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……獅紅が怖い。
心も体も恐怖に凍り付いて、今にもガタガタと震えだしそう
だった。
だけど、それでも、こんな獅紅にでさえも、僕はまた強く
強く惹かれてしまう……


獅紅は左手で僕の髪を鷲掴みにして右手で首をギュッと
締め付け、爛々と燃え上がる真っ赤な瞳で僕を見下ろしていた。

……完全に我を失ってる……

息が出来なくなり、急激に顔や頭に血が上っていくのを
感じながら、それでも全く抵抗する事が出来なかった。
だけど視線だけは必死で獅紅の目から離さない。

……気付いてよ、獅紅!
僕の思いに気付いて……!

すると獅紅が急激に手を緩めたので、いきなり流れ込んで
くる空気にむせて、ゲホゲホと咳が出て涙目になってしまう。
その直後、腹の底に響くほどの低い声で獅紅が口を開いた。

「……相手は男か?」

獅紅に嘘を吐くつもりは最初からない。
だからむせながらも、そのおかげでやっと少し体が動かせる
ようになったので、髪を掴まれたまま小さく頷いた。

「……その体を抱かせたのは我のみと承知している。
 それ故今まで何も言わずに来たが……いまだに
 忘れられぬのか?
 ……光鬼は我と離れて……そやつのいる元の世界に
 帰りたいのか……?」

いまだに爛々と光っている獅紅の目に、一瞬だけ苦しそうな
影が走った。
それを見た途端、どんな事をしてでも誤解を解かなければ
いけないと思った僕は、恐怖も何も全てかなぐり捨てて、髪を
掴まれたまま必死で首を横に振る。

「や…やだっっ!!
 もう二度と獅紅と離れたくなんかないよ!
 僕はただ……獅紅の元に帰れなくて、あのままスガヤさんと…
 付き合っていたとしても、それでも獅紅が好きだっただろう
 なって……そう思って……!」

勝手に涙が溢れ出すけど、そんなのには構っている余裕もなく
獅紅の着物にしがみついた。
もう二度とあんな辛い思いはしたくない。
もう二度と獅紅がいない世界になんか行きたくない……


すると鷲掴みにされていた髪を更に強い力で引っ張られ、
無理やり顎を上げさせられた僕の口に獅紅は噛み付いてくる。
そしていきなり口中を貪り尽くすそのキスに少しだけ血の味が
混じり、僕の唇には血が滲んでしまっているのだろうと
予測がついた。
けれど、いつも獅紅に抱かれる度に不思議に思う事だけど、
こんな風にいくら乱暴にされても僕の体はほとんど痛みを
感じる事はなく、代わりにゾクゾクする快感だけが脳まで
突き抜けていく。
そして次の日には跡形もなく傷も消えてしまうんだ。
それは獅紅の霊力のおかげなんだろうけど……


焼け付くような感覚が体中を襲い、獅紅の激情の焔に身も
心も焦がされるようだった。

「……我以外をその心に思う事、たとえどのような
 理由があれど、二度は許さぬぞ……」

尖った爪で胸の飾りを引っ掻かれると、ビクンと体が反応する。
いまだに髪を放してくれないせいでのけぞったままの首に
獅紅の長い舌が這い回り、時々噛み付かれる微かな痛みが逆に
快感となって、僕の腰にはうずうずする様な何とも言えない
欲望が溜まり始めた。
そして更に追い討ちをかけるように獅紅の手が触れていく
全ての場所に、次々と火を点けられていくような気がする。

獅紅の言葉に何度も何度も頷きながら、着物にしがみついたまま
獅紅を求めて泣いた。

こんなに怖いのに、こんなに乱暴なのに、それでもその獅紅を
求めずにはいられない。
僕を乱暴に翻弄し続ける、尖った真っ赤な爪を持つ大きな手にも、
僕を竦み上がらせてしまうこの赤い瞳にも、そのどれも全てに
全身が反応し、体中が獅紅を好きだと悲鳴をあげ続けている。
僕は一体、どこまで獅紅を好きになれば気が済むんだろう……?



※次は18禁※苦手な方はご注意を