| 黙って下を向いたままの僕を見て、スガヤさんは、やっぱりそうか、と
言った。 そして横から僕の顔を覗き込んでくる。
 
「ねぇ、如月の好きな人って、うちの学校の人?」 
僕はそのまま横に首を振った。 
「じゃあその人と付き合ってるの?」 
もう一度首を横に振る。 
「如月の気持ちは相手に伝えたの?」 
今度は縦に振る。別にスガヤさんの質問に答えなきゃいけない訳じゃないんだけど、
僕の事を心配してくれてるのがわかるから、出来るだけ正直に
答えようと思った。
 
「相手の人はなんて?」 
「……迷惑だって……」 
そう答えると、スガヤさんははぁ〜と溜息をついて
ベンチの背凭れに両腕を投げ出し、そのまま少し黙ってしまった。 僕達が話をしている間に公園からは一人二人と人が帰り始め、
だんだん日が傾いてきた今ではほとんど人がいなくなっていた。
 
「……相手はどんな女性?同じ歳?それとも年上?」 
「多分年上…だけど……」 
僕はそれ以上答えられなかった。だって考えたら僕はシコウの歳を知らないし、ましてやシコウは
女性じゃない。
 でもスガヤさんはその答えを聞いて、何となくわかったらしい。
 そして、そっか、じゃあと言って
 
「如月、僕と付き合わないか?」 
と言った。 「え……?」
 
と驚いて顔を上げスガヤさんを見ると、僕を真剣な表情で見ていた。 
「僕は前から如月の事が気になっていた。とても元気で前向きだし、一緒に話しているだけで
 僕の方まで元気になるんだ。」
 
そう言って僕の髪に手を伸ばしてきた。こっちに帰って来てから一度も切っていない髪は、
もうそろそろ肩までつきそうな位に伸びている。
 スガヤさんは僕の顔にかかる髪をかき上げながら言う。
 
「本当は文化祭の時に告白しようと思ってた。でも何だか様子がおかしいし、僕の所に相談にも来てくれないし。
 だから卒業式まで待とうと思ってたんだ。
 でも最近他の奴らがうるさくなって来たから焦っちゃって。」
 
何度も何度も髪をかき上げられながら、この人の手は優しいと
感じる。すっかり日が暮れた公園には、もう人っ子一人いなくなっていた。
 「如月に好きな人がいるのはわかったから、
 今すぐ僕を好きになってくれとは言わない。
 でも、一緒にいるうちにきっと好きにならせてみせるから。
 だから他の奴らより一歩近くに僕を置いてくれないか?」
 
男女共に人気があり、僕も憧れていた人から
こんな風に告白されるなんて思ってもみなかった。 
スガヤさんは誠実で優しい人だし、
きっと僕もこの人といると穏やかに過ごせるんだと思う。実際この人と一緒にいる時間は、とても優しい時間だった。
 そして何より大学は高校のすぐ裏だから、
会いたい時にいつでも会える距離にいる。
 
それに比べてシコウといる時の僕は、
泣いたり笑ったり怒ったりちっとも気が休まる事が無かった。そしてあの赤い瞳で見詰められると、すごくドキドキして
胸が痛くなって……。
 
今もまだシコウの事を好きだと思う。でも、会いたくても会えない。
 この先会えるかどうかもわからない……
 
……シコウ、僕はどうしたらいい? 結局僕は、少し考えさせてください、と言った。
 真剣に告白してくれたスガヤさんに、いい加減な答えを
返したくなかったから。
 するとスガヤさんは両手で僕の顔を引き寄せ、チュッとおでこに
キスをする。
 僕が驚いていると、
 
「ここは君が許してくれるまで待つから。」 
と笑って僕の唇に人差し指で触れた。 
 
 
 
       
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