「おーいみんな!!大変だ大変!!予告状が届いたぞー!!」
 昼休みに和気藹々とした和やかな雰囲気に包まれる教室の中に、血相を変えた高志がスポーツ新聞の号外を持って飛びこんできた。
「どうしたんだ高志?そんなに息切らして」
 親友の通が心配そうに彼に近寄る。どうせロクでもないネタを持ってきたんだろうと、通は思った。
「バ、バカ、これが血相を変えずにいられるか。届いたんだよ」
「届いた、ってなにが?」
「決まってるだろ!怪盗黒薔薇の予告状だよ!」
「えっ!?ブラックローズの予告状だって!?」
 その衝撃的な発言に、教室中の注目が一点に注がれる。
 中でも百合はもっとも衝撃を受けてその発言に聞き入っていた。
(一体どういうこと!?私、予告状なんて出してないのに……)
「でも、それ本当にブラックローズの予告状なのか?あの怪盗、今まで一度も犯行予告なんて出したことないだろ?」
「だからこーして号外まで出るんじゃねーか。ま、もっとも、それだけが理由じゃないけどな」
「えっ?」
「その犯行予告が届いた場所がどこだと思う?なんと、あの龍ケ崎虎瀬の自宅ビルなんだ!!」
「な、なんだって?あの料理評論家の龍ケ崎に!?」
 ザワザワと、教室内は一気に騒がしくなる。
(ひょっとして……)
 百合はその言葉をきいて、ある人物の表情が思い浮かびあがってきた。
 というのも、こんなことをするのは、彼女以外考えられなかった。
(どういうことか、後で確かめなくっちゃ)
 百合がそう思う隣で、三森は怒りに血をたぎらせていた。
「ブラックローズ、絶対許せない!!日本の警察を何様だと思ってるの!?ねっ、そう思わない百合?」
「う、うん、そうだよね……」
「赤羽さん、落ち着いて」
「これが落ちついていられるものですか!!いい三笠君?今日、張り込むわよ」
「張り込むって、どこに?」
「決まってるじゃない!!龍ケ崎ビルよ!!」
「えええっ!?」
 突然の三森の発言に通は驚きの声を上げた。百合も目を丸くして三森を見る。
「あ、赤羽さん、何もそこまでしなくても……」
「あのねぇ、三笠君」
 三森はハァ、っと小さくため息をついた。
「ジャーナリズムを、なんだと思ってるの?」
「え、えっと、情報を正しく世に伝え、社会悪を許さないこと、かな?」
「そうよ。だから、怪盗黒薔薇の存在なんか認めちゃいけないの。あいつは人々から忌み嫌われるべき存在なんだから。正義の象徴のように扱っちゃいけないのよ」
「だからって、そこまでする必要は……そ、それに、怪盗黒薔薇の盗みを見てみると、かなり複雑な事情が絡み合って必ずしも悪って限らないわけだし……」
「いいえ!!」
 通の言葉を遮るかのように、ダン、と三森は力強く机を叩いた。その迫力に通は圧倒されてしまう。
「いい三笠君?泥棒は所詮泥棒。いくら綺麗事を言っても、犯罪には変わりないのよ?」
「う、うん」
「それに、私達ジャーナリストは世にはびこる悪人を断罪するのが使命なのよ?だから最近巷を騒がせてる諸悪の根源、ブラック・ローズを捕まえることこそ私達の責務よ!!わかった!?」
「は、はい……」
「それじゃ三笠君、いいわね?」
「わ、わかりました」
 三森のものすごい剣幕に圧倒されて、通は渋々了承の申し出をした。
(ど、どうしよう……大変なことになっちゃった……)
 百合はそんなことを思いながら、なにかいい方法はないかと考えるしかなかった。
  


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