一緒にいようね (4)「そ、それって……」 とまりははずむの顔を覗き込んで言いかけて、止まる。 次の言葉が浮かばない。 「ん……と、はは」 はずむは照れ隠しに笑うととまりの頭をなでる。 ピクッ。自分の髪に触れるはずむの手にとまりがわずかに緊張する。 いつもなら子犬のようにはずむにしなだれかかってくるのに。 はずむはとまりの前髪を掻き揚げるとおでこにやさしくキスをする。 そのキスがくすぐったいような恥ずかしいような嬉しいような、ほんのちょっとだけ怖 いような。 とまりの中にいつもの気持ちの他にほんの少し別のものも混ざる。 「……やっぱり、それははずむが男だったからなのか?」 上目遣いで自分の中のまとまらない感情もそのままにとまりは聞く。 首を小さく傾げ少し考えるような顔を見せると目を細め優しい表情ではずむは答える。 「ちょっと違うかな」 うん、と頷いて改めてとまりの方を向き直って続ける。 「とまりちゃんを知りたいから、他の人よりもっと 僕だけの……人だって思いたいんだ」 真剣な顔でけして言い訳がましくなく。それは奇麗事にも思えるけれど。 はずむにとってはそうじゃないんだ。きっと、そのままの気持ちで。 だから、とまりは言う。 「いつだって、そのままのはずむが好きだよ」 一瞬きょとんとした表情を見せたけど、すぐに笑顔ではずむが返す。 「僕もとまりちゃんが大好きだよ」 ふたりの唇が触れる。いつもの二人のタイミングで。 はずむはベッドの上に置かれたとまりの手の上に自分の手を重ねる。 もう、とまりもびくついたりしない。 軽いキスの後、こつんとおでことおでこを合わせてはずむが囁く。 「もっと、とまりちゃんに触れてもいい?」 囁きにいつもより色気を感じる。 きっと言ってる意味もいつもとは違う。 「……」 とまりはただ、黙って頷くのが精一杯で。 はずむは片方の手はとまりの手を重ねたままで、もう片方の手をとまりの頬に触れる。 ふと、とまりは自分の服装を見直す。いつものラフな服装じゃなくて、珍しくブラウスで フレアのスカートで、まるで。 「そ、その気でこの格好だったわけじゃないぞ」 言わなくてもいい事をつい口にする。 「その気って?」 「ふわっとしたスカートとか、あの、一寸可愛い目のブラウスとか」 くすっと笑ってはずむが続ける。 「そう、そう、二人っきりだからって訳じゃないよね……それとも、僕、誘惑されてるの?」 「お、おかしな事言う……ん」 上目遣いに視線を合わせ、軽く抗議しようとしたとまりの唇をはずむが塞ぐ。 「ん……」 「――ねえ、とまりちゃん」 「なに……」 「いつもはさ、可愛いなって思ってとまりちゃんにキスするのに今日は違うんだ」 二人っきりだと自分で言っておきながら、耳元で囁くように言う。 「熱い気持ちを見せたくて、伝えたくて……」 唇を重ねるだけじゃ、もう足りなくなってる。 「ねえ……とまりちゃんのブラウスのボタン、外してもいい?」 そんな風に囁くように、甘えるように言われたら、駄目なんて言えない。けれど。 「あ、やっぱり」 「ん?」 「自分で、外す」 だって、はずむにリードされっぱなしなんて……何かくやしいし。 「わかった」 素直に答えて、自分から離れてくれたのは嬉しいんだけど。 「はずむ……何で、ちょっと笑ってるんだよ」 「何でって。とまりちゃん、かわいいんだもん」 バカ、と小さく呟いてとまりはうつむいて必死にボタンを外そうとするが、はずむの 視線を感じ、頬を熱くしながらでは思うように行かない。 「どうしたの」 「指が……上手く…動かな、いだけだよ」 はずむが小首を傾げる。 「僕が脱がしていいってこと?」 「違うっ! けど……だってこのブラウスのボタンちょっと変わってるから」 はずむはいつもと変わらぬ笑顔を見せながら、彼女の胸元を覗き込み、手を伸ばす。 「そんなに緊張しなくていいから……ここの尖った所をさ。こうしたら、どうかな……ね?」 一つ、二つ外して見せたあと、両手で自然にとまりの胸元をはだけさせ華奢な鎖骨に口付ける。 「うわっ」 「あれ、いやだった?」 「ん、いやじゃないけど、いつもと違うとこに息がかかったから、驚いて……ごめん」 「かわいい……」 とまりの耳元で囁いたあと、その耳たぶを軽く噛む。 とまりがぞくりと背を震わせる。 「力がぬけちゃうよ……はずむ」 とまりの吐息が熱くなっていく。 崩れそうになる彼女の肩を掴み、首筋に舌を這わせる。 「はずむ……なんだか慣れてる」 「ひどいな。僕はとまりちゃんが初めてだよ」 優しいおでこへのキス。 「さっきからキスばっかり……見たいとかいってたくせに」 とまりと視線を合わせ、クスッと笑う。 「早く見られたい?」 「ば、ばか」 はずむの胸元を両手で拳を作って叩く。 「そう言われると尚更焦らしたくなる」 「……いじわる」 「やっぱりかわいいな。とまりちゃんって」 はずむはゆっくりとボタンを外していき、とまりはされるがまま。するりとブラウスを脱がさ れ、肩が露わになり我に返る。 「は、はずむも脱いでくれなきゃ不公平だ!」 「僕も? ……そうだね」 ためらいなく自分でボタンを外していく。ちらりととまりを見て。 「ブラも僕が外したほうがいい?」 慌てたように首を横に振る。 「い、いい、これは自分で!」 さっきからまるではずむのお人形のように扱われているような気がして、とまりはちょっと逆 らってみた。意味のない事だとわかってはいるが。 自然に胸を突き出すようにして、とまりが両手を背中に回す。 「……なに、見てるんだよ、はずむ」 「え、だって僕、見たいって言ったよね」 「そうだけど……」 プツン。 背中のホックを外すと同時に肩紐が緩んだ。
back← (3) 『かしまし』に戻る TOPに戻る