Fullmoon Lovers (1)  

〜今宵の月は〜  今日は夏休みの宿題を香澄、美奈萌、小鈴とでやるために、まひるの家でお泊り会をする。 まひるはそう聞かされていた。夕方も過ぎ皆が集まり、それぞれノートを広げている。しか し、何故か落ち着かない空気が漂う。  そんな空気に気付きもせずに、まひるが頭をかきむしりつつうめく。 「うーっ、問1からわかんない…香澄ぃノート見せて…ノートォ…ねぇ、香澄?」 「え、え、ノート…はい」 「サンキュ、って何も書いてないじゃん。美奈萌は?」 「……ん、な、何?」 「美奈萌も駄目そうだな」  まひるがふと見れば、小鈴もただシャーペンをカチカチといじるだけで宿題に手をつけた 形跡がない。 「どうしたの?何か皆うわのそらって感じだなぁ」  まひるが周りを見回しながら言う。それから、不意に思い出したように言う。 「そう言えば、こないだ4人でやった肝試し大会さぁ、誰かあたしにお酒飲ませなかった? あたし記憶飛んでてさ、次の日なんて素っ裸で家の中転がってたんだよ」 「……」  自虐ネタの笑い話のように言ってみても誰も反応しない、いや、わずかに皆、身を震わせて いたかもしれないが、まひるがそこまで気が回るはずもなかった。つまらなさをまひるは感じ る。これなら、別に勉強会を開かずに、一人でやっていてもいいぐらいだ……。 「……あれ、そういえば、誰だったんだっけ。この勉強会の言い出しっぺ」 「……」  誰からの返事も無く、まひるは不思議そうに首を傾げ、席を立ちながら呟く。 「一寸風にでも当たろっと」  網戸を開ける。生暖かい風を肌に受け、それに混じる血生臭い何か…まひるは思う。 ――懐かしい仲間の匂い…仲間って何のことだろう。  少し慌てて後ろ手に窓を閉め、施錠する。何かから逃れるように……それとも誰も逃さ ぬために?  それから、その姿勢のまま俯き、ふーっとため息をつく。  ぞわっ。まひるの背筋を何かが走りぬける。  そして再び顔を上げた時、顔も姿も何一つ変わっていないはずのまひるは、それでも、 確かに違う何かに変わっていた。 「――今宵も恐ろしいくらいの美しい満月だな」  笑顔を浮かべ、まひるは呟く。  しかし今のまひるはその笑顔すら、彼女達の背筋に脅えを走らせた。

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