♯24アフター 『愁霖』 (5)* * * * * * * * * * * いつしかとまりは脚を抱え込むのを止めていた。手は、男の責めに合せて、シーツのあ ちこちを空しく掴み、握り締めていた。開かれた脚は、時折男の上半身を挟み絞るように よじられた。 もう男はそうした命令違反を咎めずに、とまりのよがる様にまかせていた。痙攣したよ うに、閉じ合せようと躍起になるとまりのふとももを、肩で割るようにして股間入りこみ、 指による責めを続けていた。さすがにこの状態では写真は撮れない。 ならば、と男は少女への責めに没頭しようと思った。 一回り以上歳の離れた、若い肌だった。忘れていた感触に、手が指が歓喜している。 まだ下半身しか触れていないが、特にふくらはぎからふともも、尻にかけてのラインが 素晴らしかった。しなやかな筋肉の上を被った女の脂肪が、肌の張りと弾力と、肉の柔ら かさを予定調和させている。 浅く焼けた股下の長い脚が、鼠蹊部から乳白色の肌色に変わっている。ほぼパンティー ラインだった。淡い性毛の下腹はなまめかしいほど白く、艶やかで、性のもたらす緊張の 度に締まった腹筋を浮かび上がらせてくる。内腿や尻の肌は絹のようで、その肉は手で覆 い撫でるうちに体温でとろけてしまいそうだった。 その肉体が男の手で、指で、よがり狂いだしている。 一時、泣き濡れていた嗚咽も、とうに淫猥なあえぎに塗り変わり、高い声を上げている。 性器はバルトリン腺液に濡れ、とろとろに蕩けさせている。肉襞はぬるついて、その肉 質を愉しもうとする男の指先を滑らせていく。膣前庭に覗く尿道口さえ、刺激を求めて紅 潮しているようだった。 薄い桜色だった性器は、朱鷺色に染まり、ほとびて次なる行為を求めてひくついている。 その媚肉を、男は思うさま口にして、屠りたかった。その衝動を我慢することは、もう 無理だと思った。 「口を使うからね……」 言葉にすると同じくして、男は舌で目の前の膣前庭をべろりと舐め上げた。 「ひ、ああぁ………!?」 とまりは、熱くぬらりとした、それまでと異質の肉が性器を嬲りつけるのを知覚して声 を上げた。 男の言葉を、違う世界から聞いていたとまりには、何をされたのかが分からなかった。 軟体生物のような感触が性器を這う。唇で陰唇を咥えられ、熱い鼻息を性器全体に浴びて ようやく男のクンニリングスをされていることに気づいた。 「あううっ…!い、いやあ………あぁぁ……!?」 両手の指に性器を開き切られ、男の口唇が舌が、とまりの秘肉に触れている。 とまりの霞んだ思考は、それを拒んでいた。 そこは排泄で汚れた恥ずかしいところ。子を、命を送りだすための神聖なところ。そし て、愛しい人を感じるところ……のはずだった。 性器は女にとっては、穢れていて、清らかでいて、何よりも大切な場所だった。 それを、男が貪っていた。 「あぁ…お願い………、やめ、て……ほん、とに……い、やなのぉ………!」 舌先が、膣前庭の細やかな襞筋を、一筋一筋、執拗になぞっていく。 「ああっ!い、ああっ……」 赤くふくらんだ尿道口をちろちろとほじる。 「んん…ぁ…、ぁぅぅ……」 肉薄の小陰唇の襞の縁にそって舌先をゆっくり往復させると、あっあっあっと、とまり は小さく鳴いて細かく痙攣した。交互に陰唇を口唇で咥えて擦り、引き伸ばし、口内に含 んで舌で舐めいらう。くにくにとした肉襞が男の口の中に吸われ、舌の蠢くに合せてひね り回された。 ぴちゃ…ぷちゅっ……ぴちゅっ、……ちゅる…… 性器が自らいやらしい音を立てているように聞こえた。 「んはぁっ…!いやあぁ、あぁっ!ああ、ぁぁ………」 許容を超えた快感の波が性器を、脊椎を、とまりの脳髄を白く焼く。胎内はただ熱く、 最奥の泉からも愛液が滲み出すかのようだった。 とまりの膣口は、小さな口を開きつつあった。広げられた性器の下方で、慎ましくピン ク色を保ちながら、とまりの息みに合せて小指の先ほどの口がぴくりぴくりと動く。粘膜 の襞が収縮してその小さな口を閉じたり開いたりさせていた。紅く充血した膣全体より、 桜色に見える肉襞があって、指や舌の刺激で腫れっぽくなり、膣奥への口をより狭窄させ ていた。 それは、とまりの処女膜だった。 とまりの純潔の証が、男の舌先で秘めやかに息づいている。 しかし男はそれと気付かなかった。分からなかった、と言ってもいい。男には、処女の 膣口をしげしげと観察した経験などなかった。快感にあえいでいる女の口が、他より小さ いくらいにしか感じてはいなかった。ひくつくそこをほぐすべく、舌を伸ばした。 とまりは、男の舌先が処女口に届いたのに気付いた。 もう、抵抗するつもりはなかった。直にすべてを喪うのだ。とまりは、男の舌をそのま ま受け入れた。 舌先が粘膜にふれると、ひくりと膣口が塞がった。処女膜が、怯えたように収縮する。 その奥に続く膣には、すでにたっぷりと膣液が溜め込まれていた。自身の指による自慰や 男の愛撫によって、性感覚を覚醒状態にされた性器は、白くどろっと粘る膣液を分泌させ ていて、もうペニスの挿入に備えていた。ただ初めての性交なので、処女膜が堰のように、 その白い体液が外に流れ出すのを遮っている。 「ひぅっ…!」 とまりが声を洩らした。 男がひくつく処女膜を舌先で突付き、穴をこじ開ける。入り口まで溜まっていたそれが、 溢れて男の舌先にのろりとかかった。わずかな酸味を、男は感じた。 口を離し、膣口を見てみると白く濁った体液がとろりを流れ出していた。いわゆる本気 汁というやつだ。中出しされた精液が膣口から溢れ出しているように見える。それは膣内 に射精した後に、自分の精液が少女の性器から溢れ出してくるのを妄想させた。 傍らに置いたデジカメに手を伸ばすと、少女の股間を接写すべく、M字に脚を広げさせ 膣口周辺の襞がよく見えるよう指で開く。 とまりは繰り返されるオートフォーカスの耳障りな音を濁った思考の中で聞いていた。 男の興味は、やはり女の性器にあるんだと思った。 開かれた膣口から、何かがとろりと流れ落ちようとする。それが落ちきってしまう間に シャッターが何枚か切られた。 ――どんな写真が撮られているんだろうか これまでも、かなりの量の写真が撮られているようだった。デジタルカメラだから、何 百枚でも撮れるだろう。ただ、目隠ししたままのとまりにとっては、すべては闇の中の出 来事だった。自分が何をされているかも、どんな格好であるかも、暗い想像としてしか思 い浮かべられないのだった。 どれだけ卑猥で淫乱な自分が映し出されているのだろうか。そんな怯えもあった。 それは、とまりにとっては「男」を歓ばせるものである必要はなかった。 とまりの的は、はずむだけだった。 いつまでも能天気を装うはずむに、とまりの悲嘆と苦悩を知らず、鉢植えなんかに思い を託せば済むように思っているはずむに、自分という女の情念を骨身に染み込ませてやれ ればいい。そのための道具だ。 とまりが穢れ堕ちた様を見せられて、それが自分のせいだと責められたはずむは嘆き悲 しむだろう。涙と苦悩に暮れる日々を送ることは容易に想像できる。 あゆきだろうと、明日太だろうと、やす菜であってもはずむを立ち直らせる事は出来な いだろう。それは確信だった。 はずむは傷心のまま、最後の最後の時までとまりを案じたまま去っていくしかない。そ してはずむを喪った自分が、はずむに思いを残させた自分が消えて去ってすべて終わる。 そこまで互いの心に棲んでいるのを分かっていても、こんな風に物語りは終わるしかない のだと思うと悲しかった。 すんっ、と洟をすすった。 一通り撮り終えた男が、再びとまりの性器に挑みかかる。 強く吸われ、烈しい快感が肉体を襲う。先程までの、漂う思いは一瞬で波間に消えた。 「ああっ…!っぃい……、い、い……あぁ……!?」 性器全体が男の口内に吸われて、揉みくちゃにされている。じゅるじゅると空気ごと吸 い上げられ、細かな気泡が愛液と唾液の混じりあったものに、小陰唇やクリトリスが弄ら れる。伸ばされた舌先は処女膜をこじ開き、膣口に潜り込もうとする。小さな口から侵入 した軟体は、処女膜の内からを舐めなぞり、たっぷりと唾液を流し込む。代わって押し溢 れた膣液は、白濁した精液のように会陰をつたい流れ、肛門へと落ちていく。 「あ、ぁぁ……」 ぞくりぞくりと流れていく電気が、とまりの腰骨を疼かせる。 男がそれを追って、舌を蟻の門渡りから肛門へ移動させる。両手でとまりのお尻を抱え 上げるようにして肛門を己の口元まで掲げさせる。舌が肛門のすぼまりに掛った粘液を舐 め上げた。感じたことのない、異様な感触にとまりは驚き、男の髪を両手で掴んで抗議す るが、声無きクレームは無視される。 続いて、男の舌先が肛門の襞を一筋ずつ舐めていく。黒ずみのないとまりの肛門は朱鷺 色に染まってひくついている。たっぷりと唾液をまぶした舌が、じっくりと括約筋をほぐ しいくのが、とまりには恐怖だった。男の髪を引きちぎるに代え、震える手でその頭を力 一杯押さえつける事で、怯えを散らそうとした。 「いや、そんなとこ……!お、お尻なんて…も、やめ、止めてェ………!」 不快でないのが、逆に怖かった。初めて舌が舐め上げた時に、言外の気持ち良さがあっ た。肛門を舐めほぐす舌に加え、膣口辺りに男の鼻先が潜り込んでくる。熱い呼気を股間 一杯に吐かれると、腰までが痺れた。 「あはぁぁ…、も…ぅ…だ、だ……んぅぁあっ………!」 肛門に舌先が侵入し、くにくにを蠢く。遊ばせている指がクリトリスや陰唇をなぶり出 すと、もう、とまりは分けがわからなくなっていた。 脳髄がセックスの信号でヒートしている。昂ぶった性感神経が、思考を白い闇に突き落 とす。 「ん…んあっ……!ひっ、ひぁっ、い、い……いあぁっっ……ああぁっ、いい、んぁっ!」 あえぎが淫らな嬌声に変わり、その自分の声を耳にしてはまた興奮した。 * * * * * * * * * * * どれだけの愛撫を受けたのか分からなかった。 今は、セックスの快感だけを求めるのがとまりの思考の全てだった。 「……気持ち、いい?」 とまりは男の呟きを耳ざとく拾った。 きもちいいの、と答えた。 もっと、もっとと、答えた。 もっと刺激して欲しかった。 もっといやらしく淫らにして欲しかった。 男はとまりの股間から身を起こした。指ではゆっくりと性器と肛門の愛撫を続けてなが ら、とまりの小柄な体に寄り添うように被さってきた。空いた手でとまりの乱れた髪を撫 で付け、腕でその小さな顔を抱え込むように包んだ。耳元に口を近づける。耳朶に吐息が 響くように舌を這わす。ぞくぞくと流れ込む快感に、とまりは全身を震わせてた。 とまりの前髪を、鬢の髪を解き梳る男の手指は、性の電流で消耗しきった肉体にも優し かった。性器や肛門を弄ぶ指さえ、快感を穏やかに持続させるくらいに動きを抑えられて いた。 ちゅっちゅっと耳たぶキスされ、ちろちろと舌が動く。ぴちゃりと口が鳴ると、柔らか く、しかし腰まで届くような性感が流れた。寄り添う男の体温が暖かかった。先程までと は違う、満ち足りた快感の波がとまりを包んでいた。 「綺麗だよ…」 男が耳元で呟き、とまりは小さく身をよじる。 「手も、脚も、胸も、お尻もすごく魅力的だ……。いつまでも寄り添って、触っていたい。 こうしていると君と融けていって、一緒になれそうに思えて、すごく幸せだよ……」 男の手が髪から離れ、とまりの乳房に触れた。 その手は温かで落ち着いた。小振りな乳房を手のひらで覆っている。先程までの荒々し い責めが、幻のようだった。柔らかなとまりの乳肉の感触を男は愉しんでいる。性器に這 わした指も敏感な部分を刺激せず、その全体を包むように揉み動いている。 目を閉じたまま、とまりは多幸感に包まれていた。目隠しをされている事も忘れていた。 生来の恋人の、甘やかなピロゥトークに酔っているような気持ちだった。 まだ、性的興奮は消えていない。むしろ緊張を解かれ、一層の欲求が湧き出してくるの を抑えている感じだった。この後、男にこんな風に続けられたら、我を忘れてしがみつい てしまうだろう。自分から求めてしまうかもしれない。それはそれで甘美な妄想だった。 そんな考えがぼんやりと過ぎっていく。 男の手が乳房をやわやわと揉んでいる。下から乳肉をすくい集め、指の間を滑らせてい く。乳輪の周りから円を描くようにそろえた指先を旋回させる。左の乳房から右の乳房へ、 満遍なく愛撫を渡す。 「ふ…、ぅあ……あ……」 胸の奥が切なくなり、とまりから、また女の吐息が漏れはじめる。 男は残しておいた乳首を、侵すことにした。 伏せたお椀程の乳房の先に、小指の爪先くらいの乳首が屹立している。もう感じている のだ。仰向けに寝ても左右に流れない乳肉には、見かけ以上の媚肉が詰まっているようだ った。谷間は浅くてもこれだけ立体的なら、少々はパイ擦りなどでも楽しめるかも知れな い。尻の肉のように弾力がある乳房は、すこし揉みんだだけで快感を生んでしまうのが分 かる。男はおもむろに、可憐な乳首をちゅるっと口内に咥え込んだ。 「ひあっ…!?あぁっ!」 男の暖かい口内に乳首を吸い込まれ、とまりはその先端から乳房の奥に掛けて走り抜け る快感に声を上げた。いつ指で弄われるか、いつ口で吸われるか、胸を昂ぶらせて待ち望 んでいただけに、刺激は倍加してとまりを襲った。 「あっ、あっ、あっ…あぁ……ああぁ………!」 ねっとりとした舌が、乳首に絡みつくようにねぶる。舌先で乳首の先端をこじるように 舐めつけ、出し抜けに強く吸引したりする。吸いながら唇ではさむように引っ張り、ちゅ ぽんと音を立てて引き抜く。 「んああっん」 舌全体を使って、乳首を乳肉に巻き込むように舐める。 ちゅる、ぢゅるっ…ちゅ、ちゅっ……ちゅぅぅぅ……ちゅるっ…… 熱い快感と共に、乳房を吸われる音がとまりの耳にいやらしく響いた。 わざと歯先で、乳首に硬質の刺激を加えたりしてアクセントを与えると、とまりは身を 震わせて男の頭を掻き抱き、悶えた。 股間は再び分泌しだした愛液で内腿まで濡らしつつある。余った手で、もう片方の乳房 をねっちりと愛撫する。指先で小さな乳首を乳肉の中に押し込めて、胸骨とに挟んでころ ころと転がしてやる。 「はぁんっ…!あぁ…、いい!……きもち、いいのぉ……!」 女の三点を同時に責められ、昂ぶっていたとまりの肉体は高みに達そうとしていた。 処女の身体なれど、性の感度の高いとまりの身体は淫猥な肉の悦びに染まっていく。 「あっあっあっあっ、あぁぁ…んああっ……ふっ、んあぁぁっん……!」 乳首への責めを、性器への責めを逃したくない本能で、とまりは男の頭を乳房に押し付 けるように抱きかかえた。内腿は信じられない程強い力で手を挟み込んでいる。 男は二廻りも小柄なとまりに抱きすくめられるようになっていた。 もはや、写真をどうこうできる体勢に無かった。 責めを弛め、少女が緊張を解くように髪を撫でつけてやる。 力を抜いたところで華奢な身体を抱え起こし、自分の身体ごとベッドの中央に動く。目 隠ししたままの少女の顔を両手ではさむようにして自分に向けさせた。 上気し紅潮した頬に、汗ばんで張り付いた粟色の長い髪が張り付いていた。それを指で 首筋の向こうへ帰してやる。 奪ってもよかった。 でも言葉にしてからでないと、奪ってはいけないのだろうと思い、口にした。 「キス、するよ」 少女の表情に逡巡が見え、わななきながら口を開こうとした。 「え、そん……キ、……んんっ!?ん――――――っっ!!」 言葉になる前に唇を塞いだ。 拒絶される前に奪ってしまわなけらばならなかった。 咄嗟に少女の両手首を握りしめて、腕を吊り上げるように拘束する。下半身にも乗りか かり身体の退路を断った。 嫌がって逃れようとする少女の唇を追い、上半身ごと引き寄せる。残った手は小さなお とがいをつかんで口を閉じられなくさせている。小さな身体が男に引き寄せられ、肌が重 なった。乳房が男の肉体に触れたのを感じ、驚いて隙が生まれた。 そうして、唇を吸われた。 「んんっ!んん――――」 最初の襲撃でとまりの舌は引き出され、男のの口内に連れ込まれている。思う様に唇を 吸われ舌を弄られている。もがくうちに舌を取り戻したが、あごを押さえられ、歯を閉じ て拒絶することができなかった。顔を引いてのがれようとしても、男の唇は執拗に追って くる。ついには男の顔が上から被さるように覆い、とまりの唇を犯した。 無理矢理に顎を引き上げられ、天井を仰がされた首がギリギリと軋む。 流し込まれる唾液に溺れそうになり、何度も咽せ返す。飲み下すほかなかった。 男はより深く舌を送り込もうと、巧妙に顔と唇の向きをずらしていく。開いた口を横咥 えにされ、とまりは男の舌を喉の奥まで差し込まれた。舌の根元まで、探り這いまわるそ れに、口内の感覚は奪われて麻痺していく。 男の胸に潰された乳房の周りを、汗が伝い落ちた。 告げられて、キスは出来ないと咄嗟に思った。心が拒否しているのが分かった。 唇には、はずむとのファーストキスの思い出があった。それは色褪せてはいない、まざ まざと想い浮かべられる生きている記憶だった。 男に求められた瞬間に感じた。昏い海辺に流れ着いていた真珠のように光って見える。 すべてを無くしてもそれだけは残しておきたい大切な光だった。 唇だけは、と許しを乞いたかった。 そのを言葉にする前に、奪われてしまった。 身を委ね、気を許そうとしていたのに、こんな風に踏みにじられてしまった。執拗に吸 われ舌を追われ、とまりは泣き出していた。 今も、男の唇が舌がとまりの唇を舌を蹂躙している。必死に閉じようとする唇を上に下 に舐め、吸い上げる。無理矢理開いた口に舌を潜り込ませ、歯列を舐め進み、口内で縮こ まって身を隠しているとまりの舌を見つけ出しては陵辱した。嫌がる舌を吸出し、絡めて はたっぷりと唾液を交換させようとする。 とまりにとって、はずむとの初めては、ささやかな、熱い接触だった。 月明かり星明りの中、虫の音が回りの全てを隔絶していた。 はずむの吐息が近づき、目を閉じる前に唇を重ねてしまった。 合せた唇をすこしだけはずむは動かして止めた。もしかすると、とまりの唇へ舌を差し 出そうとしていたのかも知れない。 その後、山の夜道を手をつないで歩いた。なにも話ができなかった、淡く、幸せな時間 だった。 ついこの前まで、一人鏡を覗き込む度に、はずむの触れた唇を指でなぞっていた。 そんな事さえ忘れていた。 気付いた時には、喪ってしまった。いろいろなものが、砕け散っていくのを知った。 抵抗に疲れ、もう男に自分の舌を預けてしまうと、とまりは急に力が抜けていくのが分 かった。男もそれに気付いて拘束を解く。代わりにとまりの腰を抱き寄せ、暴れて乱した 長い髪を手で梳って腕に包んだ。頬に手のひらを添え、やんわりと顔を上向かせる。 「……言うこと、聞くんだったよね?」 もう分かっていた。彼の要求を拒む事は出来ない。それはとまり自身が課した、儀式の ルールだった。先程までの性の享楽から冷めつつある思考が、それを理解していた。 自らが閉ざした視界。相変わらず何も見えず、彼の顔は見えない。触れられ、声を掛け られないと身体がどこか分からなくなっていく。暗闇で佇んでいる思考すら、自分のもの かどうかが分からない。 男の肉体を、とまりは自分の乳房を当てて味わっている。自分の物でない鼓動が聞こえ る。その音に自分の心臓が呼応していく。合わさった肌の狭間を、どちらのものとも知れ ない汗が流れた。 ここは雨の中より孤独ではなかった。セックスの刺激が、そんな不安を消しているのか も知れない。 ――この時間が終われば、なにもかも消えていくんだ とまりの思い通りに世界は変わってしまう。 ――願うようには変わってくれないのに、ね 思い出すらも、現実からゆらゆらと乖離していく。 「続けるよ…」 優しい声だった。雨の中、どうしたのと声を掛けてきた時と同じ口調だった。 とまりを抱き寄せる腕は温かかった。車に跳ねられそうになっていたとまりを、ずぶ濡 れになって助けてくれた腕もそうだった。礼も言えず固まっているとまりに、痛かったか いと案じる声も、今のように優しく響いた。 ――ひどいことも、いやらしいこともするのに 女が、男を狂わせるというのは本当だと思った。 とまりは身体を求め苛まれ、時折、捕食されていくいような恐怖を感じた。 ――でもそれは、あたしの望んだ事をしてくれてるから…? 事情も訳も聞かず、とまりの昏い想念を理解して、付き合ってくれているのだろうか。 とまりがキスを拒めば、この儀式が崩壊するのを知っていたから、とまりが言葉にする 前に唇を奪ったのかもしれない。 とまりに戻る場所はなかった。それと気付いてとまりを拾った。中途半端に放り出すな ら初めから関わらなかったのだろう。 とまりが本気で拒めばいつでも終えられる儀式だった。上手くあしらえば、少女の肉体 を自由に味わうことができるのだ。 そんな考えに違いないと、思おうとした。 何もかもが崩壊しすれば、より苛烈な自棄に自分を追いやるしかないとまりだった。 もう、今より先は、とまりにはどうすればいいのか分からない。 ただ、彼の求める行為を、これまでのように受け入れるしかないと思った。 儀式が終わるまで、心を閉ざすしかなかった。 もし彼の内に触れてしまうと、とまりの何もかもが崩れていってしまいそうで怖かった。 * * * * * * * * * * * 男の唇が、とまりの耳たぶを咥え、舌でくすぐる。鼻からこぼれた息が寒気のような快 感を生んで背筋を流れる。 「はうぅ、ぅぅ……っ……」 切ないあえぎを止められない。大きな手に包まれたふたつの乳房は、ゆっくりと揉みし だかれて熱くなった。胸の肉が、こんな感覚を生み出すことをとまりは知らなかった。ふ たたび尖りだした乳首を指で触れられると、たまらなくなって男の肩に爪を立てた。 「ああっ……!」 男の顔が、耳元から首筋を伝い、肩口に流れていく。熱い息と舌が肌を這う。乳房への 責めと加わり、蕩けるような甘美で頭を一杯になる。脇に近い敏感な肌をちゅっちゅっと くすぐられると横乳を乳首へと電気が流れた。ぴりぴりと皮膚があわ立ち、痛いほど乳首 を立たせていく。その乳首を、ぢゅるっと唇で吸い込まれ、とまりは甲高い媚声を上げた。 「あ、ああ――――――………」 男の頭にしがみつく。乳首に舌ぬらりと巻きついてくる。総毛立つ快感を逃さないため に、とまりは男の顔を胸に押さえつけた。空いた乳首を指で摘み上げられる度に、薄い背 中を痙攣させて声を上げた。
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