俺の側に居て欲しい  (4)
 

「どうだ気分は?」  さっきまでの泥酔状態からは幾分回復したらしいとまりに明日太は話し掛ける。  軽く伸びをしながら答える。 「んーっ。元気爽快」 「嘘つけ」 「まだ、脳みそが溶けてるような気がする」 「ま、そんな所だろうな」  何とか蘇生中のとまりと他愛もない会話をしつつ、明日太はさっきまで呑みながらしていた話 題を思い出す。 「わかっちゃいたけどさ、皆バラバラっぽいよな、大学」  とまりにおかわりのジュースを注いでやった後、自分のコップにも注ぎながら明日太が言う。 「そうだね」  コップを抱えたまま寂しそうに視線を落とす。 「どうせ皆、大学は都内とか近郊とか狙ってるんだろ。集まろうと思えばいつだって会えるさ」    励ますように明日太が言う。 「でも、はずむの一番はもう、やす菜なんだよな…誘いにくいよ」 「……」  何のかんの言ってもとまりはいつも、はずむ、はずむ、なのな。  しょげた様子の彼女を見ながら明日太は思う。  そりゃさ、はずむとの付き合いのほうが長いのも、今もはずむが好きなのもわかるけど、俺と だってそれなりの長さになるってのに。今だって、こうして介抱してやってるってのに。  自分の中にある、拗ねたようなむかつくような感情。  ジュースを飲みながら、ちらっととまりのほうを見て思う…やっぱ、さっき起こす時デコピン の一つも食らわせてやりゃ良かったかな……。  ビシッ。  くらったのは明日太の方だった、必殺とまりチョップを脳天に。 「いでーっ!何すんだよ」   両手で頭を抱えながら明日太がうめく。 「今、何かよからぬことを考えてただろ」 「…ったく、こんな所ばっかり勘が働きやがって」  ぶつぶつ言いながら頭をさする明日太に、とまりが口を尖らせて言う。 「悪かったなー普段は鈍くて…」 「あ、いや…」 「好きなんて言わなきゃよかったかな、そしたら昔みたいに男友達の一人みたいにつきあっていら れたかも…」  コツン。自分のおでこにコップを軽くぶつける。 「男友達なんかじゃないさ。はずむはとまりの事ずっと、女の子だと思って見てるよ」 「そうかなー?」  顔を上げて、わざとおどけた笑いを見せるとまりと対照的に明日太が真顔で答える。 「はずむはさ、いつも遊びに行くので自転車走らせる時も、とまりが遅れないように、何度も後ろ 振り返ってたり、河川敷で土手に座る時もさりげなく、とまりは汚れてないとこ座らせてやったり してたんだぜ。知らなかったか?」 「やだなぁ、全然気付いてなかった……がさつだな、あたしは。そんな事だから……」  言いかけて口をつぐむ。明日太もその先を聞こうとはせずに何気ない風に言う。 「はずむが繊細なんだよ」  とまりはコップに残っていたドリンクをぐっと飲んでから、明るい口調で言う。 「一回告白しちゃったからな……大丈夫。まるっきり、あの頃に戻りたいなんて、そんな贅沢は 言ったりしないから…いいんだ、あたしは」  明日太に、というよりも自分に言い聞かせるように。そしてふと、思いついたように言う。 「明日太はいいよな。これからも親友のままでいられるんだから」  ぼそっと呟くように明日太は答える。 「『これからも』か、そんな自信ねぇよ」  えっと驚いて、とまりが明日太の顔をまじまじと見る。 「あんな魅力的な女の子が無防備で俺のすぐ傍にいるんだぞ。しかも、あいつ、俺の前では男時 代を全然振り返ったりしないだろ。友情、友情って俺がどんだけ念仏みたいに唱えたことか」 「はずむって、そういうとこは鈍感そうだもんな」  とまりが苦笑交じりに答える。 「あいつ、うらやましいくらい天然だからな…まったく、変わらずに親友やるのも楽じゃねえや」  とまりの言葉に明日太も陽気に返した後、とまりから目を逸らし、天井を見つめながら言う。 「……友達だからって押さえ込んでる俺もまた、本当の俺じゃないんだろうけどさ」 「明日太、あんた……」  再びとまりの方を向き、にかっと笑いながら明日太が言う。 「バイキングでやけ食いは、俺のほうだったかな」 「…本気の失恋だったのか?」 「ん……いや、違うかな」 「……え?」

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