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「お前は人間、私は鬼神。
 所詮結ばれるはずが無いのだ。それがわかりながら何故?」

僕は必死で声を出す。

「……好き……だから。
 気付いたらシコウが好きになってた。
 結ばれないとわかってても、好きになるのを
 止められなかった……!」

僕はシコウを真っ直ぐに見詰め返した。
するとシコウも僕から目を放さずに言う。

「ミツキ、言霊というのを知っているか。
 言葉には魂が宿っているのだ。
 ……そのような言葉を軽々しく使うものではない。」

僕は思わずカッとする。

「か、軽々しくなんて言ってない!
 僕は本当にそう思ってるから言ったんだ!
 ひどいよ、シコウ……」

好きだから好きって言って、何が悪いの?
僕は下を向いて唇を噛む。
そうでもしていないと、せっかく止まった涙がまた出てしまいそうだ。
するとバサッと音がして、その音に顔を上げようとした瞬間、 いきなり体を担ぎ上げられた。


正面に座っていたシコウが立ち上がり、 僕の体を肩に担いで琴を越えさせ、そのまま下ろした。
間に挟まるものが何もなくなり、僕達はぴったりとくっついて 立っている事になる。

「な、なにす……」

何するんだよ!と言おうとしてシコウを見上げ、僕はそのまま 固まってしまった。
何故なら僕を射抜くように見ている真っ赤な目は更に攣り上がり、 その上先程まで薄っすらと見えていただけだったシコウのオーラが 今は炎の様に立ち昇っていたから。

……コレが鬼神……

肩を強く掴まれ、尖った赤い爪が僕の肩に食い込む。

「……お前の好きとはこういう事か?」

そう言っていきなり噛み付くように口付けてきた。


シコウのキスは容赦がなかった。
僕だってキスは初めてじゃないけど、唇が触れあう位のしか した事がない。
なのにシコウはその長い舌をイキナリ僕の口に捻じ込んできて、 奥で縮こまっている僕の舌を無理やり引き摺り出す。

「……ん、んんっ……」

何度も舌を吸い上げられ、唇を噛まれ、その激しさに眩暈がする。
僕の肩に食い込むシコウの爪は、今にも僕の皮膚を突き破って しまいそうだ。

「……う…ん…っ」

苦しくて喘ぎ声が漏れ、少しでも呼吸をしようと暴れるのに、 シコウは更に僕を追い詰める。


やがて膝がガクガクになり僕が立っていられなくなると、 急に肩からシコウの手が放され、僕はその場に崩れるように 座り込んだ。

はぁはぁと肩で息をしながら見上げる僕を、 シコウはその燃える様な目で見下ろしている。

「……お前はいきなりこの世界に放り込まれ、右も左もわからず
 不安になっていた。
 だから、たまたま最初に出会った私に恋をしていると
 錯覚しているだけだ。
 赤子(あかご)が最初に見た者を親と思うのと同じ事。
 いつか自分の世界に戻った時、今の思いが勘違いだったと
 わかる時が来る。」

「そんなこと……!」

シコウは僕から目を逸らした。

「それに私の感情が暴走を始めると、我自身にも我を止められぬ。
 …………今日の琴は見事であった。
 礼を言われる程の事はしておらぬが、その気持ちには感謝しよう。
 だがミツキ…………私に対する思いは忘れるがよい。」

そう言って僕に背を向け、部屋を出て行こうとする。

「ちょ、ちょっと待ってよ!
 忘れろって言われてそんな簡単に忘れる事なんか出来ないよ!」

僕は立ち上がりながら、その背中に向かって叫び返す。
するとシコウが顔だけ振り向いた。

「……ならばその思い、迷惑だと言っておこう……」

その言葉にへなへなとへたり込む僕を横目で見ながら、 今度こそシコウは出て行った。