休憩を終えた俺達は、再び行動を開始していた。
「恵理子は次、どこへ行きたいんだ?」
「あたし?あたしは……うーん……うん。ジェットコースターに乗ってみたい」
俺の質問に、恵理子は少し考え込む仕草を見せてから、右斜め前方を指さした。
そこにはアトラクション待ちと思われる長蛇の列ができている。
「アレに並ぶのか?」
「もちろん!先輩は嫌なの?」
「まぁ……恵理子が乗りたいって言うんだったら……」
「なら決まり!早く行こうよ、先輩!」
「あっ、おい……」
俺は恵理子に連行されるかのように、渋々後をついていく。
あまり乗り気じゃないが、どうせ他の所へ行っても同じだろう。
そして俺達は、そのままジェットコースターの最後尾へと並んだ。
この長さだと、おそらく、30分待ちは覚悟しなければならないだろう。
「しっかし、お前って本当に並ぶのが好きだよなぁ」
俺は隣で嬉しそうにしている恵理子に言った。
「だって、先輩とジェットコースターの乗るなんて、初めてだもん」
恵理子は嬉しそうに答える。
「そりゃ、お前と遊園地に来たのは今日が初めてだからな」
「なら、今日は記念すべき初体験だね!」
「初体験って……あのなぁ……」
俺は思わず苦笑する。
どうしてこういう時に、そんな単語が出てくるかなこいつは?
「それにほら、つばめもきっとこういうんじゃないかなぁって」
「つばめは間違っても、そんなこと言わないから大丈夫だ」
思わず本音が出てしまう。
「…………」
しまった!これは減点か!?
無言になった恵理子を見て、俺は一抹の不安を覚える。
「まったく……先輩はお気楽でいいなぁ……」
しかし次の瞬間、恵理子は大きくため息をついた。
「そんなことだから、いつまでたってもつばめに振り向いてもらえないのよ」
そして余計な一言。
「まったく、全然乙女心がわかってないんだから。それじゃあ先輩に聞くけど、どうしてあたしがこんな服装してきたと思う?」
「えっ……」
突然の質問に、俺は一瞬戸惑う。しかしすぐさま答えた。
「もちろん、かわいいから」
「えっ?」
今度は恵理子が目を丸くする。
あれ?違ったのか?
「いやぁ、そのワンピ姿とってかわいいから、着てきたのかなぁって……」
「え、えっと……」
途端に恵理子は赤くなってしまい、視線を下げる。
しかしすぐさま顔を上げ、怒っているような表情を作った。
「そ、そうじゃなくって!!ミニスカートとかだったら、ジェットコースターに乗れないでしょ!?」
「ああ、そういうこと?それで、動きやすく、かわいい服装をしてきた、と」
「もぅ……」
恵理子はぷいっと横を向く。
「そんなんじゃ誤魔化されないんだから」
そして消え入りそうな声で呟く。
まぁ、俺にはしっかり聞こえてるわけだが。
まったく、素直じゃない奴だな。
そうこうしているうちに、ジェットコースターに乗る番が回ってきた。
「やっと乗れるな」
「うん、そうだね」
俺達は係員の指示に従い、隣り合って乗り込む。
やがて、バーが下ろされ、ブザーが鳴り、コースターが動き出した。
ゆっくりとゆっくりと上昇をしていき、てっぺんで一瞬止まったかと思うと、一気に急降下する。
「きゃー♪」
バーに捕まる俺の横で、恵理子は楽しそうな表情を作りながら黄色い歓声を上げた。