レースで飾られた真新しい肌衣や下着は、つけるのが勿体ないほど繊細な作りだが、アルベルトに引き裂かれたものの代わりだと思って頂戴した。
なめらかな絹の肌ざわりは心地よく、貴族の女性の気分とはこれかと思う。
(……全然うれしくないけれど)
上等なワンピースやスカートの類も、壁にとりつけられた横木にたくさん吊るされていた。
色はまちまちだ。王家の姫君が着るような淡く可愛らしい色合いのものから、大人びて見えそうなシックなものまで。中にはマリアが思わず手にとりたくなる、彼女好みのクリーム色がかった白のドレスもあった。
こんな場合でなければ、乙女の夢が現実になったみたいで、うっとりできただろう。
昨夜の陵辱の、これが対価のつもりなら、安すぎるとしか思えないが。
「…………」
考えたあげく――マリアは結局、元のシャツをはおり直した。
質素な暮らしをしているフォーゼ族のことを思えば、華やかな装いなんてする気になれなかったし、着替えてここから逃げだす体力もない。身体を清めて、じっくりと温まったせいか、重たいほどの眠気がぶり返していた。
ほろ苦い想いで再び寝台にもぐりこむと、途端に睡魔がやってきた。
(ラウラ……みんな……)
もう昼に近い時間帯だが、フォーゼ族のみんなは今ごろどうしているだろう。
帝国軍の魔手からは逃れたはずだ。
もしものときのために用意しておいた隠れ家まで逃げて、みんなが凍えをまぬかれ、おなかを満たしていることをマリアは願った。そう。あの隠れ家には、保存がきく処理をした野菜や肉がたっぷりとある……。
――中がもっちりとしたカイザーゼメルパン。塩をふって煮た、ほこほこのジャガイモ。とろりと野菜を煮込んで香草を散らした、熱々のスープ。
懐かしい食卓が、マリアの頭によみがえる。
ラウラは料理が苦手だったから、一緒に住んだ家ではマリアが料理をよくふるまっていた。
お皿洗いは得意だから! と無意味に威張るラウラが楽しくて、いとおしくて。
(……帰りたい)
アルベルトと悦楽を貪ってしまった自分には、帰る資格などないだろうけれど。
(わたしがアルベルト・ザクセンの寝台で眠ってると知られたら……)
(きっと、軽蔑される)
この惨めな状態を知られるくらいなら、死んだと思われたほうがマシだ。
仲間はおろか自分自身をも裏切りつづけた身体を抱えて、マリアはぎゅっと目を閉じる。
痛みや絶望よりも、孤独が、もっとも残酷にマリアを蝕んでいた。
2011.1.9 up.