その日の夜。
 小腹が減ったシェラは、コンビニでデザートの調達をするため、家を出た。
 家からコンビにまでは、徒歩で約10分くらいかかる。
 『夜の女神』の異名を持つ彼女にとって、その暗闇の世界は、どこか心落ち着くものであった。
「とりあえず、チョコパが置いてあればいいなぁ」
 シェラがそんなのん気なことを考えながら歩いていると、突然、民家から女性が飛び出してきた。
「わっ?」
 衝突しそうになったシェラは、慌てて身を翻す。
 そしてその女性を見てシェラは2度驚きを覚えた。
 それは引越しの挨拶の時に、冷たくあしらわれた女性であった。
 女性は何事かあったらしく、錯乱した様子で辺りをキョロキョロと見回している。
「ど、どうかしたんですか?」
 そのただならぬ様子に、シェラは声をかけた。
「娘が!娘が倒れたんです!」
 その女性は悲鳴にも似た声で答える。
「救急車を呼んだのに!ああもう、なんで来ないの!柚子が、柚子が死んじゃう!!」
「おお、落ち着いてください」
 シェラは必死でその女性をなだめる。
「え、えっと、ちょっと娘さんを見せてもらってもいいですか?ひょっとしたら、何とかできるかもしれないので」
「ええっ!?」
 女性は驚きの声を上げる。そしてすぐさま、シェラの手を掴んできた。
「お、お願いします!!どうか娘を、娘を助けてください!!」
「え、えっと、善処します」
 シェラは戸惑いながらも、大きな動作でコクコクと頷く。
 そして女性に促されるまま、家の中へと入っていった。
 階段を上がり、2階の部屋へと案内される。
 そこには、顔を真っ赤にして、苦しそうに咳き込みながらベッドに寝ている少女の姿があった。
「柚子、あともうちょっとだけ頑張って……どうか、お願いします!」
 懇願するような女性の眼差しに、シェラは大きく頷いた。
「任せてください!ボク、これでも神様ですから」
 シェラは、少女の右手を、包み込むように両手で優しく握った。
 少女の手はとても熱く、体温がかなり高いことを物語っている。
「柚子ちゃん、よく頑張ったね。もう大丈夫だから」
 うっすらと目を開ける少女に、シェラは優しく微笑みかける。
 少女の表情が、一瞬だけ和らいだ。
「ボクが治してあげるね」
 手を離すと、シェラは両手を少女の前にかざした。
 そして意識を集中させる。
 次の瞬間、少女の体が光に包まれた。
「こ、これは……」
 女性は呆気にとられた様子で、その光景を見守る。
 やがて1分くらい時間が経ち、光が収束すると、そこには気持ちよさそうに寝息を立てる少女の姿があった。
「もう大丈夫」
 シェラはにっこりと笑う。
「ああ……ありがとうございます!!」
 女性は涙を流しながら、シェラの手を握りしめた。
「本当に、本当にありがとうございます!!」
「いえいえ。どういたしまして」
 女性の言葉に、シェラはにこやかに微笑んだ。


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