アウトサイドワークス

06

 

 ジタンだって疲れていた。「ミ・ロード」の尊大な態度への苛立ちに始まり、だらだらしていたとはいえ不慣れな警備の仕事、その上、アルコを家まで送って世話をしてやり、晩飯も碌なものを食わなかった。更には興味本位での宝物庫の物色。黒魔道士の村では少しの家事を除けば日長一日だらだらと過ごしているのだから、本日彼の身体に掛かった負荷は相当量。実際、足は少々だるい。明日のことを考えればさっさと寝てしまうのが賢明であるとはジタンだって判っているのだ。

 その上、ジタンだってビビを愛している。まだ未熟なる人間なりに、心底から少年のことを愛しているのだ。恐らくは自分以上に疲れているであろうビビのことを起こしてまで自分の欲を果たすことはさすがに出来かねた。

 それでも悶々として、夜中に少々散歩など出掛けて――当人は守衛に見咎められたとき「警備の延長線上」という言い方をした――戻ってきたら、すんなりと眠りに落ちた。身体が疲れていたのも手伝って、あまりいい夢を見なかった感覚がある。その上翌朝目が覚めたのは何だかやたらに早い時間で、初冬の空が青白かった。

 疲労感が抜けていない。下半身でわだかまっている。小便がしにくくて仕方が無かった。ついてない夜を超え、ついてない朝を迎え。こんなんだったら夕べビビの寝顔で一発抜いときゃよかったんだそうしたらもっとすっきり爽やかなお目覚めだったのかもしれない。ああ、だりぃなあ、風呂沸かして入ろうかなあ、……そうかどうせビビも入んなきゃいけないから……。

 浴槽に湯を溜めつつ、広い窓辺で一服をし、ふと気配を感じて振り返ると寝癖頭のビビが眼を擦って立っていた。

「……おお……、おはよう」

「ん」

「まだ寝てていいんだぞ」

「ん……」

 さすがにメイド服はもうあちこち皺になっている。やはり脱がせてから寝かせるべきだったに違いないが、ジタンの見ている前で脱がせれば収拾がつかなくなるというブランクの判断は、恐らく正しかった。

「でも、目、覚めちゃったから。起きる」

「じゃあ今風呂の支度してるからさ、入ろうぜ」

「お風呂……、そっか、夕べ入らなかった……」

 ジタンの口からそういう種類の言葉が出てくることを、恐らく少年は本能的に察知していた。

「一緒に入ろうぜ」

 そして言葉の裏に在るものを、ビビは一から十まで感じることが出来る。寝起きであまり回らない頭であっても、聡明な少年ははっきりと理解して、

「うん」

 と頷くのだ。

 銀の髪を撫ぜる自分の手が鬱陶しいくらいに熱くなっていることをジタンは感じる。すぐにタオルを支度して、ビビをひょいと抱き上げる。ブランクと288号は気付いているのかいないのか判らないが、一言も発さず目も閉じたまま、今はジタンの自由にさせるつもりのようだ。

 中庭を見下ろす窓付きの広い浴室には、徐々に朝の光が漏れ込んで来る。湯気はきらきらと輝き、恐らく随分と寒いはずの外に比べ、浴室の中の緩やかな温かさは其れそのものが幸福と呼ぶに相応しい。ジタンは身を屈めビビは背伸びをしての口付けのいくつかのあとで、ビビはほんの少し困惑して、

「……服、脱がないの……?」

 と問う。少年はまだスカートだって下ろしていない。一方でジタンは既に全裸である。

「んー……、せっかくメイドさんなんだし、ね。ほら、メイドさんのカッコしてるときのビビはメイドさんだから」

 意味の通らない言葉でも、ジタンの口から発されたときにはビビの中で妙に重みを持ってしまうようだ。判ったような判らないような気持ちで、しかしビビは頷く。

「……でも、ジタン、寒くない? お布団のほうがあったかいよ」

「全然寒くねーし、布団だとあいつら起こしちゃうだろ?」

 言いながら、まだ乾いたタイルに座り、ビビを招く。一応の納得をするには十分で、ビビは素直にジタンの胡坐の中に収まった。

「ちっちゃくって可愛い、俺の恋人はメイドさん。大好き」

 恋人同士だから、当然セックスをする。その取っ掛かりとしてキスをする。ビビの身体の小ささは日々に感じることではあるけれど、こと膝に乗せたときにほとんど負担を感じないことで、ジタンだって「俺が護ってあげなくちゃ」などと凛々しい気持ちになるのだ。ビビの温かくて柔らかな掌は背中に回りしっかりと抱き着いて、ジタンの身体が冷えないように少年なりの努力をしていた。

 その掌を取って、もっと温めてとビビのスカートの裾に丁度包まれる格好の自分の性器へと導く。帯びた熱に、一瞬ビビの身体が強張り、唇が離れた。紅くなった頬は瑞々しく、其処から顎の下へ辿り、ブラウスの上から乳首を探り当てて触れればぴくんと一つ震える。スカートを捲って確かめるまでも無く、ビビが興奮していることくらいジタンには把握できる。それでも、一日は始まったばかり、陽の角度から計算すればまだたっぷりと時間はある。

 ビビの掌がペニスに当てられる。小さな口が開いたままだ。ブランクに言わせれば「粗末」ではあるが、少年自身のものとはサイズもフォルムもまるで違う。繰返し見たところで、同じものとは思えない其れにビビは眼を奪われるようだ。ブラウスのボタンを二つ外し、指を忍ばせて小さな乳首を刺激して震わせてもなお、ビビはジタンの性器を愛撫しながら視線を外さない。

「……ビビ、口開いてるぞ」

 指摘したら、ようやく眼を上げた。羞恥心に駆られて右左行き過ぎる視線を、掲げた指に留める。

「ビビはいろんなことちゃんと出来るいい子だけど、お口はえっちでだらしないよなー、指咥える癖、まだ治ってねーもんな?」

 幼いからこそ許されるその小さな癖の理由を、ジタンとブランクは「ちんこ咥えるの好きだもんな」と定義した。

 その乱暴な考察は、しかし的を射ているのだろう。掲げた指を舐める舌の動きは、ペニスを咥えるときのものと何ら変わりはない。ジタンが少しずつその指を下げて行けば、それにきちんと付いて来る。

「んぁ……」

 指が抜かれると、僅かに寂しそうな声を上げる。しかし、目の前にはいきり立つ性器がある。

「おちんちん……」

 唇の端は既に唾液で濡れている。ビビは清楚な顔に欲深な光を宿して一度ジタンを見上げる。

「咥えたい?」

「ん……、おちんちん……、ジタンの、したい」

「してくれんなら、喜んで。二重の意味でお前のお口が大好きな俺のちんこだよ」

 まだブラウスのボタンが二つ外れただけ、メイド服に身を包んでいればこそ、少年は無垢な魂しか備えて居ないように見える。多くの者は騙されるだろう。

 俺たちだけ知ってりゃいいんだとジタンは決め付ける。

「ん、ん……、おちんちんの……、匂い……」

 そんなことを口走りながらペニスに鼻を当てて陶然とするような少年であることを、自分たちだけが知っていればいいのだ。

 先端にビビの唇が当てられた。もう我慢汁出てたかなとジタンが思ったのは、その先端に舌先がちろりと当てられたからだ。腺液の潮の味が好きなビビは、もっと欲しいと言うように繰り返し尿道口を舐める。

「そんなたくさんは出ないよ」

「ん、ち、違うもん……」

 否定するように、ビビは茎へと舌を辿らせた。ただ其処が気持ちよくなれば良いと思った、言う代わりに、指先で濡れた先端を撫ぜる。茎に丹念な口付けを享けながら、自分の性器の隣に愛しい少年の愛らしい顔が在る景色を見下ろすジタンは、胸を押されたような溜め息を吐き出した。

 馴染みの景色ではあるけれど。

「あは……、ジタン、の、おちんちん、ぴくぴくしてる……。きもちいぃ……?」

 ビビはジタンの顔にではなく、ペニスそのものに訊いた。「気持ちいいよ、すっげー気持ちいい」と代弁し、今度は意図して一度ペニスを震わせて見せた。

「もっと気持ちよくしたら……、せーし、出してくれる……?」

「そりゃあ……、溜まってるもん。濃いぃのが一杯出てくるよ」

「……ほんと? 溜まってるの? ここ?」

 細い指が陰嚢を撫ぜる。ビビの其処は極端なほどに性感帯だが、ジタンにとっては、……しかしその指が触れるのならば、間違いなく気持ちいい。

 言葉の何処にも混ぜないようにと気を配ったのに、

「だって、……昨日してねえべさ」

 少し、咎めるような響きを混ぜてしまったことを後悔させないように、「だから」とビビは言う。

「いっぱい……、気持ちよく、してあげる、おちんちん……だから、いっぱい、出して、ね? 僕のお口、に、せーし、いっぱい……、ね? ジタン」

 言葉の最後に、顔を上げた。眼が合った。きっとそういう顔で男たちが喜ぶのだということを、少年は知っているのだ。亀頭に舌を当てて、微笑んだ。

 そんなあざとい、正解だ。

 ビビの口に深々と咥え込まれた。笑顔の余韻で朦朧としたところに、柔らかな頬肉と舌の感触が襲い来る。

「すっげー……、気持ちぃ……!」

 口腔愛撫と実際の性交の間には大きな隔たりがある、と今のところビビの中にしか挿入したことのないジタンは思う。ビビのアソコは俺のちんこでもキツいくらいで、だからフェラチオで感じるのとは全然違うよな、と。

 どちらが好きということもない、寧ろ「全然違う」でよかったと思っている。つまりはビビは、一粒で二度美味しい。これからこの口の中で果てる。しかし当然、胎内に種付けしないでは終われないのである。そして一度目と二度目の間には少々のタイムラグがある。其処が要するにビビのためのラグタイムである。

 不器用なはずの舌の動きといい、苦しくないはずのない頭の動きといい、ビビは本当に一生懸命だ。言うなれば恋愛生物。愛しい人恋しい人の幸福のためならば、小さな身体をどう使おうが構わないと信じている。小さな口、しかし歯は当たらない。先端を上顎と舌の付け根で挟むように搾りながら、舌先は小刻みに左右に動かし、唇は根元を挟む。ああ俺「粗末」でよかったと、ジタンはつくづく感じて、得意げになったりもするのだ。

 渾身の――と言ってあげたい――フェラチオの前で、粗末な上に耐久性もさほどないジタンはすぐに音を上げた。

「やばい……、もう、いくよ、ビビ、……出すよ……!」

 喉へと叩きつける精液に怯むことなくビビはジタンの震えが収まるまで口の中に収めたままで、やがて大事そうに口中の精液を飲み込む。顔を上げたビビを、一体どんな顔で迎えればいいのか判らなくて、ジタンは呆けたような顔で居た。しかしビビはにっこりと微笑む。

「いっぱい」

 何を貰えるよりも其れが嬉しいという顔をしている。そんな顔を見せられれば、勇気を得たような気になる。そうかそうか、俺はやっぱり変態で居ていいんだな、寧ろ変態で居た方がいいんだな。

「えっちな子。そんなに精子が好きかい」

 そう指摘すると、座りなおしたビビはさすがに紅くなって、僅かに唇を尖らす。相変わらずキスをしてあげたいと万人が思うような唇だが、ついさっきまで男の性器を咥えていたのだ。「違うもん、……せーしが好きなんじゃなくって……」

「俺のちんこから出たから好きなんだよな?」

 こっくり、頷く。「……ジタンのだから、好きなんだもん」

 ジタンは大いに気を良くする。誰より愛されたいと願うこの子は幸福なことに愛されるだけのものを全て持ち合わせているのだった。

「でもって、メイドさんは精液呑んだだけじゃ満足しないんだよな? 乳首もいっぱいいじって欲しいしおま○こン中に出してもらいたいよな? エロいこといっぱいしてもらえないと満足しないんだよな?」

 同じほどの性欲を持っていても、いつでも慎ましい288号とは違う。ジタンは敢えて下品な言い回しを選ぶ。当然ビビは頬を真ッ赤に染めるが、しかし品位を保とうが棄てようがして欲しいことは同じ。

「……っん、して、ほしい……、いっぱい、して欲しいよう……」

 ビビの仕草だけ見れば、玩具やお菓子を欲しいと行っているようにしか見えまい。「了解。んーじゃあ、スカートの中どうなってんのか見せてよ」実際、閉じた扉を開いて初めて判る。丈の短いスカートの裾を摘んで持ち上げると、昨日から穿いたままの下着が露わとなる。

 ビビが穿いているのはごく普通の白い子供のパンツである。

 本来ジタンやブランクがビビにメイド服を着せるときには、きちんとパンツも穿きかえさせる。もちろん普通の子供パンツも可愛いとは思う、けれど、メイドさん、それもとびきりえっちなメイドさんが穿くのなら、やはりそれに即したフォルムであったりカラーであったり、ついでにフリルや透明感が必要だと男たちは思っている。

 それでも、結局のところ男の子であるビビには、男の子のパンツが一番自然で似合うのである。丸一日以上穿きっ放しだから、いい匂いするしね……、「ひゃっ……」変態を自認して、ジタンは嗅ぐ。

「んー? ……普段はもうちょっと良い匂いがするんだけどなー? ビビのおちんちんの、おしっこのさ、恥ずかしい匂いが」

 言いながら、わざとすんすん音を立てて嗅いでみせる。ビビは恥ずかしそうに身を捩って、「だって……」と声を絞り出す。

「ここの、おうちの、おトイレ、広くて……っ」

「トイレ? 広い?」

「だから……っ、座って、したの……、そしたら、その、紙が、あったから、……座ってするとき、は、おちんちん、拭いた方がいいのかな、って……、だから」

 別にそんな決まりはねーべさ、と思いつつ、幼い思い込みが愛らしくてビビはくしゅくしゅと鼻先で下着の尖りを愛撫した。

「そっか。女の子みたいだなー。じゃあビビのパンツは今朝も綺麗なわけだ。……って、別に普段汚れてるわけじゃないけどな?」

 汚れてても、其れは其れで可愛いと思うし非常に実用的だ。要はどっちだっていいのである。

「俺は、馬鹿だけどさ。でも、ビビの可愛いパンツについて語れるくらいの知識は持ってると思うんだよな。何色のパンツはどうエロいとか、こういうフリルがこうエロいとかね。ただ、匂いはなー言葉じゃ伝わんねーからなー……」

 馬鹿を自覚した上で言えば何だって許されるとジタンは思っているのかもしれないが、言っていい事と悪いことが世の中にはある。然るに、ビビの前であればどちらだって許されてしまう。尚悪い。

「もう……、もう、ジタンっ、パンツ、濡れちゃうよう……」

 ビビがそんな声を上げた。一瞬、脱がせるのに躊躇いが生じたのは、このまま射精させて「お漏らししたみたい」と言いたいからだ。それでも、朝っぱらから其処までするのはどうよ俺。自制心が働いたわけではない。

「したら、脱ぐか?」

「ん……、脱ぎたい」

「そっか、もうそんな出そうなんだ?」

 要らぬことを言ってビビを困らせる手間なら幾らだって払う。しかし立ち上がるビビに手を貸す手間だって払える。

 スカートの中に手を入れて、ビビがパンツを脱ぐ姿を見ながら、「ああ、うん、これはこれですごくいい」と思ったことをそのまま口に出して、ビビから脱ぎたての下着を受け取った。それをどうするかといえば、わざわざ本人の見ている前で引っ繰り返して、「……へへ」と不気味な笑いを零しながら、その部分の小さな染みを指摘するのだ。

 何の匂い、と問われれば。

 んー、何かこういう匂いの香草ってあったよな。何て名前だったか忘れたけど。前にすげー辛くて甘いカレーをブランクが拵えたことが在った、そのときに使った香草だ。甘いようなしょっぱいような匂いの。

「もう、もう、やめてよ、そういうの恥ずかしいよ」

「うん、当然ビビが恥ずかしいだろうなって思ってやってんだもん」

「だ、だったらっ」

 恥ずかしがるビビは可愛いもんな? んでもって恋人が可愛いって気付いたら、もっともっと可愛くしてあげたくなるもん。真理。

 そういうことまで用意する余裕など、もうジタンにはなかった。

「そりゃーね、本体の方がいい匂いに決まってるもんな」

 スカートの中に頭を突っ込んで、存分に、脳内を匂いで満たす。ビビがスカートの上から頭を抑えて抗うが、まるで堪えないで鼻先に幼茎を当てて嗅ぐ。ビビがどんなに気を遣ったって残る匂いはジタンの下半身に針の形で刺さるのだ。股の下から手を入れてつるりと愛らしい尻にも触れてやれば、ビビの抗いは最早形すら保てないものとなり、どうしても漏れてしまう声を何とか押しとどめるために口元へ当てられるばかりとなる。さすがにそろそろ、ね。とろとろしてるし。

「じ、たっ……! 出るっ……、もぉ……いっちゃうよぉお!」

 どうぞ。

 口に含んだ性器が弾む、何度味わっても飽きない感触に心が躍る。品性の欠片もないジタンだが、ビビのくれたスープは一滴も零さないで飲み込んで、スカートの中から顔を上げた。ビビはかすかな震えを身に走らせて、ジタンを見下ろしていた。丁度眼の高さでスカートの中に尖った幼芯が、紺の清純な布を持ち上げているのが途轍もなく淫らに思える。

「……ああ、もう、んっとにエロいね、ビビは、すごいね」

 溜め息と共にジタンは言う。ビビは「もう」と怒った声で、しかし優しく優しくジタンの髪を掴むばかりだ。

 嫌と、言うはずもないことを判った上で、

「あのさ、ビビさ、俺、入れちゃっていい? ほら、もうこんなギンギンだし、……お前のお尻も俺の入れれば気持ちよくなれちゃうし、もちろん俺も気持ちよくなっちゃうし、……入れていいよね?」

 ジタンはそういう風に下手に出て訊く。僅かにビビの誇りを護ったつもりだ、「俺のために、ビビが入れさしてくれたら嬉しいんだけどなあ」

「まだ……、朝ごはんだって食べてないのに……」

「朝ごはん? いま呑んだよ。ビビだってさっき俺の呑んだべ」

「……さっきの、朝ごはんなの……?」

「朝の牛乳。俺の、ビビの、搾りたてミルク。……そうだ、ついでにさ、んーと、ミルクだけじゃなくってね」

 立ち上がり後ろから抱き、指を唇に当ててやれば、心得たように少年はジタンの指を舐る。浴室の大きな鏡には、メイド服少年に対して性的行為に及ぶ変態がくっきりと映っている、……防曇加工してやがんの、俺が目障りだなあ……。

 スカートを捲り、少年の唾液で濡れた指を、掌に吸い付くような瑞々しさを帯び、僅かに紅を纏ったような臀部の奥へと忍ばせる。

「……ビビ、ちんこ、見して。スカート捲ってさ」

 入口は既にヒクヒクと震え、ジタンの指とそれ以上の圧力を求めている。しかし鏡に映る少年はあくまでメイド服、清純の象徴に身を固めていて、ただ後ろから品のない笑みを浮かべて悪戯をする自分ばかり変態のように見えている。

 ビビはちゃんと「こっち」来てくれんべさ。

 頭の悪いジタンだが、ことビビに関しては恐らく誰よりも聡明だ。少年と過ごした時間が一番長いぶん、ビビが自分の期待にこたえてくれないはずがないと信じられる。

 実際、そうなのだから仕方がない。ビビは震える指でスカートの裾を摘んで、持ち上げる。鏡には清純なはずのメイドなのに――そしてメイドである以上は女の子であるはずなのに――少年のシンボルをきつく勃起させている姿が映し出される。

「あはは……、すごいねビビ、こうやって見ると、ホントにお前がえっちな子なんだって判っちゃうね……。おりこうさんのメイドさんなのに、スカートの中にはこんなにおっきなおちんちん隠してたんだねぇ」

 こういうことを言ってもビビがスカートを離すことはないという確信をも、ジタンは握り締めている。「見て。目ぇ逸らしたらダメだよ、ほら……、すっごい、立派な『男の子』だな、ビビ」もちろんビビの其処がまだ幼く小さいものだということはよく知っている。知っていて、言うのだ。そして可哀想と思いながらも、敢えて苛めるのである。

「だっ……て、僕……っ、男の子だもんっ……! メイドさんのかっこしてても、男の子だもん……!」

「うん、そうだよ。ビビは男の子。そこらの女の子よりもずっと、世界で誰より可愛い男の子。……だからおしっこするときは座ってすんじゃねーよな? 男の子は立ってするもんだろ? 覚えてる? お前が最初に俺におしっこするとこ見してくれたときもさ、ちゃんと立ってしてたもんな?」

 こく、こく、とビビは頷く。あのマダイン=サリの崖の上で、まだビビはジタンを「ともだち」だと思っていた。あのとき既にジタンがかぐろい欲を自分の中に宿していたことも知らずに。

「……起きたばっかだから、出来るだろ?」

 ビビの「入口」がきゅうと閉まった。宥めるように指を動かしながら、ジタンは銀の髪にキスをする。やってることは何処に出したって恥ずかしくないくらい、ええ、そりゃもう変態ですよ、でもね、だけど、此処にはちゃんと愛が在んの、どんなルールだって超えて厳然と存在する愛がちゃんと。……そういう力の篭もったこの唇だと、ジタンは思っている。

 ビビが、鏡に映る自分の性器に視線を送る。

 スカートを穿いて、だけどその中にはこんな淫らで恥ずかしいものを隠し持っている。

 ……そして、少年は恋人のために、どんな姿にだってなって見せるのだ。恋人が其れで喜ぶのなら、幸せならば。

「……ッん……は……ぁあ……」

 勃起してもなお小さくて皮も剥けない性器の先端から、僅かに水が沸き出た。出会ったときからこれまで、ビビはおねしょというものをしてくれたことがない。してくれたらそりゃあもう可愛いしそのタオルケットは大事にすんだけどなあと思う一方で、それを悩みの種にしてしまうリスクは排したいとジタンも思う。だから朝のビビの膀胱には相応の量の尿が溜まっているのも当然だった。

 勃起は言うまでもなく尿道を細らせ、其処を強いて排尿しようとするビビの幼茎の内側には過度な負荷が掛かる。其れさえも、ビビの身体は快楽として解釈していた。太腿の内側の痺れるような感覚に脳は白く飛び、押し出そうとする力に抗うように這入ってくるジタンの指は背骨の内側を抉るようだ。

「すごいね、ビビ……、すっげぇ……、綺麗な金色だ。ビビのちっこいちんちんからさ、おしっこ溢れてくんの、すげーエロくて可愛い」

 放物線の勢いは不安定だ。鏡に届くほど高く跳ねたかと思えば、少年の砲身から陰嚢そして内腿へと伝うほど勢いを失するときもある。

 ジタンの言葉がビビには嬉しく、ジタンは興奮の坩堝の中に身を落としながらもそういうことを無意識に口にするばかり。かみ合わないように見えて、その実二人の間にしか通じない電気信号がある。

 放尿を終えたビビの性器が、身体が、続々と震え、尿を伝えて濡れた性器の先端から、とろとろと精液が溢れ出した。俺がお尻いじってたからかなとジタンは思うが、すぐに「多分触って無くてもいっちゃったんだろうな」と考えを改める。ビビは自分の二種類の液体によって水浸しの下半身が鏡に映っているのを見て、呆然と、かすかに震える身体を持て余しているように見えた。漂うのは間違いなく自分の漏らした尿の臭いだが、ジタンは微笑んでいる。「すっげー可愛い……!」と、感極まったような声で言う。どこからどう見たって変態の男に悪戯されているのに、どうしても、辛さの欠片さえビビは見つけることが出来ないのである。

「……ジタンんっ……、お尻……!」

「んー? いったばっかなのに、もう我慢出来なくなってんのか?」

「……だ、って、指っ、入った、まんま……っ」

「うん、……ちょっと緩くなったね。これなら俺のも入れるよな。……まあ元々そんなでけーもんでもないけどさ」

 卑下して言っているようで、最近では自分の肉茎のサイズにある種の自信さえ得ているジタンである。ビビには「大きい」と言ってもらえるし、他の二人よりもビビに負担を掛けずに済む訳で。

「そういうわけで、入れるよ」

「ちょ、っと、っ、ちょっとまって、待って、待ってまだっ」

「んー、さすがに俺もそろそろ限界かなーって。ビビはおしっこも精液も漏らしたからすっきりしてるだろうけどさ、俺はまだ一回しか出してねーし」

 石鹸その他、……なんだろう入浴剤かな、見慣れぬ色々が乗った鏡面台に手を付かせ、ジタンはスカートの中に肉塊の矛先を押し当てる。ためらいを見せたのは何だったのか、恐らく今は素直になっているばかり。ビビはジタンの熱を入口に感じただけで、強請るように尻を押し付けてくる。

「……んっとに、すっごいね、ビビ」

 借り物のスカートを汚してはいけないか。でも着替えくらい幾らでもあんべさ、そんな暢気な考えで、スカートの上からビビの幼い根を掴み、裏地のしゅくしゅくと鳴る生地で刺激する。「女の子のスカートの中でちんちんこんなにして善がってんだ。しかもお尻の穴にちんこ挿されてね……、すげー可愛い、超愛してる」

 ビビは頭をくらくらさせながら、煮え滾るようなジタンの鼓動が内壁から全身に響き渡るのを聴く。間近の鏡に映る、自分の淫らな顔。眼を逸らした先では、ジタンがスカートを捲って「ほら、こんな、ピンク色」自分の芯が倒錯に染まってびくびくと震えている。

「こんなビビのこと、俺たちしか知らないんだ。……だから俺たちの前では、お尻弄られておもらししてそのまんまいっちゃうような、淫乱なメイドさんで居ていいんだぜ……」

 その通りかもしれない、……その通りなのかもしれない。ジタンは、三人の恋人たちは、僕のありのままをそのまま受け止めてくれる人たちなんだ。

 きっと。

「ふ、ぁっ、あっ、あっ、もっ、もぉっ、ひきゅっ、おひりっ、ひっひゃっ、あふっ、あぅあっンっ、……ンひァあああっ」

 冷たい鏡にペニスを押し付けながら、ビビは射精する。その声が瑞々しく響き渡る以前からしてもう、十分すぎるくらいに騒がしいのであって、

「……紅茶、おかわりは?」

「それ不味いから要らね」

 ブランクと288号は既に起きている。ジタン同様、一日で相応に鬱屈した欲を抱えつつも、彼らは香りの強すぎる紅茶を喫し、煙草を嗜み、ビビではなく風呂の順番待ちをしているのだ。


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