そして翌日の昼下がり。
デザートのプリンを食べていたシェラは、ふと玄関の呼び鈴が鳴らされていることに気がついた。
「こんな時間に誰だろ?」
食べかけのプリンをテーブルの上に置いたまま、シェラは玄関に向かう。
「どちらさまですか?」
しかし返って来たのは、言葉ではなく何度も連打される呼び鈴の音であった。
「はいはい。今あけますよ……きゃ!?」
そして、玄関の戸を開けるや、シェラの顔に何か冷たいものがかかり、たまらず悲鳴を上げる。
「な、何一体……」
シェラが恐る恐る目を開けると、そこには水鉄砲を構える柚子の姿と、彼女の母親夏香の姿があった。
「こ、こら柚子!何てことするの!ああ申し訳ありません!!」
愛娘の頭をコツンと小突いた夏香は、平謝りにシェラに頭を下げる。
「え、えっと……今日は一体、どんな御用で……?」
シェラが恐る恐る尋ねると、言葉の代わりに、柚子がシェラに抱きついてきた.
「わっ?」
突然の出来事に、シェラは戸惑いの声を上げる。
「あのね、今日はシェラねぇにお礼を言いに来たの」
すると、柚子がにっこり微笑みながらシェラに言った。
「お、お礼?」
「うん。あたしのこと治してくれて、ありがとう。あのね、シェラねぇの手、とってもあったかくて気持ちよかったよ」
「あ、う、うん。どういたしまして」
シェラはコクコクと頷く。
「あの、それで昨日、失礼な態度をとってしまったお詫びも兼ねてなんですが、これ、受け取ってください。つまらないものですが」
夏香が恐縮しきった様子で、紙袋をおずおずと差し出す。
「あ、いえとんでもないです。ありがとうございます」
シェラはそれを受け取って、うやうやしく頭を下げた。
「あのねあのね、シェラねぇ。あたしね――」
すっかりなついた様子で、柚子はシェラにしきりに話しかける。
(うーん……とりあえずよかった……のかな?)
シェラはなんとなく腑に落ちない様子ながらも、とりあえず今回の挨拶回りの成果に納得することにした。