俺の側に居て欲しい  (2)
 

「ん、じゃ。ま、乾杯」  何とも締まらない明日太の乾杯の音頭と共に三人はグラスを合わせる。  とまりはビールをちょびっと飲むと、べーっと舌を出して言う。 「うわっやっぱ苦っ!炭酸きつっ!」  あゆきが既に空のグラスを片手に微笑を浮かべつつ言う。 「とまり、お酒は初めてだったかしら」  グラスを机に置いて、顔をしかめながらとまりが答える。 「んーっ、お正月に少しは薦められて飲むんだけどさ、あんまりおいしくなくて」  それを聞いた明日太はここぞとばかり偉そうに言う。 「とまりもまだまだ、お子ちゃまだなぁ」  挑発されてとまりは気色ばむ。 「何ぃ?慣れてないだけだ。これぐらい!」  言うや否やグラスを再び手にすると、カパッと一息に飲み干す。 「どーだ!」 「おーっ、お見事」  明日太は思わず拍手をする。 「ふふん。恐れ入れ、おかわりっ」 「はいはい」  あゆきが苦笑交じりにお酌する。 「要はただの苦い炭酸ジュースだ」  そう言って眉をしかめながら2杯目を飲む。  言い方も仕草も意地っ張りなとまりにふさわしく可愛らしく…明日太は心の中だけで『やっぱ りお子ちゃまだ』とツッコんでおいた。 「――進路志望調査?ええ、私はもう出したわ、第一志望は……」  何となしに話題はよくある進路の話にとなっていく。当り前のように国公立の大学名と学科名を すらすらとあげる、あゆき。  感心したように明日太が声を上げる。 「すげーな、俺なんか模試のたびに違う志望校書いてんぜ、変な学科あるとことか」  とまりも明日太と同じようなものらしく。 「あたしも。こないだなんか漫画学科とかマークしといたよ」 「本当かよ、あ、でも俺も宇宙生物学科って書いたような……」 「今ひとつ実感湧かないんだよね」 「俺もだ」   そんな中。 「神泉さんはやっぱり音大を考えてるみたいね」 「はずむは農業系らしいけど、生物以外は理系科目苦手で頭抱えてる」  ここにいない二人の話題も出た。触れないでいるのが、かえって気詰まりの元になるかのように。 「はははっ…はずむらしいよねっ」 「そうそう、あの時の二人の顔ったらさぁ…」  明日太の部屋でとまりの笑い声がやたら響いた。色んな事を笑い飛ばそうと、とまりが必死に なっているのが、あゆきにも明日太にも痛いほどわかったから、つい、とまりの飲酒のペースが早 すぎるのも注意できずにいた。

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