----YOUICHI----


 わざわざ二人きりにするような事をしてしまったけど、大丈夫だっただろうか?
 風呂に入ると言って智の部屋を出てから、俺は結局そのまま家に帰った。だけどついつい考えてしまう。本当にこれで良かったのだろうか、と。
 智が幸司の事を好きなのは、もう見ていて分かり過ぎるくらい分かっている。あいつのは分かりやすすぎる。その上幸司も間違いなく智の事が好きになっているようだ。
 智が幸司の事を抱きたいと思っているのが俺には分かった。幸司がその事を理解しているのかどうかは知らないけど、智は間違いなくその気だ。健全なこの年頃の男なら、好きな相手が居ればまぁそう言う事も考えるだろう。それなのに俺はつい幸司をけしかけるような事を言ってしまった。好きだと言うにしろキスをするにしろ、……智のバカ野郎がぷっつんいってしまうかもしれない。
「……ちょぉっと早まったかな」
 幸司は絶対に言えないと思った。あいつは十中八九、智と別れる気でいるから。それなら俺が言わせてやろうと思ったのだ。この一月ほど智を騙していたと言う事実が、自分で許せないらしいから。
 俺に言わせれば、幸司のついた嘘なんて他愛もないものだと思う。騙したと言うほどのものですらない。だけど幸司はかたくなに智は彼を許さないと思っている。思い込んでいる。
「そんなはずないのにねぇ」
 智が好きなのは幸司そのものだ。別に年下だとか言う事は関係ないはず。それは俺も学校での幸司を見て、今智の前にいる幸司を想像する事は出来なかった。だけどあれは特別に作った性格とか言うわけではない。ならば年齢を黙っていたからと言って、智が嫌うはずなんてないのだ。それは、少しくらいむくれるかもしれないが。
 かたくなに嫌われるのを、捨てられるのを怖がっている幸司。あれは離婚をするとか言う両親と、何か関係があるのだろうか? そう言えば、幸司はその後どうするのだろう。まさかどこかに引っ越してしまうのだろうか? 学校は?
「考えても仕方ない。試験が終るまで待つさ」
 試験が終れば年の事を智に言うと幸司は言っていた。そろそろ区切りをつける時期なんだろう。このまま何もせずに過ごせば、幸司は確実に壊れる。
 何とかなってくれよと思いながら床に就いて、よく朝智の家に行った。もう九時になると言うのに二人は起きておらず、年よりも若く見える智の母親にお茶を持たされて二人を起こしにいく。片手に盆を持ち、声も掛けずに智の部屋のドアを開けた。
 俺は。昨日の約束を幸司が守る可能性はほとんどないと思っていた。たとえ頭の片隅に残っていても、行動を起こせるとは思っていなかったのだ。もちろん何もなかったからと言ってどうこうするつもりなんてなかった。あれは約束と言うほどのものでもなく、俺が勝手にやれと言っただけのもので……。
 ついでに言うと、智の自制心というもものも信頼していた。ほんの少しだけだが……。
 可能性がなかったとは言わない。俺がけしかけたのだ。だけど、絶対にないと思っていた。
 だから、ドアを開けて絶句した。
 同じベッドで、抱き合うようにして眠っている二人を見るはめになる可能性なんて、あるはずがないと思っていたのだから。





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