開園から待たされること45分、俺達はようやくメルヘンワールドへと足を踏み入れた。
思ったよりも人の流れがスムーズで、俺が予想していた時間よりも少しだけ早く入場することができたのは喜ばしいことだが。
恵理子と雑談を交わしていたためか、あっという間に時間が過ぎ去ったような気がする。
まぁ、それはともかく。
案の定、メルヘンワールドの中は見渡す限りの人、人、人で埋め尽くされていた。人気のアトラクションには早くも長蛇の列ができている。
「先輩、早く早く!」
恵理子は待ちきれないといった様子で俺の手を引っ張った。
「そんなにせかさなくっても大丈夫だって」
俺は恵理子に引っ張られるまま、早足で後をついていく。
こいつ、デートコースがどうのとか言ってなかったっけ?
でもまぁ、そんなことを指摘したところで減点をくらうだけだろうし、実際つばめと一緒に来たとしても、やっぱり恵理子と同じ行動をとりそうな気がする。
恵理子の目の輝きが、絶対そうだって物語ってるし。
正直、こんなに生き生きした恵理子を見るのは初めてかも。よっぽど楽しみにしてたんだな……
恵理子は頭の中に配置を暗記しているらしく、マップを見ずにどんどん進んでいった。
やがて目的地へとたどり着くと、恵理子は足を止めた。
「うわぁ〜……これがお菓子の家なんだぁ……」
恵理子は目を輝かせながらその建造物を見た。
「こんなもんよく作ったな……」
俺も半ばあきれながら、感嘆のため息をつく。
俺達の目の前には、一軒の大きな家が建っている。
しかしごく一般的な家とは様子が違い、煙突が飴色、屋根がこげ茶色、壁がきつね色、ドアが白色など、風変わりな色形をしていた。
わかりやすく言うと、お菓子の家である。
冬になるとよく雪祭りで造られる雪の彫像をテレビ映像で目にするが、あんな感じの「くだらないことに全力を費やした」芸術品を目の当たりにするのは、これが初めてかも。
やっぱ凄いもんだな。職人魂を感じるぜ。
「先輩もそう思う?とってもおいしそうだよね」
「お前……食うことしか頭にないのか?」
「そんなことないけど……でもやっぱりおいしそうだよ」
「はぁ……やっぱお前はお子様だな」
「う〜!!先輩のイジワル!!」
呆れながらため息をつく俺に対し、恵理子はポカポカと俺のことを両拳でたたいてくる。
まったくしょうがないやつだ。
俺は心の中でため息をつきつつも、新たな発見に驚きを禁じえなかった。
まず、恵理子がお菓子が大好きだということ。
そして、子供っぽいところがあるということ。
何より最大の驚きは、俺が思っていた以上に女の子だったって言うことだ。
学校で顔を合わせているときの恵理子からは、今の姿など微塵も想像できない。
ひょっとして俺は、恵理子のことを何も知らないんじゃ?
俺は恵理子のことを理解しているつもりで、実は何もわかってなかったんじゃ?
そう考えると、ますます恵理子のことが知りたくなってくる。
「まったく……アンデルセン童話に出てくるようなお菓子の家を食べたいだなんて言ってるうちは、まだまだお子様だってことだ」
「アンデルセン童話じゃなくってグリム童話だよ」
「そっか?まぁ、どっちにしても、同じようなもんだろ?」
「もう!!先輩ってば乙女心わからなすぎ!!減点10!!」
恵理子はぷうっとほっぺを膨らませ、理不尽な減点を言い渡した。