俺の側に居て欲しい (6)結局戸惑いの表情を明日太は見せる。 「いいのか?」 「今、そう言った」 重ねて問う。 「後悔しないか?」 「そんなの…わかる訳ない」 動揺を収められない明日太は、言うべきではない問いまで口にする。 「俺をはずむの代わりにしてないか」 「明日太こそ、どうなんだよ」 瞬時に言い返される。 負けずに、真顔で明日太も言い返す。 「俺は目の前のお前だけで精一杯だ」 「じゃあ私もそう」 口を尖らせ、すねたように明日太が言う。 「『じゃあ』って何だよ」 「男が小さいこと気にすんなよ」 軽く明日太の胸をこぶしで叩く。それから。 「…こういうときは、黙って行動あるのみだろ?」 そう言ってとまりは明日太の首にそっと両手を絡める。 むしろとまりに行動されてないか? そんな思いを頭によぎらさせながらもう一度明日太はとまりにキスをする。 明日太がそのまま上に覆い被さろうとすると、とまりが「あっ」と小さく声をあげる。明日太 が不安げに聞く。 「やっぱり、嫌か?」 とまりが顔を赤くしながら言う。 「え、ち、ちが……あの制服がしわに……」 「わ、わりい」 反射的に明日太が飛びのく。 「脱がそうか、えと、ファスナーが後ろにあるんだよな…後ろ向いてもらって…じゃなくて、その …俺が背中に手を回す方が……」 明日太のワタワタと慌てる様子を見て、とまりが言う。 「あのさ自分で脱ぐから」 すまなそうに明日太が頭を掻きながら言う。 「俺が脱がせてやったほうがスマートなんだろうけど……」 とまりが苦笑しつつ言う。 「そんなの期待してないから大丈夫、でも……脱いでる間は後ろを向いてて」 「見てたら駄目なのか」 真顔で尋ねる明日太にとまりが言う。 「駄目に決まってる!」 疑問顔で明日太が呟く。 「どっちにしたって、見ちゃうのに…まさか! ……俺に目隠しでもさせる気か」 「そ、それはそれで変態っぽい……じゃなくて! あんただって支度があるでしょ。はい、回れ右」 「わかったよ」 言われた通り、後ろを向く。 支度っても、俺はばっと上と下脱いだら終わりなんだけどな、そんな事を思いながら、明日太は がさっと制服のワイシャツを中に着ているTシャツごと脱ぎ、上半身を露わにさせる。 すると、明日太の背後から『うわっ』と小さく叫ぶ声が聞こえる。 約束どおり背を向けたままで明日太が言う。 「何だよ、俺の裸にドキッとしたか」 とまりの声が聞こえる。 「ば…ばか、は、裸なんて…お父さんや、弟ので見慣れてるよ……大体、水泳の授業とかだって あったし……」 ぶつぶつと言い訳すればするほど、とまりの焦りぶりが伝わり、明日太はとまりに気付かれない ようにして、少し笑う。 それからズボンを脱ぎ、トランクスに手を掛け、少し迷った後、脱ぐのをやめて明日太がとまり に声を掛ける。 「もういいか」 「え!…う、うん」 返事を聞いて、明日太は恐る恐る振り返る。『嘘だよー』と言われても傷つかないよう身構えて。 「それじゃ……あ」 眉間にしわを寄せ、腕組みをしてベッドの上に正座するとまりがそこにいた。 一瞬、明日太は『怒ってるのか』と聞きそうになったが、よくよく見ればとまりの顔は真っ赤で その唇は細かく震えている。 明日太はそこまで観察してからようやく、とまりが非常に恥ずかしい思いと緊張に襲われている のだというのに気付く。 とまりの組んだ腕の下に視線を移しを見て明日太は言う。 「下着、まだつけてる」 「そこまでは自分で脱げないよ……恥ずかしいし…明日太だって」 腕組みしたままトランクスを指差すとまりに明日太が言う。 「俺は、こんなのいきなり見せたらとまりが怖がると思って」 むきになって顔を赤くして、とまりが言う。 「言ってるだろ、弟や父さんがいるから平気だって」 「お前…絶対、俺の言ってる意味分かってないよ」 明日太が何故あきれ顔なのかも、当然気付くはずもなく、きょとんとした表情をしてみせる。 そんなとまりの様子が愛しくて、明日太はベッドの端に手をつき、とまりのほうへ自分の上半身 を近づけていく。 「な、何、笑ってるんだよ、あたし、そんなおかしい事言ったか?…ん……」 何度目かの口づけを交わしながら、二人はお互いの呼吸を徐々に確かめ合っていく。 「……とまりが…かわいいから……ん…」 明日太は唇で、舌で自分の情熱を伝える術を覚えていく。 とまりは戸惑いながらも、それを自らの舌で受け止めながら、そっと明日太の首に自分の腕を 絡める。
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