| あれから2ヶ月。 僕は高校3年生になっていた。
 
結局僕は大学生になったスガヤさんと付き合っている。とは言っても、毎日携帯で話したり休みの日に一緒に服を買いに
行ったりして、家まで送ってくれたスガヤさんが僕の頬に軽くキスを
する位の付き合いだけど。
 今日も僕達は前から話題になっていた映画を一緒に見て、
他愛もない話をしながら僕の家に向かって歩いていた。
 オフホワイトのシャツに黒いチョーカーをして、
黒い細身のパンツを穿いているスガヤさんはすごくカッコイイ。
 この人が僕の事を好きだなんていまだに信じられない。
 
最近僕はこの人の事を少しずつ好きになり始めていると思う。いつも僕の気持ちを尊重してくれて、決して無理強いはしてこない。
 こういう穏やかな付き合いもいいのかもしれないと、そう思うように
なっていた。
 家の前に着き、送ってくれてありがとう、と言っていつも通り家に
入ろうとする僕の腕をスガヤさんが掴む。
 
「来週の土曜はミツキの誕生日でしょう?だから誕生日のお祝いを二人でしたいんだ。
 うちの親、土曜の朝から一泊で温泉に行くんだよ。
 だから泊まりに来ないか?」
 
……泊まり?泊まりって事はつまり……? 
僕が答えに困っていると 
「ミツキが嫌がる事は絶対しないから。でも僕達付き合い始めて2ヶ月だし、
 もう少し先に進んでもいいと思うんだけど?」
 
そう言って僕の顔を覗き込む。スガヤさんがいつも我慢してくれている事には気がついていた。
 きっとスガヤさんなら僕を大切にしてくれると思う。
 
一瞬目の前にシコウとのキスシーンが浮かんだけど、慌ててそれを
消し去る。このままじゃ僕はいつまでたっても前に進めない……
 だから僕は少し迷いながらも、うん、と頷いた。
 するとスガヤさんは、ホッと溜息をついて微笑んだ。
 
「良かった。これでもミツキに断られたらどうしようって、昨日は
 眠れなかったんだよ〜。」
 
そう言って僕をギュッと抱きしめ、僕の髪に軽くキスを落とす。そして、土曜の朝迎えに来るから、と笑いながら手を振って
帰って行った。
 僕も手を振り返しながら、これでいいんだよね、と思う。
 
きっと、手間のかかる僕がいなくなってシコウはホッとしただろう。それに僕の事ももう覚えてないかもしれない。
 僕もあの世界の事は忘れなきゃ。
 そしてスガヤさんと一緒に前を見て歩いていこう。
 その後の1週間は生徒会の仕事が忙しく、あっという間に過ぎ去った。
 でもその間も、夜になると欠かさずスガヤさんから携帯に電話が
入る。
 そしてその日あった色んな事をお互いに喋りながら、
最後には必ず、土曜楽しみにしてるよ、とスガヤさんが笑って
電話を切った。
 金曜の夜、一旦は布団に入ったものの何だか眠れなくて
夜中に目が覚めてしまった。
 寝る前にはまたスガヤさんと電話で話をしてたんだけど、
何となくいつも通りに話せなかった。
 スガヤさんとって決めたのに……
 シコウの事は忘れるって決めたはずなのに……
 そんな僕の迷いに気付かないスガヤさんはいつも通り、
明日楽しみにしてる、と言った。
 取り合えずお茶でも飲もうと、パジャマ代わりに着ていたTシャツと、
トランクスの上にジャージのハーフパンツだけ穿いて、真っ暗な
階段を下りた。
 
冷蔵庫に入っていたお茶を食器棚に置いてあったコップに注ぎ、
お茶を冷蔵庫にしまってから、一気にそれを飲み干す。コトン、と僕が流し台にコップを置いた時、不意にまた
あの気配がした。
 
バッと振り向いてみたが誰も居ない。でもあれは向こうの世界で僕がいつも感じてた、
多分ばあちゃんの気配……
 
黙って目を瞑り、その気配を探る。でもよくわからない。 
……取り合えずばあちゃんの部屋に行ってみよう…… 
僕はそう思って、寝ている両親を起こさないよう
静かにばあちゃんの部屋に向かった。 ばあちゃんの部屋の前に着くと、確かに中に誰かがいる気配がした。
 そっと扉を開ける。そして中を見て、僕は思わず
 
「だ、だれ……?」 
と言葉を漏らしてしまった…… 
 
 
 
       
   |