「一体どういうことですか!?」
「まぁまぁ落ちついて」
「これが落着いてられますか!一体どういうことなのか、わかるように説明してください!!」
 百合は家に帰るなり、ニーナを捕まえて怒り心頭で尋問を開始していた。
 ニーナも百合の今まで見たことない怒った態度にくわえ大好きなタイヤキを取り上げられてしまってはおとなしくするしかなかった。
「そりゃ百合ちゃんに一言も相談しないで予告状出しちゃった事は悪かったって思ってるわよ。でもね、時間がなかったの」
「時間?」
「うん。あたしがテレビ見る時間」
「……………………」
「じょ、冗談だって。そんな顔して睨まないでよ〜」
「こんな時に冗談はやめて下さい」
「わかったわよ。本当のことを話すわ」
 ニーナは神妙な面持ちになると、どこからともなく一冊の少女漫画を取り出した。
「この漫画、知ってる?」
「春風怪盗セイント・ポニーですよね?知ってますけどそれがなにか?」
「この漫画ってすっごくおもしろいよね。主人公の少女なんか、百合ちゃんそっくり♪」
「ま、まさか……漫画を読んで犯行を思いついた、とか?」
「ビンゴ!!さっすが百合ちゃん、物分りがいいわ。やっぱ怪盗に予告状はつきものよねぇ」
「ニーナさん……」
 百合はそれを聞いて拳をギュッと握り締めながらワナワナと震えた。流石にマズイとおもったのか、ニーナは不安げな眼差しで百合を見る。
「あはは……やっぱ、怒ってる……?」
「ニーナさんは私のこと、家来だと思ってるんですか?」
「そ、そんな風に思ってないよ!!」
「では、何?」
「大切なパートナーに決まってるじゃない」
「大切なパートナーを、窮地に追い込むことに良心は咎めませんか?」
「そりゃ少しは咎めるわよ。だから今回はあたしも最大限協力しようと思って……」
「それでは、協力してもらいましょう」
 百合はおもむろに立ち上がると、居間の隅に置かれていた椅子を指さした。
 それはニーナがおもしろ半分に通販で購入したマッサージチェアであったが、何故か「くすぐり機能」なるありがた迷惑な機能がついているシロモノであった。
「アレに座ってください」
「えっ……?」
 すぐさま百合の意図を察したニーナは、顔から血の気が引いていく。
「あ、あのね、百合ちゃん……」
「座ってください」
 今度は冷たい視線で、ニーナに命令する。
「はい……」
 ニーナは渋々立ち上がると、そのマッサージチェアに腰掛けた。
「…………」
 百合は黙々と、ニーナの両腕、両足、腹、胸を椅子の付属ベルトで固定する。
「あ、あのね百合ちゃん。今ならまだ引き返せるよ?取り返しのつかない過ちを犯す前に、よく考え直して!」
「…………」
 百合は無言のまま、マッサージチェアのリモコンを手に取った。
「ご、ごめんね百合ちゃん!お願い!許して!!」
「もう……遅いです」
「えっ!?きゃはははははは!!」
 百合はリモコンのスイッチを押し、くすぐりモードをオンにした。
 ニーナの足の裏、脇腹、背中などを、くすぐり始める。
「ゆ、百合ちゃん、あたしが悪かったから!もうやめてよぉ!」
「ダメです。反省してもらわないと」
「あ、あはははは!ひーん、ご、ごめん、こ、このとおり、謝るから、許して、お願い!」
「許しません」
「こ、このままじゃ笑いすぎて、死んじゃうよ!!苦しい!!助けて!!あっははははははは!!」
「幽霊は死なないから大丈夫です。しばらくそうやって反省してください」
「そ、そんなー!!きゃはははははははは!!」
 ニーナは全身をくすぐられ、マッサージチェアに座った状態で体をくねくねと動かしながら笑い続けた。
 ニーナにとってはこの上ない生き地獄で、ヤメテほしくても百合がやめてくれない限りこの苦しみはずっと続く。
 ニーナは安易な考えで行動を起こしてしまったことを、心底後悔した。
「はぁ……困ったなぁ……」
 百合はそんな苦しんでいるニーナを尻目に、今夜決行する犯行の方法に頭が移っていた。
  


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