「38度4分……完全に風邪ね」
ニーナは体温計の数値を確認すると、確信めいた口調で百合に告げた。
「ゴホゴホッ……わかってます」
ベッドに寝ている百合は、咳き込みながら答える。
額には濡れたタオル、頭の下には氷枕。
顔が赤く、息苦しそうにしながら、絶え間なく咳が出続ける。
「しっかし、とんでもない時に風邪引いちゃったねぇ」
「はい……」
百合は頷き、視線を宙にさまよわせる。
今日は古文の授業で小テストがある予定であった。
期末考査や中間考査ではないため直接的には成績に影響がないが、普段の例から言うと、小テストが本試験のヒントになることが多々ある。
成績優秀者の百合としては別に知らなくても問題ないのだが、通に勉強を教える場合、範囲を知っているのと知っていないのとでは、効率的な教え方をするという意味においては、大きな問題があった。
「ホント、しょうがないなぁ……」
ニーナはため息をつくと、両手を前で合わせ、祈りを捧げるようなポーズを作り、言葉を発した。
「聖なる星の聖なる音。今、時の旋律に身を委ねし聖なる乙女に、その力をもって仮初の姿を与えよ。ドリームチェイン!」
途端に、ニーナの体が光に包まれていく。
そして光が収束すると、そこにはもう一人の百合が立っていた。
「……うん、こんなもんかな?」
その少女は自分の姿を見て、ウンウン頷く。
「……何をしているんですか?ニーナさん」
百合が不審げな眼差しでその少女を見る。
その少女は、紛れもなく、百合に変身したニーナであった。
「いやぁ、百合ちゃんが倒れた責任の一端は、あたしにあるからさ」
ニーナは申し訳なさそうに言うと、指を二度三度振った。
「でも安心して!今日はあたしが、百合ちゃんの代わりに学校に行ってきてあげるから!」
「えっ!?」
突然の申し出に、百合は戸惑いの声を上げる。
ニーナが高校に行きたいと言い出すなど、百合は全く想像していない展開であった。
「大丈夫大丈夫。百合ちゃんらしく振る舞うから」
そんな百合の心配事を見透かすかのように、ニーナは言った。
「それとも、そんな体調で学校行く気?そんな聞き分けのない悪い子には、三笠連れてきて看病させちゃうぞ?」
「うっ……」
三笠の言葉を出された途端、百合は言葉に詰まってしまう。
「じゃ、百合ちゃんも納得してくれたところで。行ってきまーす」
ニーナはそのまま鞄を持て、部屋を出て行く。
「……ずるいです、ニーナさん……」
一人残された百合は、誰もいない部屋の中でポツリと呟いた。