俺の側に居て欲しい  (1)
 

 明日太は自分の部屋の真ん中で胡座をかき、腕を組んだ格好で、しばし呆然としていた。  部屋に転がる酒瓶、ビールの缶。これはまぁいい。両親とも飲酒には割に寛容な方だ。それに 両親二人連れ立って旅行していて、帰ってくるのは明後日。いくらでも片付ける時間はある。  問題は…ちらりと後ろを振り返る。  自分のベッドの上で転がるちっこい奴。 「ん…うーん」  時々唸り声を上げてはツインテールを左右に振って見せる。 「このままにしておくわけにもいかねぇよな」  そんな独り言を口にしながら、そっと肩に触れ揺すってみる。 「おい、そろそろ起きた方がいいんじゃないか」 「ん…ん、はずむぅ?」  とまりの寝言に明日太はどきっとさせられる。 「ばーか違うよ。いい加減起きれ」   ペシッ。明日太は自分の動揺を誤魔化すように頭を軽くはたく。 「痛っ!何すんだよ明日太っ!…ってあれ?あゆきは」 「帰ったよ。なんか急用ができたとかで、とまりはどうすんだ」  慌てて飛び起きて、叫ぶ。 「わ、私も帰るよ、勿論っ!」  べちゃ。ベッドから飛び降りたはいいが、足をもつれさせ無様にもとまりはこける。  気持ちはどうあれ、身体がついていかないらしい。 「飲み慣れてないってのにトバしすぎるからだ」  明日太は手を貸してやり、とまりをベッドの端に座らせてやった。 「ほれ、ポカリスエット」  手渡されたマグカップをおとなしくとまりは受け取る。 「まったく、何やってんだか」 「……うるさい」  マグカップを両手に持ち、口をつけた格好のまま明日太を睨むようにして、とまりは呟いた。  振り返ってみれば、事の発端は明日太自身の提案だった。 「…あれっ?はずむはもう帰ったのか」  短縮授業の日の放課後、明日太は周りを見回しながら、とまりとあゆきに言った。  無造作に教科書をバッグに放り込み、とまりは答える。 「あぁ、今日はやす菜の買い物に付き合うって『お昼も一緒に食べるんだ』って言ってた」 「ちぇー、相変わらず仲いいな、あの二人は」  リュックを背に担ぎながら明日太が言う 「俺は、バイキングで肉でも喰らってくるかな。とまり達も行くか?」  呆れ顔でとまりが言う。 「あんたみたいに量食えればいいってもんじゃないよ…それならケーキ食べ放題の方がいいな」  「けーきぃ?俺が無理だ。いっそ酒でも飲むか、家提供してもいいぜ、両親、旅行中なんだ」 「ふふ、たまにはそういうのもいいかもね」  珍しく明日太の提案にあゆきが乗ってくる。 「あ、でも私らだけじゃお酒買いにいけないよ」  そう言うとまりに明日太が答える、 「いや、俺ん家は出入りの酒屋さんがいるからさ、電話で持ってきてもらえば大丈夫だ」  ニカッとした笑顔を見せてとまりが言う。 「よし、それじゃ決まりだな! あゆきと一緒にこのままコンビニ寄って、つまみ買っていくから」

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