力の入らないマリアの身体を、アルベルトは難なく抱え上げた。
――そうして運ばれた先は、部屋の中心にある寝台だ。
豪奢な作りだ。重たげな天蓋には一面に、セピア色の薔薇が染めつけられている。
マリアの背中を受けとめたシーツも絹の海のごとくなめらかで、極上の寝心地だが、少しもうれしくなかった。彼女にとっては処刑台の上も同然である。
マリアとともに寝台に乗り上がったアルベルトは、するりと黒革の手袋をとり、鉄十字の光る重たげな上着を脱ぎ捨てた。男が無造作になすことの一つ一つが、この先のことを生々しく想像させるようで、マリアは罠にかかったウサギのように怯えてしまう。
秘薬のせいで重い身体を引きずり、離れようとするが、途中であえなく捕まった。
細い足首にアルベルトの指が食いこむ。
「ひ……ッ」
「野を駆ける牝鹿のような脚だな。……よく鍛えてある」
感心した様子でつぶやき、アルベルトはマリアの足の甲にキスを落とした。
予想外の行為に、マリアは状況も忘れて固まってそまう。たとえ女王に命令されても、そんなことをする男には見えないのに。
だがアルベルトのキスが、くるぶしから脛、膝へと移ると、今度は悪寒に貫かれた。
――すでに辱めは始まっていたのだ。
動揺したマリアが脚をばたつかせるのに構わず、アルベルトは彼女の足首を高くかかげて、隙だらけになった内股へと唇をはわせた。
乏しい灯りの下でも穢れなき白さで男をそそる肌を、ある一点で強く吸う。
「!」
その小さな刺激に、マリアの身体は異常なほど反応した。
稲妻じみたものが背筋まで甘くしびれさせ、下肢から勝手に力が抜けてしまう。
(なに……これ……?)
これが秘薬とやらの効果なのか。泥沼に引きずりこまれるような恐怖が背を伝う。
怯えに瞳を揺らすマリアを眺め、アルベルトは暗い愉悦で瞳を底光りさせた。
「身体が火照ってくるだろう?」
男の手が、マリアのシャツに伸びる。
のしかかってきた大きな身体を押し返そうとしても無駄だった。あっけなくシャツを剥かれ、羞恥と刺激でほんのり赤らんでいた素肌や、やわらかな肢体の曲線が、アルベルトの目の前にさらされてしまう。
「痩せているわりにはいい身体をしてるな」
次いで、ぷつりと音がした。乳房を押し潰していたサラシの結び目が切られる音だ。
押さえるのに苦心する豊かな乳房は、不本意だが男の目を楽しませたようだ。
あっという間に秘部をおおう下着のみにされて、マリアの顔が恥辱に赤らむ。
「時に、おまえはいくつだ?」
「…………」
「答えたくないなら、おまえの身体に聞くだけだがな」
身をよじって素肌を隠したがるマリアを、アルベルトは難なく後ろから抱きすくめてしまう。
鍛えているとはいえ所詮は少女、若い軍人の力に敵うわけがない。
いとも簡単に抵抗の大半を封じられ、マリアは無力感で一杯になった。
ラウラたちを救えれば、自分はどうなってもいいと思っていたけれど、こんな辱めの覚悟はしていなかった。どうしたらいいのだろう。混乱と微熱で、頭がほとんど働かない。
「口は封じていないはずだぞ。――マリア」
ささやきとともに、首筋に口づけられる。
たくましい腕の中、背中に男の温もりが密着する状態はマリアを怯えさせた。
四肢をばたつかせても、アルベルトはお構いなしに彼女の身体のラインをなぞり、それが当然のように乳房へと手をかける。乾いた手のひらの感触にマリアは息を呑んだ。
「! や、やめて……さわらないでッ」
「歳は?」
「十八――」
反射的に答えてしまったが、アルベルトがそれだけで解放してくれるはずもなく。
「ラウラ・フレンツェルと同い年か。彼女の親戚か?」
「……ッ」
突然核心に戻され、情報を与えたくないマリアは急いで唇を噛む。
不安だったがアルベルトは結局質問を重ねず、だれにもふれさせたことのない乳房に彼の手の熱を刻みこむような愛撫を始めた。
最初は違和感しかなかったが、白いふくらみが火照りはじめると、マリアは次第に奇妙なもどかしさを感じはじめた。ふくらみだけではなく――先端にも刺激が欲しくなるような……。
「や……いや、やめて……」
切ない感覚は恥ずかしく、それ以上に屈辱的で、マリアの声は無様に震える。
この男を楽しませるだけだと思うから、唇を噛んで涙だけはこらえたが。
「やめる? ここからが楽しいのにか?」
「ッ……!」
酷薄な笑み声を流しこみ、アルベルトはふいにマリアの耳朶を軽く食んだ。
今まで他人にそんな悪戯をされたことのないマリアは、過敏に肩を跳ねさせてしまう。
うぶな反応に、アルベルトがすうっと目を細めた。
「慣れない反応だな。やはり処女か」
「! あなたに教える義理なんて、ない……ッ」
「無駄な意地を張るな。初めてなら、やさしくしてやろうと言ってるんだ」
ささやきながら、アルベルトは野蛮と言えるほどの大胆さでマリアの白いふくらみを揉みしだいていく。乳房がいやらしく歪む。マリアは容赦ない愛撫から逃れたい気持ちで一杯になるが、秘薬に犯された身体は思うように動いてくれない。
刺激を受けて立ち上がりはじめた乳房の先端に、とうとうアルベルトの指がかかった。
指の腹を使って丁寧にこねられた刹那、一段と甘いしびれが身体の芯に響く。
「ッぁ……!」
同時に、下腹部が熱く重たくなる感覚に囚われ、マリアの混乱が加速する。
アルベルトは彼女の唇からこぼれる声に酔ったかのように、責めを激しくした。
ふくらみ全体をもてあそぶ荒々しい動きとは裏腹に、硬さを増す先端をくすぐる指先はひどく繊細だった。強すぎる刺激がそこから走るたびに、マリアは嗚咽と甘い悲鳴を繰り返し、しびれるような感覚に陶酔する。
「ん、んん……ッ、ふ……う……」
ふくらみの頂が熟れた果実のように色づいたのを見て、アルベルトは体勢を変えた。
ころりと仰向けにさせたマリアの上におおいかぶさる。
威圧感に息をのむ少女をよそに、アルベルトの舌がぬるりと乳房の先端を探った。
それだけで、身体がびくっと震えるほどの刺激に襲われた。
「ッあ……やめ、て――」
マリアはもちろん彼の頭をつかんで乳房から引き離そうとしたが、アルベルトはお構いなしに彼女のうぶな乳房を吸いたて、時に甘噛みする。狼に喰われるウサギのイメージがマリアの頭の片隅に浮かび、火照りの渦の中にかき消えた。
抵抗を封じられ、淫靡に密着した体勢は怖いのに、望まぬ愛撫はひたすら甘い。
「……や……ッんん、ふ……あ、あ」
やがて悲鳴とは違う、妙に上ずった声をもらしはじめた自分に、マリアは愕然とした。
視線を落とせば、桃色に上気した乳房が見えてしまう。
尖った先端が、男の舌に愛撫されたせいで、ぬらりと光るのがひどく卑猥だ。
堅さを得た果実をからかうように、ふっと息を吹きかけ、アルベルトが頬をゆがめる。
「悦んでくれているようだな」
「! ……そんなこと……ない……ッ」
屈辱と羞恥を誘うアルベルトのささやきに、マリアは必死で首を振る。
「気の強い娘は好みだが……お仕置きをしてしまいたくなるな」
「きゃ……ぁ、やぁッ」
乳房の先端を味わうように舌で転がされた次の瞬間、歯先でやんわりと甘噛みされ、痛みと紙一重の刺激にマリアはなすすべもなく震えてしまう。
秘薬の効果とはいえ、敵の男に辱められて感じ入っている自分の身体が信じられなかった。
自分への嫌悪と穢される絶望、許しがたい屈辱とで心が凍りつくのに反して、マリアの肢体はどんどん熱を高めていく。
(だめ――だめ……気持ちよくならないで……ッ)
儚い力で抗うマリアをあざわらうように、ふいに脚の間にアルベルトの膝がねじこまれた。