一緒にいようね (3)家に帰ると、とまりは手早く服を着替え、引出しを開ける。可愛らしい中敷をめくりあげると、 そこに隠しこまれていたのは夕べ見たグラドルの笑顔。 また顔が赤くなる前に、目を逸らすようにして自分の学生カバンに突っ込む。 「とまり出かけるの? はずむ君の家?」 「うん。勉強しに」 聞かれもしないのに嘘をつく。 「それなら、今、タッパ―につめるからお惣菜持ってって」 「いいけど、何で急に」 「お昼にはずむ君のおかあさんに会ったんだけどね。今日は大佛さん所、ご夫婦でお出かけ してるそうだから、はずむ君の夕飯の足しになるかと思って」 「わかった……って事は、はずむしかいないんだ」 「そうよ、何なら、はずむ君の家に泊まっていく? その方がはずむ君も寂しくないんじゃない」 「な! そんなのいらないよ、はずむだってこ、子供じゃないんだから!」 いやに声を荒げるとまりにとまりの母は不思議そうに首を傾げたが、特に問いただしたりはしな かった。 いつものようにはずむの家の呼び鈴を鳴らし、いつものようにはずむのお出迎えを受けて、はず むのお母さんが留守の事だって、たまにある。そんないつもと変わらない日のはずなのに。 自分の動きがギクシャクしているのをとまりは意識し、それで余計にぎこちなくなる。 はずむは……多少は緊張しているだろう、何せ用件が用件だ。 もしかしたら怒られるかも、ぐらいは思っていることだろう。 「え、と、座って」 はずむの勧めにとまりは頷く。 「うん」 ポスン。とまりはいつものようにベッドに腰掛ける。 それからカバンを開け例のブツを取り出す。 「ほい」 「ありがとう、でも……いいの?」 はずむは手を伸ばしかけるがふと躊躇う。 「受け取れよ。あたしが持ってるわけにはいかないだろ、弟にやるのも変だし」 かといって今のはずむが持ってるのもどうかと思うけど。思うだけで口にはしない。 「う、うん」 受け取ると無意識にパラパラとページをめくり、とまりの視線に気付き慌てて閉じる。 「あ、ごめん。片付けとくね」 立ち上がり、クローゼットに本を突っ込む様子をとまりは眺める。そうか、はずむって あんな所に隠してたのか、今更知ってもしょうがないけど。 そんなことを考えながら、はずむの背に声をかける。 「はずむ」 「何?」 クローゼットの扉を閉めながらはずむが振り返る。 とまりは慌てて首を横に振りながら言う。 「……何でもない、気にすんな」 「そんなこと言われたら余計に気になるよ」 苦笑しながらごく自然にとまりの横に座る。 じゃあさ、と呟き、膝を抱え三角座りになりながらとまりは尋ねる。 「今も、女の人の……裸って興味あるのか?」 頬に手を当て考える仕草をするとはずむはあっさり答える。 「ん……今はそんなに」 「そ、そか」 ホッとしたような残念なような気持ちが丁度半分半分ぐらいだ。 とまりは思う。 気持ちの整理までには至らないが、少なくとも肩の力は一寸だけ抜ける。 「でもさ、こんな事言うと怒られるかもしれないけど」 はずむは俯いて両手の指を組んで、一人で指相撲をするようにしながら言葉を続ける。 「なんだ」 再びとまりに緊張が走る。 自分の指先を見たままはずむが言う。 「とまりちゃんのは、あの、見てみたいっていうか、触れてみたいっていうか」 「え? う……?」 ボッと音がしそうなほどに自分の顔が赤くなっているはずととまりは思う。 顔の周りだけ気温が5度ぐらい上がっていそうだ。 照れくさそうに指先は相変わらずもぞもぞさせて、小声で、それでも茶化した気持ち ではなく真剣な口調ではずむは言った。 「キスだけじゃ足りない気持ちが……あるよ」
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