アウトサイドワークス
22

 ビビの軽い身体をひょいと抱き上げて膝に乗せたブランクは、

「メイドさんがメイドさんとして可愛いカッコしてんのは、何でだと思う?」

 ビビに、そして他の二人の男に、等分な訊き方をした。答えは誰の口からもない。

 そもそもメイド服は仕事着である以上、清純さのメタファーとも感じられる白いレースエプロン、貞淑さの換言とも取れる紺のスカートやスーツなどは、機能性を優先したものと捉えることも出来るだろう。その白いグローブは、掃除のときの汚れが直に手に着かないようにするため。逆に言えばメイド服とは、極めて地味な服装なのだ。

 しかし、ブランクとジタン、それに288号がそうであるように、男心をくすぐるものであることは間違いない。だいたいほぼすべての男は、目の前にスカートがあったらそれを捲ってみたいと思うような生き物なのである。

「じゃあ、質問変えてみようか。……俺たちがこの邸に客人として招かれたとしよう。そのとき、玄関に迎えに来るのは誰だ?」

「……メイド、さん……?」

 今日までそういう仕事をしてきたビビが、甘ったるい吐息を漏らしながら答えた。その下半身でエロティック・フォルムの下着の中、腺液をじわじわ漏らしてすっかり濡らして透かした状況下であったとしても、この少年は「おりこうさん」の「いい子」である。

「正解。……判るよな? メイドさん、それとあと、執事とかそういうのは、この邸を訪れる客からすれば、最初に接する相手なんだ。その相手がさ、みすぼらしいカッコしてたり、態度悪かったりさ、してたら、邸そのものに対しての印象が悪くなるだろ? だからメイドさんにはさ、機能的には十分で、しかも可愛いカッコをさせようって、邸の主人はみんな思うんだよ。そう考えればメイドさんが可愛いのは自然なことだよな」

 もちろん、とブランクは付け加える。「ビビが今日までこの邸で働いてる間、……まー、直接お客さんに接することはなかっただろうけどさ、お邸のあっちこっちでちゃーんと働いてる姿を見掛けた人だっていただろうよ。そういうの見りゃ、『教育が行き届いてるだけじゃなくって、可愛いメイドさんがいる、いい邸だ』って思われる。でもって、それはあのミ・ロードにとってもプラスなことだよな」

 そうなのだろうか、そうだったら、……エルエイに迷惑をかけずに済んだってことだから、きっと、いいことだ……。

「メイドさんは働くだけじゃなくて、目で見て楽しませるものである……、っつーことか」

 ジタンが少々自信なさげに訊いた。

「ま、そういうことだな。ビビが可愛いことは世界中の誰からも同意を得られる。俺らの家にしろ、誰かが訪ねて来たとしてだ、俺らが出て来るよりもビビが『いらっしゃいませ』っつった方が、その『誰か』だって気分いいだろうがよ」

 288号も、理解したような顔をしていた。もちろんこの男もビビが可愛くて可愛くて仕方がないと思っているから、実感としてあるだろう。……ブランクとジタンが部屋でいかにだらしない格好で過ごしているかを知っているから、余計に。

「で」

 精液を浴びた顔を、丹念に拭き清めてブランクは言う。「……俺たちの、俺たちだけの、俺たちのためだけのメイドさんがどんだけ可愛いか、でもって、どんだけエロいか。果たしてそれは主である俺たちが本当に『欲しい』って思えるもんなのかどうか」

「人身売買みたいな言い方をするべきではないと思うよ」

 288号がチクリと刺した。ただ、人を金で雇って働かせるとなれば、多少なりともそういう側面が生じてしまうことは彼も判っているはずだ。

「んで?」

 ジタンがしゃがんで、ブランクの膝の上のビビを見上げる。「要するにだ、ビビが俺らに『買われる』ぐらい可愛くって魅力的なメイドさんだっつーことを証明できればそれでいい訳だな?」

「そういうことだ。……テメェはこういうことになると勘が鋭くなるんだな」

 288号が口にし掛けた言葉を飲み込んだ。僕たち三人の誰がビビを「買う」と言うのか。躍起になって値段を釣り上げて、誰が得をすると言うのか。……ビビが欲しくてたまらないのは当たり前のこと、とは言え、

「……そうだね」

 と調子を合わせることぐらいは平気で出来る聡明な男だった。

「ビビがどれぐらい可愛いか……、どれぐらいえっちな子か。君は僕らの家の看板な訳だから……、自分の優秀さを僕らに教えておくことは重要だと思うよ」

 真面目で、恐らく三人の中で誰よりもビビを優先して物を考える288号がそうまで言ったことは、どうやらビビには大きな意味を持った。ブランクが膝からビビを下ろす。しどけなく足を広げ、欲深な少年ペニスで下着を濡らす恋人に、

「見せてごらん、ビビ」

 優しく、主として促す。

 頭の中のほぼすべてが性の悦びを求めることで一杯になっているビビにとって、それは命令でも何でもなく……、ただ、欲しいものを手に入れるために、いっそ積極的にしなければいけないと自らに課していることでもあった。


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