あちらこちら見て回り、アトラクションも程々に楽しんだ俺達は、ベンチに腰掛けて休んでいた。
時間を追う毎に人の数が増えていき、さらに混雑さを極めていく。
「恵理子、喉渇かないか?」
「うん……ちょっと乾いちゃったかな?」
「そっか……」
恵理子の言葉を聞いた俺はベンチから立ち上がった。
「俺も喉かわいたから、なんか買ってくるわ。恵理子は何がいい?」
「あたしは……オレンジジュース」
「わさびジュースだな?わかったよ」
「わさびジュースじゃないもん!!オレンジジュース!!」
わざと間違えて聞きなおす俺に向かって、恵理子は強く言いなおす。
「わかったわかった。怒ることないだろ?ちゃんと買ってくるよ」
俺は笑いながら恵理子に言葉を返すと、そのまま近くにある売店に向かおうとした。
が、しかし――
「!?」
「…………」
恵理子が俺の腕をつかんで、放そうとしない。
「な、なんだよ?」
「やっぱりあたしも行く」
言うや否や、すくっとベンチから立ち上がった。
「はぁ?」
「だって先輩に任せたら、変なジュース買ってきそうだもん」
そして腕を絡ませて、体を密着させてくる。
「お、おい?」
「先輩忘れたの?これは、デートの練習なんですからね。腕を組むことくらいどーってことないと思うけど、ちゃーんとつばめとの本番でできるように、今から練習しておくの!」
恵理子はもっともらしいことを言うが、顔はなぜか嬉し恥ずかしそうだ。
こいつ、自分の都合のいいように言葉を使ってないか?
「ほら先輩、行くよ!」
「あ、ああ」
俺の疑念を打ち消すかのように、恵理子は歩き出す。
仕方なく俺も恵理子に合わせることにした。
近くの売店は、ちょうどタイミングがよかったのか、さほど列ができていない。
俺達が並んでから程なくして、注文する番が回ってきた。
俺達がカウンターの前に歩み出ると、「いらっしゃいませー」と、店員の明るい声が出迎える。
「えーっと……」
「オレンジジュース2つと、イチゴクレープ2つ」
しかし、俺がメニューを見ようとした瞬間、恵理子が素早い口調で注文した。
「えっ?」
「先輩、お会計よろしく。まさかとは思うけど……女の子に払わせるなんて恥ずかしいこと、しないよね?」
「……わかったよ」
俺は渋々財布からお金を出し、代金を払った。
「まったく……俺は、クレープなんて食べないぞ?」
「何言ってるの、先輩。デートといったら、やっぱり、彼女と同じものを食べないと」
恵理子はビシッと人差し指を立てる。
お前はいつから俺の彼女になったんだ?
危うく口に出しそうになった言葉を、すんでのところで飲み込む。
やがて注文したオレンジジュースとクレープを受け取って、俺達は売店を後にした。
そして、空いていた近くのベンチに腰を下ろす。
「しっかし……クレープなんて、おいしいのか?」
「とってもおいしいよ。つばめも大好物だし」
「へぇ……つばめがねぇ……」
俺は一口かじってみる。
正直、俺にはうまいかどうかわからなかった。
でもまぁ、恵理子がそういうなら、きっとそうなんだろうな。
「つばめはこーゆーのが好きなのかぁ……ん?」
気がつくと、恵理子は俺のクレープをジーっと凝視している。
「どうした?」
「……そっちのほうが、クリーム多い」
「は?」
「ちょっと味見〜」
言うや否や、恵理子は俺が既にかじった部分に食いついた。
「あっ!?」
そしてモグモグと口を動かし、かなり広範囲の生地を口の中へと奪っていく。
「こ、こら!自分の食べろよ!!」
「だって、先輩のクレープのほうが、生クリームの量多そうだったんだもん」
恵理子は悪びれた様子もなくオレンジジュースをちゅーっとすすると、これ以上ないというくらいの笑顔を浮かべた。
「えへへ」
「!!」
その瞬間、俺の胸の鼓動は、これ以上ないというくらい高鳴った。