三笠家の中に足を踏み入れた百合は、沙絢に促されるまま、階段を上がって二階へと向かう。
そして、ある部屋の前へと来た。
その部屋には札がかかっており、かわいらしい文字で部屋の主の名前が書かれている
「さーやの部屋」
どうやらここが、沙絢の部屋らしい。
「さ、百合ちゃん入って入って」
沙絢は部屋の戸を開け、中に入る。
百合も続けた中に入った。
「これが……沙絢ちゃんの部屋……」
百合は物珍しそうに、部屋の中を見回す。
ぬいぐるみもなければ、暖色系の装飾でもない。
代わりにプラモが飾られており、戦車のポスターが貼られている。
そこには少女らしさのかけらもない部屋であった。
「本当に……ここ、沙絢ちゃんの部屋なんですか?」
「そうだよ」
百合の素朴な質問に、沙絢は即答する。
「まぁ、みんなから言われるんだけどね。女の子らしくない部屋だって。あ、百合ちゃん、とりあえずそのベッドに座って。今、座布団持ってくるから」
「は、はぁ」
百合は言われるまま、ベッドに腰掛ける。
「それじゃあ、ちょっと待っててねー」
沙絢はそのまま戸を閉めて部屋を出て行った。
「……………………」
しばし静寂の時が流れる。
(静かですね……)
百合は天井を見上げた。
「……来てよかったのかな……」
そしてため息をつく。
もちろん、その原因は同級生の通である。
通は沙絢の兄、つまりこの家に住んでいるわけである。
いくら沙絢のためとはいえ、本当にここに来てよかったのか。
もし通に嫌な顔をされたらどうしよう。
不安な気持ちが百合の心に渦巻いていく。
(沙絢ちゃん、早く戻ってこないかな……)
百合は沙絢が出て行った部屋の出入り口を見つめる。
すると、まるでそれに呼応するかのように戸が開いた。
「あ、沙絢ちゃんお帰りなさい……いっ!?」
そして絶句する。
そこに姿を現したのは沙絢ではなく、彼女の兄、通だったのである。
「と、通君!?」
一方の通も、思いも寄らぬ人物に遭遇したといった感じで、その場で固まった。
「……………………」
しばらくの間、互いに見つめ合うまま沈黙の時が流れる。
(どどど、どうしよう!!)
百合の思考は完全にパニックに陥っていた。