無いんだから。」

……ばあちゃんの声だ。
少し(?)若いけど間違いなくばあちゃんの声。
まじまじとその顔を見た。
僕は小さい頃からばあちゃん似だと言われているけど、
確かに髪が伸びている今の僕に似ていない事もない。
戸惑いながらも、その人の言う通り戸を閉め、琴をはさんで向かいに 座った。

「信じられないかもしれないけど、私はあんたのばあちゃんの
 ユキだよ。
 事情があって若返ってるけど。」

……自分と同じ歳位の女の子に、 いきなり貴方の死んだばあちゃんですよと言われて 信じられる人がいたら見てみたい。

「もし信じられないなら私しか知らないあんたの秘密を言っても
 いいんだよ?
 例えば幼稚園の時に、同じひまわり組の男の子にパンツを
 下げられて泣いた事とか……」

「わ〜!わかったわかった!ばあちゃんなんでしょ?」

赤くなって言う僕に、

「とにかく今は時間が無いんだ。だから私の話を黙って聞きなさい。」

と言う。
取り合えず話を聞かない事にはどうにもならないだろう。
そう思った僕はうんと頷いた。


「シコウ達がいる世界を私は鬼界と呼んでいるんだけど、
 その鬼界はいま5つの領に分かれている事は聞いただろ?
 でも、元々始祖の時代には一つだったんだ。
 だからどんな鬼達も一つの所で暮らしていた。
 でも人間がはびこる度に当然鬼達も増える。
 それで始祖はご自分がお隠れになる時に属性によって5つの領に
 分割し、いくつかのモノを残した。
 5つの琴と5つの琴の旋律、そしてそれぞれの属性に獅紋鏡と同じ
 紋鏡と、獅巫石と同じ巫石。」

僕は思わず胸元の指輪を握り締める。

「巫石はいつか属性のバランスが取れなくなった時に、
 それを鎮める巫女の証として始祖が人間界に落とした。
 そして紋鏡はその巫女が現れる場所として残された。
 それ以外の紋鏡は、後の長達が利便性を考えて印した物だけど。
 で、火の属性、火族の巫女の証である獅巫石を持って生まれてきた
 のが私だった。」

……ばあちゃんが火族の巫女……?

「私は生まれてくる時にその獅巫石を右手に握って
 生まれてきたんだ。
 そして琴の旋律も生まれながらに知っていた。
 その時は意味がわからなかったけど、取り合えず石は肌身離さず
 持っていた。
 そして今のミツキと同じ18才の時、向こうの世界に召喚された……」

僕は黙って話を聞き続けた。


「私が現れたのはあんたと同じ獅紋鏡の上。
 そしてシコウは私に鬼界を救ってくれと言った。
 でも、何が何だかわからない私にはいきなりそんな事が
 出来る訳が無い。
 シコウとすったもんだした挙句、鬼界のバランスが崩れかけていて、
 私とシコウが協力して何とかしない事には人間界まで
 ダメになる事がわかった。
 それで私はシコウに色んな特訓を受けながら霊力の使い方を学び、
 何とかそれを食い止める事が出来たんだ。
 ……でも、その内に私達は恋に落ちた……」

ばあちゃんは切なそうな瞳をして、横にあった行灯のような物を見た。

「でも、その時はまだ巫女は清い乙女でなくてはならないと
 信じられていたんだ。
 後になって違う事がわかったんだけどね。
 だから、私達はお互いの気持ちに気付きながらも知らぬ振りをした。
 そして過去の文献を紐解いていくうちに、
 他の4族には始祖の時代からずっと琴の旋律が伝わっているのにも
 関わらず、何故か火族だけには3代前まで伝わっていなかった事が
 わかって、それを伝える為には私が自分の世界に戻らなければ
 ならない事がわかったんだ。
 だから私は自分の世界に戻ってきて、娘を産み、
 そしてその娘がミツキを産んだ。」

ばあちゃんが火族の巫女なのはわかった。
あの獅紋鏡と獅巫石の意味も。
そしてばあちゃんが召喚されて、シコウと一緒に鬼界を救った。
だけど……


……シコウはばあちゃんと恋に落ちていたの?
もしかして僕にキスをしたのは、僕の面影にばあちゃんを 重ねていた?
でも僕が行った時には誰も僕のような事例を知らないって言ってた。
じゃあ僕がこっちの世界に戻ってきてから……?


僕がそんなシリアスな疑問に浸っていると、

「あ、言い忘れてたけど、私のシコウはミツキのシコウの
 3代後だから。
 あんたのシコウじゃないから勘違いしないでおくれ。」

とばあちゃんが言う。
僕は、そう言えばばあちゃんってこういう人だったよな、と 頭をがっくり落とした。