夜も更けて丑三つ時。
厚い雲に覆われ、星や月が全く見えない闇夜のビルの屋上に、二人の少女の姿があった。
一人はセクシーマジシャンスタイルのニーナ、もう一人はメガネをコンタクトに変えた、私服姿の百合である。
「百合ちゃん、準備はいい?」
「はい」
お互いに顔を見合わせる。
そしてニーナは両手を前で合わせ、祈りを捧げるようなポーズを作り、言葉を発した。
「聖なる星の聖なる音。今悠久の時を超え、星々の旋律を奏で、漆黒の薔薇に誓いし乙女に力を与えん。いざ天に舞え!ホーリースター!!」
百合の全身が不思議な光に包まれていき、服装が変わっていく。
手には腕まで覆う黒の長手袋が。
足には太ももまである長い黒のソックスと、膝下の高さの黒いブーツが。
上半身には胸元が割れ、やたらと胸元を強調した黒いローレグのレオタードが。
下半身には膝上の長さの黒いミニスカートが。
やがて光が収束し、 怪盗黒薔薇が姿を現した。
「百合ちゃん、これを持って行って」
ニーナはそう言って、百合にスプレーを渡した。
「これは?」
「ニーナさん特製の催眠スプレー。これを吹きかけられたら、どんな相手でもたちまちの内に言うこと聞かせるっていう優れものよん」
「へぇー……」
百合はスプレーを見る。
至って普通のスプレーにしか見えない。市販でおひとつ五百円くらいで売ってそうだ。
「ニーナさんって、料理以外は何でも作れるんですね」
百合は素直に感心する。
ニーナが異世界から来たと聞いた当初は眉唾物で全く信じられなかったが、今では尊敬の念さえ覚えていた。
「凄いでしょ?お嫁にもらってくれてもいいのよん?」
ニーナは得意げに胸をはる。
「そうですね。お嫁さんにはいりませんが、代わりにこの仕事が終わったらマッサージチェアでくつろがせてあげますね」
にっこり笑う百合に、ニーナは身震いする。
「あ、アレはもう勘弁!!」
「そうですね。こんな仕事はもう勘弁ですね」
百合はそう言って、正面の遠くにそびえ立つビルを凝視する。
「あたしの調べだと、あのビルは警察がかなり厳重に警備しているらしいわ。気をつけてね」
「はい」
ニーナの言葉に、百合は冷たい微笑みを浮かべた。