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……え?確か僕はシコウの屋敷にいたはず。
それで、あの獅紋鏡の所で考え事をしてて……

「如月ぃ〜、もう文化祭は2週間後なんだよ?
 疲れてるのはわかるけど、会議中に書記に寝られたら
 困るんだけど?」

そんな会長の言葉を聞きながら、それでも状況を把握できない。
これは向こうの世界に行く直前に参加した会議だ。
でも、あの会議の時僕は寝たりなんかしなかったよ?
それに、向こうの世界にいる間に文化祭は終わっているはずだ。
それが何で2週間後?
戸惑っている僕に会長は苦笑しながら溜息をつくと、 如月が夢から醒めないから今日は解散、と言った。


何が何だかわからず、ボーっとしたまま家路につく。
服はいつの間にか制服に戻ってるし、 向こうの世界に置いてある筈の携帯や鞄などもみんな揃っていた。

あれは夢だったんだろうか?

でも、今見ている光景も以前僕が見たもの。
副会長が会長に向かって、同じ場所同じ格好で同じ冗談を 言っている。
それを周りで見ていた生徒会役員が記憶通り笑い転げ、 会長も同じ様に笑いながら同じ言葉を返す。

これってどういう事なんだろう?

そして駅前に着き、そこで皆と別れ、僕は一人で家に向かって帰る。
そしてその途中で向こうの世界に迷い込むんだ。
迷い込んだ先には……シコウがいる。
そう思った瞬間、僕の胸はズキンと痛んだ。
こんな気持ちが夢だというのか……?

「如月、大丈夫?会議の最中から何かおかしいけど。」

会長が聞いてくる。記憶にはないその行動にちょっと驚きながら、

「だ、大丈夫です。何か変な夢見たから。
 すいません、会議ダメにしちゃって。」

と謝ると、

「そんなの気にしなくていいんだよ。
 それより、やっぱりちょっと心配だから家まで送るね。」

と言いながら他の皆に別れを告げ、僕の帰る方向に 一緒に歩き出した。


道中、やっぱり悪いから、と何度も断ったのだけど、 今日は家まで送る、と会長は言い張った。
僕より一つ上で3年生の生徒会長は、僕が書記として生徒会に 入った時から何かと面倒を見てくれている。
頭が良くてスポーツが出来、その上とても気さくで話し易いとくれば、 当然男女共に人気がある。
そんな会長が僕の面倒を色々見てくれる事が、 僕は少し誇らしく感じていたものだった。


やがて向こうの世界に迷い込んだ場所に来る。
ふと足を止め、もしかしたら何かが起こるんじゃないかと 少しだけ期待しながら立ち止まってみた。
でも、何も起こらない。
そんな僕に、会長がどうしたの?と声をかけてくる。
その声に、何でもないです、と頭を横に振って答え僕達は 家に向かった。


やがて家の前に着き、わざわざありがとうございました、と会長に お礼を言う。

「僕が送りたかっただけだから気にしないで。
 それより変な夢ってどんな夢だったの?
 もし気になるなら、僕で良ければ話を聞くよ?」

会長はいつでもこうやって優しかった。

「ありがとうございます。でも大丈夫です。
 明日の会議では寝ないように気をつけますね。」

笑ってそう答えると、
いつでも遠慮なく相談してね、と言って僕の頭を軽くポンと叩き、 会長はそのまま帰って行った。