「これでよし……」
シェラは紙袋の中に入った箱の数を確認すると、大きく頷いた。
挨拶回りは引っ越してきた時の基本、この先の近所付き合いは第一印象で決まると、シェラは何度も言われてきた。
「準備オッケー」
シェラは大きく深呼吸をすると、表情を引き締めた。
「それじゃあ、出陣」
シェラは家を出ると、まずは隣の家に向かった。
「ごめんくださーい」
呼び鈴を鳴らし、玄関の前で待つ。
程なくして戸が開くと、老夫婦が姿を現した。
「なんじゃね?」
「今度、隣に引っ越してきましたシェラというものです。つまらないものですが、お近づきの印にどうぞ」
そしてシェラは紙袋から饅頭の入った箱を取り出し、老婦人に手渡す。
「まぁまぁ、これはご丁寧に」
老婦人はそれをうやうしく受け取る
シェラはその後、二、三言言葉を交わし、老夫婦宅を後にした。
「よしっ!」
そして上々の感触に拳を握り締める。
その後シェラは、無難に挨拶回りをこなし、予定していた最後の一軒に向かった。
『夏原』と書かれた表札が掲げられた門をくぐり、玄関のチャイムを鳴らす。
「……………………」
しかし、反応がない。
「留守なのかなぁ?」
シェラは再度呼び鈴を鳴らした。
「…………」
しばらく待つ。
すると、ゆっくりと戸が開き、中から髪を二つ結びにした小さな女の子が姿を現した。
女の子は不機嫌そうに、シェラを睨みつけている。
「あっ……えっと……」
シェラがその女の子に話しかけようとした時、女の子はシェラに隠し持っていた水鉄砲の銃口を向け、発射した。
「きゃっ!?」
突然の水攻撃に、シェラはたまらず悲鳴を上げる。
「な、何するの……!」
そして抗議の声をあげると同時に、その子の母親らしき人物が現れた。
「あ、あの……!」
シェラが保護者に文句のひとつでも言おうとすると、その女性は不機嫌そうな表情できつい視線をシェラに送ると、無言のまま戸を閉める。
「…………」
一人取り残されたシェラは呆然自失の状態でその場に立ち尽くした。
「……ここの家にはあまり近づかないようにしよっと」
そしてシェラは小さく呟くと、そのまま家へと戻っていった。