小テストが終わり、授業も進んで昼休み。
 学食で焼きそばパンを買ってきたニーナは一人、屋上のベンチに腰掛けメモ帳にペンを走らせていた。
「四阿百合。本作の主人公。県立妹尾高校2年B組生徒。黒髪のロングヘアーがトレードマーク。読書が好きな物静かな少女。眼鏡をかけている。メガネっ娘」
「怪盗黒薔薇。百合が怪盗に変身した(変身させられた)姿。メガネではなくコンタクトに変えている。手には腕まで覆う黒の長手袋。足には太ももまである長い黒のソックスと、膝下の高さの黒いブーツ。上半身には胸元が割れ、やたらと胸元を強調した黒いローレグのレオタード。下半身には膝上の長さの黒いミニスカート。敵と戦う時は、手にした黒薔薇を武器に変化させて戦う」
「星音ニーナ。四阿家に居候している幽霊の少女。どらやきやたいやきといった、甘い物が好き。とても明るい性格をしている。百合ちゃんの大親友」
「怪盗ホーリースター。ニーナの生前の怪盗姿。ニーナがいた世界では伝説の怪盗だったらしい。セクシーなマジシャンのような服装」
 ここでいったんペンを止め、ページをめくる。
「三笠通。県立妹尾高校2年B組生徒。気が優しい優等生」
「赤羽三森。県立妹尾高校2年B組生徒。気が優しい優等生」
「猪狩高志。県立妹尾高校2年B組生徒。気が優しい優等生」
「鴻上夕奈。県立妹尾高校2年B組生徒。気が優しい優等生」
「三笠沙絢。市立妹尾中学2年C組生徒。気が優しい優等生」
 そこまで書くと、ペンとメモ帳をベンチの脇に置き、パンを食べる。
「うーん、久々の焼きそばパン!このおいしさは学生の特権よねー」
 ニーナは表情を緩めて、とても幸せそうに食べる。
 そこへ、百合を探していた三森がやってきた。
 三森は鉄製のドアを開けて屋上へと姿を現し、ニーナが変身した百合の姿を見つけるや、近寄ってくる。
「ちょっと百合。どうしたのよ突然どこかに行っちゃって。今日は学食でAランチじゃなかったの?」
「み、三森ちゃん!?」
 突然の来客に、ニーナは目を白黒させ慌てふためく。
「ん?」
 ニーナに近寄ってきた三森は、彼女の隣に置かれていたメモの存在に気がついた。
「何これ?」
 気になった三森は、それを拾い上げる。
「あっ!そ、それは!?」
 ニーナは止めようとするが、時既に遅し。三森はメモを隅から隅まで目を通すと、ニーナを見た。
「……何これ?」
「え、えっとね、それはその……そ、そう!今度、推理小説を書こうと思って!そのモデルっていうか、原型って言うかを、ね!!」
 ニーナは身振り手振りを交え、必死で弁解する。
 三森は不審げな目でメモとニーナを見比べていたが、ハァっとため息をついた。
「あのね百合。この登場人物は何?みんな『気が優しい優等生』って。これじゃあ設定にも何にもなってないわよ」
 そしてメモをニーナに返すと、隣に腰掛ける。
「そ、そうだね……」
 ニーナは乾いた笑いをする。
(あ、危なかったー!)
 そして心の中で、大きくため息をつく。
 ページをめくられていたら今頃どうなっていたか。
 そう考えると、ニーナは生きた心地がしなかった。
「ところで百合、今日の古文どうだった?」
 三森は学食で買ってきたサンドイッチを食べながら、ニーナに話しかける。
「うん、まぁまぁ、かな?」
 ニーナは謙遜しながら答えた。
「あら?いつもと違ってあまり自信ないみたいじゃない」
「ちょっとね。三森ちゃんと同じくらいの点じゃないかなぁ?」
「それなら、負けた方が学食おごるって言うのはどう?」
「え?いいの?なんだか三森ちゃんに悪いなぁ」
「あら?言うじゃない。私だって負けないわよ?」
 ニーナと三森は互いに顔を見合わせ、クスクスと笑う。
 そして昼休みは過ぎていった。
  


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