アウトサイドワークス
21

 ジタンと風呂の同衾、お互い、あまり面白いことはなく、とりあえずのぼせないうちに上がる。288号は銀髪をそれなりに丁寧に、ジタンは金髪をぐしゃぐしゃに乾かして、「よーし」と上げたジタンの間延びした気合の声で、扉が開かれる。

 ビビは可愛い。其れは、彼だって理解しているところである。

 その「可愛い」は単なる立ち居振る舞いに限られない。自分たちを幸せにしようとする「愛情」を、小さな身体一杯に詰め込んで、でも収め切れなくて、破裂するようなやり方を以って自分たちに接する。そういう無茶で無謀で無邪気なところを、とにかくそういう言葉で形容したく思えるのである。

 ジタンが扉を開けて「おお」と感心したような声を出す。彼の肩越しにビビとブランクの姿を見て、288号も思わず「ああ……」と呟いていた。

 ビビは、綺麗なメイドさんの格好に着替えていた。そしてついさっきまでトランクス一枚という非常にだらしない姿でいたはずのブランクも、執事然としたあの姿に着替えている。

「ほら、お前らもそんなだらしねー格好してないで、とっとと服着ろよ。あとジタンは頭もどうにかしろ」

 ビビはソックスを穿いてヒールの高い靴まで履いて、足を揃えて佇んでいる。エルエイのような本職のメイドとはやはり違うのかも知れないが、少なくとも三人の男たちの目には及第点以上である。

 だって、どこの世界にこんな可愛い女装メイドが居るだろう。ただ「可愛い」だけじゃなくって、この子は僕らを愛している。

「なるほどなー」

 髪に櫛を通しながら、ジタンはにやにや笑っている。

「俺らがこの服着んのも今夜が最後だもんな。それに、こんな立派なお邸でなんてそうそう出来ねーし」

 あの、のどかで平和な家でも288号は少しだって不足を感じていない。其処に愛らしいメイドさんが居るという不可思議な事実だって十分に心を愉しませる。

 しかし、「それっぽいことしたほうが愉しいもんな!」と言うジタンに同意しないでもないのだ。

 どうせ最後には裸に近い格好になる。それを知りながらも、愉しむための努力を惜しんではいけない。自分たちにとって最上の瞬間と判っているから、それを輝かせるために、磨くのである。

「はい、お待たせしましたよ、っと」

 うん、とブランクはメイドさんの淹れたらしい紅茶を啜り、「お前らも座れ」とソファに招く。ビビが二人分を改めて淹れて、それぞれの前に置く。仕草の何となくぎこちないことは否定し難いが、少しばかり緊張して傅くのは微笑ましくもある。

 もうすっかり慣れてしまった香りの強い紅茶を、暫し三人して啜った。

「これ」

 とブランクが小瓶をポケットから取り出して、テーブルに置いた。鼈甲色の薬瓶である。

「今夜どうせ夜更かしするから、元気になる薬ね。もちろんビビも飲んでる」

「あまり薬ばっかりに頼るのも……」

「ああ、心配すんな。薬っつってもハーブみてーなもんだよ。明日の朝には身体の中から消えてるような優しいもん」

 ちら、とブランクはメイドさんを見る。

「ビビにも、もう飲んでもらってる。……おしとやかなばっかじゃない、すっげーエロくて、可愛くなるまで時間の問題」

 288号は、ビビの頬が風呂から上がって随分経つのにまだほんのり紅いことに気付く。いや、そればかりではない。目はほんの少し、潤んでいる。艶やかな唇と相俟って、其れはやたらに淫靡に映る。

「……ほら、ビビ。ちゃんと締めてないとダメだろ?」

 ブランクの指摘に、その足に目をやる。太腿までの純白のソックス、その右足の内腿に、何かが伝った跡が見える。

「悪い子だなあ……、床汚しちゃダメだろ?」

「ひゃ……っ」

 ひょいと腰に手を回して抱き寄せる。それだけで、敏感すぎる反応をビビが示すのを見て、

「砂漠の光か」

 と得心がいったようにジタンが言う。そう、とブランクが頷く。砂漠の光、熱病の特効薬として知られているが、薬の知識と変態性欲を併せ持つ者は、それを媚薬として使う。具体的には胎内へ挿入し、粘膜から直接吸収させることで局部を極めて敏感な状態にするのだ。始めは小さな珠の形を成す砂漠の光は胎内の圧力と温度で融解し、粘液と化してゆく。身体に吸収しきれずに溢れた分は、当然、其処から透明な液となって排出されるのである。

「ご、主人、さまぁ……」

 危うく紅茶を鼻から噴きそうになって、288号はむせる。

「どうなってる? お前のはしたないところをさ、俺たちに見せてごらん」

 ブランクの手の支えを失って、ぺたんと絨毯に膝を落としていたビビはどうにか一人で立ち上がると、背を向けて、スカートの裾を摘み上げた。細い太腿にぴったり吸い付くようなソックスの上、僅かに切れたいわゆる絶対領域。

 そして露わになる、黒とショッキングピンクの淫らな下着。

「あーあ、すげー、お尻ヌルヌルじゃん」

 覗きこんだジタンが嬉しそうに笑った通り、ビビの其処は濡れていた。真ッ白い双丘の狭間に細いストラップは食い込んで、その最深部からは確かに透明な液体が溢れ出している。

「ん、ん、だって……っ」

「言い訳しない」

 ぺち、とブランクがビビの尻を掌で優しく叩いた。

「言ったよな? ちゃんと締めてないと漏れてきちゃうって。それなのにこんなにしちゃうんだからなあ……?」

「俺らが慣らす手間が省けたじゃん」

「そりゃまあそうだ。けど、此処がこんな締まり悪くちゃ、俺らにご奉仕なんて出来んのかね」

 こちらで仕向けたことだと言うのに、ブランクは平然と散々なことを言う。それに相乗りしてジタンも「すっげー、超エロくて、みっともねー」と愉快そうに笑う。二人に本気でビビを苦しめるつもりはないのだと判っていても、耳にする288号としてははらはらしてしまうのだ。

「前は? 前はどんな風なってんの?」

 ジタンの言葉に、ビビは恥ずかしそうに振り向いて、俯いたまま、またスカートを捲り上げた。黒く小さく、薄く透ける布の中で、ビビの幼茎は視線に晒されて震えていた。先端から溢れたと思しき液体で布にはしっとりと濡れた染みが生じて、浮き上がるビビの輪郭がより以上に卑猥に映る。大きさがまるで違うことを差し引いても、288号の目にはとても同じ男の性器であることが信じられない。

「ビビ、……女の子のパンツ穿いてちんちんこんなにしちゃうエロいメイドさん、『どっちがいい』?」

 ブランクが、紅く染まった小さな耳へ言葉を挿し入れた。

「ど、っち……?」

「お前はいま、男の子なんだろうね? それとも女の子なのかな……」

 ふるふる、ビビが首を振る。「わかんなっ……」普段ならば、どんな格好をして居たって「男の子」と答えるに決まっているのに。

「どっちでもないのかもしれないねえ……。お前は男の子よりも女の子よりも可愛くってエロくって、そんな尺度じゃ測れない。お前は男の子にしては男のちんこ咥えるの好き過ぎるし、お尻にちんこ突っ込まれんのも大好きだ。だけど女の子と違って、自分にちんこ生えてて良かったって思ってる。ちっちゃくって皮余りのを、自分の右手で擦って精子出すの大好きだもんなー……?」

 魔法の言葉が囁きかける。ビビの右手が誘われるように下着の前へ近付いたのを、

「んあぁ……」

 ブランクが手首をそっと掴んで停める。

「下着をそんなぐしゅぐしゅにしちゃうような悪い子。お前はメイドなんだから、先ず自分の仕事をこなしてからだろう?」

 折り目のついたズボンのジッパーを下ろして、ブランクが勃起した性器を取り出した。

 288号は、ビビの目がはっきりとその色を変えるのを見る。

「お前の仕事は何だ? ビビ」

 すとん、と腰が抜けたようにビビは膝を落とし、うっとりと男性器を白手袋の両手で包み込むと、「ご主人さま、のこと、を、気持ちよく、する、こと……、です」と夢見心地に呟く。

「そう。でもお前は恵まれてるね。お前にとってこの仕事は愉しくって仕方がないんだろう」

 ビビは危うい笑顔さえ浮かべて、「ご主人さま」のペニスに頬を寄せる。

「そんなにこれが好きか?」

「ん……、大好き、おちんちん……、おちんちん大好き……、ごしゅじ、さま、ぼく、に、ご主人さまのおちんちん、ください……」

 甘ったるい吐息さえ、ブランクは感じているだろう。それでも彼は表情を崩さず、「好きにするがいいよ」と冷徹に言い放つ。

 ビビはすぐさま、ブランクのペニスに食い付いた。

「うわ……」

 と、288号が思わず息を呑む。口一杯に頬張ったペニスを、ビビは自分の喉の詰まることも厭わず深々と口の中へ収めつつ、頭を振る。それはブランクにとって心地良い以上に、ビビにとっての欲をも満たすようなフェラチオだ。それでもビビを、288号が恐ろしいと思うのは、歯を立てないように、「ご主人さま」の快楽のために、無意識の内にきちんと気を払っているということだ。息継ぎのために口を外し、自らの塗した唾液で顔の濡れることも気にせず陰嚢へ舌を這わせる。晒されたブランクの性器は確かに傷一つない。

「……なあ、ブランク、俺、ビビにかけちゃっていい?」

 もう黙って見ていることなど出来ないと立ち上がったジタンは、既にベルトを外しにかかっている。

「好きにしろよ、俺だけのメイドさんじゃない」

「だってさ。あんたも何座ってんだ」

「え、え、……僕?」

「そう、そこの銀髪の、ちんこ勃起させてるくせに冷静ぶってるそこのあんた。ぶっかけんだったら多い方がいいだろ、メイドさんにもそっちの方がご褒美になる」

 無理矢理に引っ張られて、あくまで「仕方なく」の体で288号も立ち上がる。依然としてブランクへの奉仕を続けるビビの頬に性器の先端を当てて、ジタンが乱暴に自分の性器を扱き始めた。ビビは少しも嫌がらず、右手をジタンの陰嚢に這わせている。

 そして、左手ではズボンの上から、288号の確かに勃起している性器に触れて。

 ……何だか、まともで居るのが馬鹿みたいに思えてくる。

 ビビが幸せならば、それでいいか。僕がまともで居るよりも、馬鹿で居た方がビビが嬉しいと思ってくれるならば。最後にそういう言い訳をして、288号もペニスを取り出した。

「……やっべ……、ビビ、もう……、いくよ」

 それまでずっと「ご主人さま」然とした言葉を選んでいたブランクが、妙に生々しい口調で言った。

「やっとかよ……、おせーよ……!」

 ジタンが既に極まった声を上げて、ビビの柔らかく瑞々しい頬へと、精液を浴びせる。ほぼ同時に射精に至ったブランクは腰を引き、その顔面へと。

「あ……はぁあ……っ、ごしゅじんさまの……っ」

 とろりと微笑んで、顔を伝う精液を拭いもしないまま、ビビは僅かに震える。そしてそのまま、288号の性器へと口を付ける。自分の右手とは比べ物にならない快感が288号を包み込む。高まった鼓動が二三度、聴こえなくなった。

 見上げるビビと目が合う。

 涙を浮かべた目は、心底から嬉しそうなのだ。

 正直、その目が困る。同じ色をしていながら、まるで違う光を孕み、そもそも本当に同じ色だったのかどうかさえ怪しくなってくる。深く、それでいて鮮明な銀色の瞳だ。

 長い睫毛に縁取られ、優しい輪郭をしているというのに、どこか射抜くような強さを見る者に感じさせる。とはいえそれはこういうときに限ったことで、普段はとても柔らかな光を湛えて居るのだが。

「……ッ……ビビ……っ」

 288号は本当にこういうとき、困るのが常だった。愛しい愛しいビビ、大切な子、それなのに、壊してしまいそうになる。「壊していいよ」とビビは言うし、「壊れないよ」と挑発するのだろう。自分のなりたくない自分に、どこまでも堕していくように思えて辛い。

 呼吸を整えたブランクが、下卑た笑いを浮かべて言う。「ご褒美だ。悦ぶぜ」

 実際そうだと判っていて、知っていて、それでこれだけ罪深さを感じるのは、ある種の趣味かもしれないけれど。だってもう、こみ上げている、今更抜いたところで。

「ふ、あっ……はぁあ……」

 その顔面にばらまくのが関の山だ。

 清潔感溢れるメイドさんの服にまで、288号は精液を散らした。汚すだけ汚してから、圧倒的な罪悪感に苛まれるのだから、それはもう、完全に趣味の領域である。自責無しでは居られないと言うのなら、最初から其れをしないという選択肢だってあるのに、彼はそれを選ぼうともしない。

 顔中、男たちの放った精液に塗れたビビは、特有の青草の匂いに包まれて恍惚の表情を浮かべている。ブランクは「仕事」という言葉を選んだが、ビビ自身、当然そんな風には思っていない。ただ、ただ、悦ばしいだけの行為、少年自身の快楽と繋がるだけの。

「ご主人さまぁ……、ぼく、おしごと、ちゃんとしました……、だから」

 へたりと座ったまま、ビビはスカートの裾を摘み上げた。小さなビビのペニスさえ収めるのに苦労している下着は晒される。染みは、先程より明らかに広がっている。

「あーあ、……すっげーや、ビビのちんこ、ガマン汁超漏らしてんの」

 ジタンは下品な言葉を選んで使い、「どうする?」とブランクに指示を仰ぐ。

「うん、……そうだな。俺らは一応一回ずつはいったし、まあ仕事としては十分であるような気がしないでもない」

 勿体をつけて彼は言う。普段はただ、愛でるだけ、幸せにするだけという気持ちでビビの裸身に臨んでいるに違いない彼は、その目を今は敢えて邪悪な色に染めて、ビビを見下ろしている。

 普段の、優しく頼もしい笑顔ならばとても良い男なのに、いまはその顔に走る縫い目と相俟って凶悪にしか見えない。

「でも、何だろうな、もうちょっと可愛がりたい気もするよな」


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