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 夜半に一度止んだ雨は、夜明けが近くなるころに再び降りだしていた。
 首筋をやさしく撫ぜるような雨音が、疲れきったマリアの目覚めを誘った。
 ――アルベルトの腕の中で。
(……夢じゃ、なかった)
 一糸まとわぬ姿で、男と同じ上掛けにくるまっている自分がひどく悲しい。
 おぞましい秘薬の効果は消えたようだけれど、薬と敵の男にもてあそばれて自分が何をしでかしたのかを思えば、胸には絶望的な想いばかりが渦巻く。
 ……自分はもう、昨日までの自分ではないのだ。
 手をそっと下腹部へと伸ばし、腿の奥をおそるおそる探ってみる。
 淡い翳りは重く湿り、秘めた部分にふれるかふれないかのところで指をくゆらせると、途端にどろりとしたものが絡みついてきた。マリアの身体が一瞬で悪寒に支配される。
 ――同じ年頃の友人との会話で男女のことを知って以来、なんとなく結婚や愛する人との初夜を夢想したことくらいはある。
 その他愛のない夢が、無惨に穢され、永遠に奪われたのだ。それも敵の将校によって。
 アルベルトに好き勝手に荒らされた秘部に満ちる、淫蜜と吐精の混ざったものはひどい量だ。
(わたし……この男の子供を?)
 身籠るのかと、想像しただけで心が押し潰されそうになる。
 生き延びたいという浅ましい想いで恥辱に耐えたのだから、今さら死ぬことのほうが愚かだし屈辱的だ。頭では、そうわかっているけれど。
 ――そんな彼女の悲痛な想いなど知らぬげに、アルベルトはよく眠っている。

 かっちりと後ろに流していた黒髪は激しい行為の果てに崩れ、長めの前髪が顔に降りかかっていた。もはや憎む気力すらなく、ただぼんやりと男の寝顔を見つめていたマリアは、
(……意外と若い?)
 そんなふうに思った。
 名前や活躍は噂に聞いていたが、アルベルト・ザクセンの年齢は記憶にない。
(勝手に三十路過ぎだと思ってたけど……本当はわたしと、十歳も違わないのかも)
 男女のもっとも親密な行為を重ねた後で、初めて相手をまともに見つめるなんて、皮肉だ。
 フォーゼ族の青年たちとは、まるで雰囲気が違う。
 帝国軍人らしい、たくましい体躯。少し色みの違う肌。鋼で作られたように硬質な容貌。

 やがてマリアは、操られたようにアルベルトの首に手を伸ばした。
 しっかりとした太い首。
(わたしの力では、素手で殺すのは難しい……か)
 物騒なことを考えたので気づかれたか、アルベルトが目を醒ました。
 今にも絞め殺そうとするかのように首を挟む白い手を見て、彼は淡々と言う。
「目覚めのあいさつにしては強烈だな。俺を殺したいのか?」
「当然でしょう」
 余裕の感じられる口調にむっとして、マリアは負けじと冷ややかに言い返す。
「ザクセン少佐の命を手土産にすれば、《黎明の翼》の皆もわたしを認めてくれるはずですし」
「ほう」
 アルベルトは嗜虐的な笑みを浮かべた。
「敵の男に純潔を奪われただけでなく、快楽におぼれて子種まで受けた娘を歓迎するほど、フォーゼ族や《黎明の翼》は寛容なのか」
「!」
 絶望をあおる冷たい声に、マリアの表情が凍りついた。懸命に言い返す。
「それは全部、いやらしい薬のせいで――」
「おまえに呑ませた薬は、たしかに性的な刺激に反応しやすくさせる効果はあるがな。最後の最後で俺にしがみついて、脚まで絡ませながら果てたのは、間違いなくおまえの意志だぞ。本能と言い換えてもいいか」
「――! ……うそ、よ」
 かろうじて反論を紡ぐが、マリアの胸中では嵐が吹き荒れていた。
 濁流のように甦る辱めの記憶。あれが自分の意志だとしたら――
 ――裏切り。
 そう。フォーゼ族に対する裏切りだと思ったら、悪寒に身体の芯まで蝕まれた。
 青ざめて震えるマリアの手をとり、アルベルトが射すくめるような瞳で言う。
「信じられないのなら、もう一度試してみるか?」
「試すって――ッ……」
 いやな予感に離れようとした裸身を逆に引き寄せられ、唇が重なる。
 口内をくまなく蹂躙される感覚は、交わりの記憶を生々しく甦らせ、肌がぞくっと震えた。
 さまざまな体位で挑まれて疲れ果てているはずなのに、身体の奥が甘く疼きだしてしまう。
「や……ッ」
 火照りの兆しに怯えてマリアは口づけを振りほどくが、それはアルベルトが唇による愛撫の場所を変えるきっかけを与えただけだった。
 乳房の先端を強めに甘噛みされた途端、泥のように疲れた身体を、鋭すぎる性感で貫く。
(――これが……薬のせいではないというの?)
 混乱するマリアを置き去りにして、アルベルトは彼女の肌を迷いなく貪っていった。マリアのこわばったふとももを指が喰いこむほど強く押さえつけ、秘めた部分に顔を埋める。
 とがらせた舌先が花芯を探り、丁寧に莢をむき、中の真珠へとキスを落とす。
 強烈な刺激に、マリアの顔色が変わった。
「だめッ……そんな……したら、わたし――あ、ぁあ……!」
 開かれたばかりの身体にはまだ熱が澱んでいて、彼女を知りつくした男の愛撫にあっけなく火照りを甦らせ、理性を打ち砕いていく。
「あぁ……はぅ、んん……!」
 貪欲に頭をもたげた花芯を執拗に吸いたてられる動きと、マリアの腰の震えが連動した。
 秘めた場所を責めるキスを続けながら、同時にアルベルトの指はやわらかな花びらを開いて蜜口をまさぐる。数時間前まで熱い楔で散々に蹂躙されていたマリアのそこはもう、痛みなしで男の指をくわえてしまえるほどほころんでいる。
 もはや乙女ではない淫らがましさで疼く蜜口を、アルベルトの二本の指がぬるりと押し開き、顔をこわばらせるマリアにはお構いなしに内壁の熱さ、狭さを堪能していく。
「ちゃんと呑みこんでいたようだな」
 軽く曲げた指が抜き差しされると、そのたびに白濁とした残滓がマリアの胎内からかき出された。ねっとりとしたそれが秘裂を穢す感覚がおぞましくて、マリアは懸命に身をよじる。
「やッ……も、やめて、ゆるして――」
「おまえが俺に応えている限り、手加減してやる気にはなれんぞ」
 切ない訴えを退けて、アルベルトがぐいっと腰を押しつけてくる。猛々しいものが脚の奥にあたればマリアの肌はぞくりと震え、淫らな花びらがひとりでに熱い幹を愛撫してしまう。
 数時間前に何度も味わわされた快楽の奔流へと、再びなすすべもなく追い詰められる自分が情けなく、マリアは悲しげな吐息をもらした。
 ――屈服したくないのに。流されたくないのに。
 甘く切ないしびれは切れ間のない波のようにマリアをもてあそび、堕落させるのだ。
 心がずぶずぶと虚無に呑まれ、マリアの瞳から光が完全に消えようとしたときだ。
「マリア。この程度で壊れられても困るぞ」
 アルベルトが深い声音で、彼女にはとうてい理解できないことを言ったのは。
「おまえは俺の花嫁になるんだからな」
「…………え?」
 予想だにしない言葉に、マリアは悲しみも忘れて瞬きした。
 のしかかる男を凝視し、卑猥な火照りと混乱から意識をそらして、必死に考える。
 責任をとる、なんて殊勝な考えではないだろう。
 帝国貴族の娘ならいざ知らず、マリアは少数部族の、しかも敵対する組織の人間だ。
 好き勝手に陵辱され、飽きたら殺されても仕方ないとさえ考えていたのに。
「花嫁って……どうして」
「最初に俺の子を生めと言っただろうが。俺の妻となり、俺を愛するんだ。いいな?」
 そうして与えられる穏やかな口づけは、まるで誓いのそれのよう。
 マリアはつかのま茫然としたが、剛直の先端がひくつく蜜口にあてがわれたことに気づき、身を縮めた。アルベルトが愉快そうに薄く笑う。
「そうだ。ここでは随分と愛してもらったが……いずれは心でも、な」
「や……そんなこと、できな――あ、ああ……んくぅ!」
 マリアを、男女の雫にまみれた淫蕩なぬかるみに、再びアルベルトの欲望が突き立てられていく。マリアのか細い蜜壷は長大な楔がもたらす圧迫感に悲鳴を上げながらも、壊れることなく彼を包みこんだ。
 夢中でしごく内壁のざわめきに、くっと息を詰めながら、アルベルトは彼女の深奥まで灼熱を送りこむ。根元まで含ませると小さく息をつき、マリアの耳元でささやいた。
「アルベルトと呼べ」
「ッ……どう、して……?」
「……俺にここまで言わせておいて、わからないのか?」
 不機嫌そうな顔をされても、アルベルトの気持ちなど、散々にぶつけられた劣情以外マリアにわかるはずもない。
 戸惑いながら見上げるアルベルトの青の瞳は、渇望で艶やかに濡れていた。
「いいから呼べ。――呼ばないと苛めるぞ」
「んくぅッ……あ、あぁああ……!」
 苛めるという言葉を、アルベルトはその身で表現した。
 雫まみれの楔をマリアの蜜壷の中で獣欲のままに暴れさせ、彼女に快楽を強いる。
 いいようにされるマリアの身体はアルベルトの律動に合わせて揺れ、蜜壷は素直に楔に絡みつき、吐精を誘うように淫らにうねった。
 徐々に激しさを増す律動に、程なくして、マリアはあきらめて身をゆだねた。
 逃げ道のないこの状況では、もはや救いに見えるのは与えられる濃密な悦びだけだ。
 一時の狂乱の果てに何を受け入れさせられるのか、頭ではわかっているけれど、快楽におぼれることでしか心が保てそうにない。
「ああ、ぁ、ん……いや……アルベルト、も、やめ……!」
 許しを求めて名を呼んだ刹那、楔が一気に深奥までもぐりこんできた。容赦なく責め立てられつづけたマリアの身体は、ひときわ強く突き上げられて極みを迎える。
 男の精を逃がすまいと花のひだが淫蕩に蠢くけれど、まだ与えられず、脱力する暇もなく激しく腰をぶつけられた。ずっと達しているかのような混乱の中でマリアは泣きじゃくり、アルベルトはその涙をなめとりながら、ようやく狂熱をはじけさせた。
 熱くとろける最奥にはまりこんだ楔の先端から、白濁の精が勢いよく噴き出していく。
 頭の中で真っ白な光が爆ぜ、マリアはアルベルトの背にしがみつきながら力尽きた。


2011.1.9 up.

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