「まったく、少しは運動しなくっちゃダメですよ?」
百合はそう言いながらニーナの前にお茶を置くと、椅子に腰掛けた。
「うーん……おっかしいなぁ……運動はしてるつもりだったんだけど……」
たい焼き柄のパジャマに着替えたニーナが、その差し出されたお茶をすすりながら思案にくれる。
「そう言えば最近、料理がおいしすぎちゃったから気がつかないうちに食べすぎちゃってたのかも」
「確かに最近のお料理、とってもおいしかったですもんね」
百合もその意見に同意する。
料理のおいしい元凶は、この前盗んできたレシピであることは明白であった。
「でも、おいしすぎるってのも問題よねぇ……」
ニーナはうつむきながら少しおなかの辺りを触ってみた。
そして表情が曇る。
「なんとかしてやせなくっちゃ……でもどうしよう……」
「和菓子を食べないようにする、とか?」
「それはダメ!!絶対棄却!!大却下!!」
百合の案にニーナは真顔になりながら両腕を交差させて×印を作った。
好物の和菓子が食べられないとなるとなると、ニーナの死活問題にも関わって来るほどの大事なものになるのだろう。
「それじゃあ、どうするんですか?」
「そうねぇ……」
ニーナは少し腕を組みながらしばらく難しい表情を作ると、ポンと手を打った。
「朝、ジョギングしよう」
「えっ?」
「だから走るんだってば。もちろん百合ちゃんも一緒にね」
「ええ〜!?」
ニーナの思いがけない言葉に百合は目を丸くした。
「どうして私が走らなくちゃいけないんですか!?」
「あっれぇ〜?そんなこと言っちゃっていいのかなぁ?」
ニーナはニヤニヤしながら百合に言った。
この表情を作った時、ニーナはきまって何かを企んでいる。
百合はなんだかイヤな予感がした。
「……何を企んでるんですか?」
「さぁ、なんでしょう??」
ニーナはそうとだけ言うと、椅子から立ち上がった。
「明日は早いから、もう寝るね」
「ちょ、ちょっと、ニーナさん?」
「さーて、お・や・す・み♪」
ニーナは意味深な言葉だけ残すと、そのまま自分の部屋へと戻っていってしまった。
「……なんだかイヤな予感がする……」
しばらく呆然と眺めていた百合であったが、やがて椅子から立ち上がると、そのまま自分の部屋へと戻っていった。