「おはよー」
「おはよう」
朝の挨拶が賑やかに飛び交う県立妹尾高校。
朝陽を浴びて登校する生徒達の中に、百合に変身したニーナの姿もあった。
(うーん、懐かしの学舎!やっぱ高校生はこうでなくちゃねー)
ニーナにとっては久方ぶりの学校。
景色はかなり違うが、雰囲気は似ているものがある。
思わず心が躍る。
「フンフフーン♪」
ニーナは心の中で鼻歌を歌いながら、軽やかな気分で昇降口へと向かう。
「よっ、おはよ四阿」
その途中、ニーナは声をかけられた。
しかし浮かれていたニーナは、その声に反応せずに、立ち止まることなく歩を進める。
「どうしたんだ四阿?」
今度はポンと肩をたたかれる。
突然の出来事に、ニーナは激しく身を震わせた。
「あっ、悪い。そんなに驚くとは思わなかったからさ」
ニーナの反応に、相手もバツが悪そうに言う。
「あ、ごめんなさい。おはようございます。猪狩君」
ニーナは相手の顔を確認し、それが同級生の猪狩高志と理解するなり、笑顔を作り、挨拶を返した。
(いけないいけない。今はあたしが四阿百合だった)
ニーナは心の中で自分の頭をコツンと叩き舌を出す。
「どうしたんだ?ボーッとして。ひょっとして、今日の小テストのことで頭がいっぱいとか?」
高志の質問に、ニーナは首を横に振る。
「ちょっと、雲を見ていたから」
「雲ぉ!?」
「うん。あの雲、昨日食べたたいやきに似ているなぁ、って思って」
「たいやき……」
高志は何とも言えない表情を作る。
「どうしたの猪狩君?早く行かないと授業始まっちゃうよ?」
ニーナはそんなことお構いなしに、笑顔を作りながら高志に言った。
「あ、ああ……」
高志はコクンと頷き、ニーナの横に並んで歩く。
「……なあ四阿?お前、何かあったのか?」
高志は、何気なくニーナに問いかけてきた。
「えっ?別に何もないけど?」
ニーナは不思議そうに聞き返す。
「それじゃあ、変なもんでも食った?」
「たいやきは変なものじゃないよ。変な猪狩君」
クスクス笑うニーナに、高志はますます不可解な表情を浮かべるのであった。