「こっち!次はこっちです!!」
「おい、そんなに慌てなくってもいいだろ?乗り物は逃げたりしないよ」
「もうアオくんってば!そんなに遅いと、置いてっちゃいますよ?」
「ちょ、ちょっと待てい!!」
「うふふ。冗談です」
なんて楽しいんでしょう。今までの人生の中でコレほど楽しいことはありません。
アオくんとの初めてのデート。
楽しすぎて、時間が経つのも忘れてしまいます。
昨日家に帰った直後電話がかかってきたと思ったら、なんとアオくんからの遊園地のお誘いでした。
やっぱりいいことはするものです。
一日一善とも言いますし。神様はちゃんと見ているんですね。
今日という日が待ちきれなくって、待ち合わせ場所にも予定より1時間も早く来てしまいました。
早過ぎたかな?……って思ったのですが、その直後にアオくんも来てくれたので、すっごく嬉しかったです。
ジェットコースター、オバケ屋敷、コーヒーカップ、メリーゴーランド……いっぱいいっぱい楽しみましたし、腕によりをかけて作ったお弁当もアオくんに『オイシイ』って褒められちゃいました♪
お父さん、お母さん。わたし、とっても幸せです。
こんなに幸せな時がいつまでも続けばいいのに……
でも……どんなに楽しい時間でも、必ず終わりは来るものです。
日も大分暮れてきました。多分、次に乗る乗り物が最後になるでしょう。
やっぱりデートと言ったら最後は観覧車ですよね。
観覧車には思い出がたっくさん詰まっているので、またアオくんと一緒に乗るのがわたしの夢だったんです。
「アオくん、早く乗ろうよ」
「おいおい、そんなに急ぐなって。……ったく、しょうがねえヤツだな」
わたしの横にアオくんは座ります。
ドアを閉めらると、ぐんぐん上昇していきます。
「うわぁ〜……みてみてアオくん。町が、あんなにちっちゃくなってます」
「そうだな」
「まるでミニチュアみたいですね。なんだか感激です」
「こんなことくらいで感激するなよ」
アオくんはあきれています。
「ところでお前、いつから観覧車に乗れるようになったんだ?」
「いつから……って、言いますと?」
「昔のお前、観覧車に乗れなかったじゃん」
「む、昔は昔です!そんな昔のこと、思い出さないでください!」
「そうは言うけどさぁ、あの頃のお前って、観覧車に乗っただけで泣き出しちゃってさ、動き出すと『降ろして!!降ろして!!』って泣きわめいてたじゃん。あーあ、あの頃のお前はかわいかったんだけどなぁ」
「今は……かわいくないんですか?」
「えっ!?いやぁ、その、まぁ……かわいいよ、うん」
「どうせ『おムネがぺったんこでカワイイ』とかいうんでしょ?もう、アオくんなんてキライです!!」
「あのなぁ……」
アオくんはハァッとため息をつきます。
なにもそんなことしなくってもいいじゃないですか。
ため息をつきたいのはわたしの方です。
「ひょっとして、怒ってるのか……?」
「え?」
思いがけない質問。
その口調は真剣です。
怒ってるって……一体何を怒ってるのでしょうか?
わかりません。
「あの……怒ってるって……?」
「だからさ、お前にあんなことしちまったことだよ」
「あんなこと……?」
「その、この前はすまなかった……」
「え?え?え?」
「お前のことが好きだから、我慢できなくってあんなコトしちまってよ」
「アオくん……」
「玲奈……」
!!
何が起こったのか、一瞬わかりませんでした。
力強く引き寄せられ、抱きしめられる感覚。
目の前にはアオくんの顔。
そして、唇にはアオくんの唇が……
「んっ……」
アオ……くん……?
しばし呆然としてしまいます。
わたし、ひょっとしてアオくんとキス、してる?
これって、夢……?
「ごめん……玲奈……」
アオくんは唇を離すと、申し訳なさそうにいいます。
「酷いです……アオくん……」
「玲奈……」
「わたしの気持ちを知りもしないで……わたしの気持ちも確かめないで……イジワルです」
「……………………」
「どうして、わたしにあんなことしたんですか?わたし、アオくんにあんなことされたら、怒れないじゃないですか……」
「……………………」
「アオくん……今度はもっと、優しくしてくださいね……」
「ああ……」
わたしは静かに瞳を閉じます。
お互いに重ねあう唇と唇。
時間だけがゆっくり流れて行きます。
沈みゆく夕日の中でかわした、甘いキス。
それは温かく、そしてとても優しいものでした。