| 自分の世界に戻ってきてからもう半年が経つ。 無事に文化祭も終え、世代交代をした生徒会で、僕は書記から
生徒会副会長になっていた。
 
ここに戻って来た時に青々としていた木々達は、紅葉を終え、
冬を乗り切り、そしてまた少しずつ緑の芽を出し始めている。 
その後何度も向こうの世界に迷い込んだ場所に行ってみた。でもやはり何も起こる事はなく、ただ空しく家に帰るだけだった。
 それにばあちゃんの部屋も何度も見に行き、母に珍しいわね、と
言われながら琴を弾いたりもしてみた。
 でも何一つ変わった事はない。
 僕が本当に向こうの世界に行ったという証拠は、
いまだに点滅を続ける獅巫石のみだった。
 「如月、もう副会長の仕事には慣れたかい?」
 
「あ、会長。」 
生徒会室でボーっと窓の外を眺めていた僕に話しかけてきたのは、
前生徒会長の菅家(スガヤ)さん。前に僕を家まで送ってくれた人だ。
 スガヤさんは、僕はもう会長じゃないよ、とクスッと笑って
 
「ねぇ如月、もう仕事は終わったかい?もし帰れるなら一緒に帰らないか?」
 
と聞いてきた。あれ以来僕達はたまに駅まで一緒に帰っている。
 もうすぐ卒業を迎えるスガヤさんだけど、
僕達の学校は大学までエスカレータ式なので大学受験が無かった。
 なので会長を辞めた後も何かと生徒会室に顔を出しては
僕達に仕事を教えてくれていた。
 
「もう仕事は終わってますから帰れますよ。」 
そう言って鞄を持つと、じゃ行こうか、とスガヤさんは僕の前を
歩き始めた。 夕方の5時半。
 今日は小春日和だったので、この時間になってもまだ外は明るくて
暖かかった。
 
「この後何か用事ある?ちょっとだけ時間ないかな?」 
「?別に何も無いですからいいですよ?」 
「その先の公園で少し話をしようか。」 
そんな会話を交わし僕達は公園のベンチに座る。少し大きめのその公園にはまだ遊んでいる子供達がいて、
いくつかあるベンチにも僕達みたいな学生が何人か座っていた。
 僕が小さい頃公園で遊んでいた時は、夕方になるといつも
ばあちゃんが迎えに来てくれたんだっけ。
 そんな事を思いながら、公園の中を眺めていた。
 
「最近生徒会のメンバーの間でよく如月の事が話題になるんだ。」 
突然スガヤさんが話し出す。隣に座っている菅家さんを見ると、自分の膝に肘をつき、そのまま
公園を眺めている。
 
「……どんな話題ですか?」 
この話し方だとあまりいい事じゃないのかな?でも僕何かしたっけ? 
「ん〜、別に悪口とかじゃないよ?その逆かな。最近如月って妙に色っぽいよなって。同じ男なのにね。」
 
……何だそれ。イマイチよくわからなくて首を傾げている僕に、スガヤさんは
更に話を続ける。
 
「僕が見る限り、きっと文化祭の前後からだと思うんだけど。それまでは元気溌剌だった如月が、何だか愁いをおびた目を
 するようになったって。
 その目で見られると、同じ男だとわかっていてもドキッとしちゃう事が
 あるって。
 で、思い出したんだけど、文化祭のちょっと前僕が家まで送って
 行った事があったよね?
 あの時何かおかしいとは思ってたんだけど、
 やっぱり何かあったの?
 ……好きな人でも出来たとか。」
 僕は驚きながらも何も言えず、そのまま俯いた。
 僕は前の通り元気に学校で過ごすようにしていたし、
愁いを含んだ目、とか色気、とか言われてもさっぱりわからない。
 
でも、好きな人が出来たかと聞かれれば、それはそうなんだと思う。もう半年も会っていない、これから先会えるかどうかも、
どうやって暮らしているのかも何もわからないけれど。
 
それでも僕はいまだにシコウを忘れる事が出来なかった。 
 
 
 
       
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