「ただいま」
学校が終わって百合が帰宅してくると、珍しく何の反応もなかった。
いつもならお魚咥えたドラ猫ならぬ、たい焼き咥えたニーナが「おか百合〜」と百合の帰りを出迎えるのである。
「ニーナさん、一体どうしたんだろ??」
不思議に思いながら百合はリビングに行くと、そこにはコタツでへたばっているニーナの姿があった。
「お、おか百合……百合ちゃん……」
「ど、どうしたんですかニーナさん?」
百合は鞄を投げ出してニーナに近寄った。
ニーナは苦しそうな表情を浮かべている。その姿は、今朝の姿からは想像できないものであった。
思わず、百合も心配になってしまう。
「ちょ、ちょっと……」
「ちょっと?どうかなさったんですか?」
「筋肉痛……」
「えっ……筋肉痛?」
百合はその言葉を聞いて一瞬呆然となったが、次の瞬間笑い出していた。
当然、ニーナはおもしろくない。
「ひどいよぉ百合ちゃん。笑うことないでしょ?」
「クスス……ごめんなさい。だってニーナさんが筋肉痛だなんて」
「なによぅ。あたしだって筋肉痛くらいにはなるわよ」
ニーナはムスッとした表情をつくってそう返答した。
「でも、それだけ運動してなかったってことでしょう?これを機会にもっと運動しなくちゃいけませんね」
「そうよねぇ。それは反省してるわよ。あたしは百合ちゃんみたいに愛しの通君見て熱カロリー消費するってことできないから」
「ニ、ニーナさん!!」
「おかえしだよ」
ニーナはそう言うと、苦悶の表情を浮かべながらゆっくり置き上がった。
「でもね、おかげで今度の仕事がみつかったんだから」
「えっ?」
「ホラ、これ見てよ」
ニーナは机の上に1枚の広告をだした。
どうやらダイエットに関する健康食品のようで、大きな文字で『マジック・シュガー』と書かれている。
「これがどうかしたんですか?」
「この健康食品、食べるだけでやせるって書いてあるでしょ?」
「はい」
「ところがどっこい、この白い粉は魔法でもなんでもなく、ただの砂糖なのよね」
「えっ?」
「ホラ、現物あるよ。舐めてみる?」
ニーナはポケットから1つの小瓶を取りだし、コタツの上に置いた。
「それではちょっと、失礼します」
百合は蓋を開けてその白い粉を指につけてみた。
そして恐る恐る舐めてみる。
口の中に広がる甘み。
それは紛れもなく、砂糖の味だった。
「コレを健康食品として販売してるんですか?」
「そっ。それも法外な値段でね」
「そうですか……」
百合はそう呟きながら、食い入るように広告を眺めていた。