リオンが、胸板を輝夜の背にぴたりと密着させるように、彼女を抱きしめている。
下肢を深く結び合わせたままの状態での抱擁に、慣れない輝夜はうろたえる。
首を後ろにひねり、おずおずと訴えた。
「あの、リオン船長……抜いて――は、放してくれませんか?」
「うん。……気持ちはわかるが、悪い。もうちょっとこのままでいさせてくれ」
甘える響き。頬に口づけられる。
「……おまえは中も外もあったかくて、やわらかくて、ほんとに気持ちいいな」
絡めとるような抱擁とはかけ離れた、子供じみた言いように、輝夜はなんとも言えない心地で身を縮めた。自分の身体の感想を聞くのは、どうしても苦手だ。
混乱と快楽で我を忘れているときならいざ知らず、激情の波が収束しつつある時間に彼とつながったままでいるのも気まずい。胎内の異物感を、強烈に意識してしまう。
目を泳がせる輝夜を宥めるみたいに、リオンは彼女の耳の後ろでささやいた。
「輝夜」
海賊らしい、指が長くてしっかりとした厚みのある手が、彼女の汗ばんだ肌を撫ぜる。
「おまえさ……まさか、俺にこうされると何が起こるのか、知らなかったりするか?」
やがてリオンの手がふれたのは、汗や卑猥な雫でしっとりと湿った輝夜の恥丘だ。
――ついさっき、輝夜の一番奥深くにそそがれた子種のことを言っているのだろうか。
呼吸を整えてから、輝夜は答えた。
「知ってます。……赤子ができるのでしょう?」
「じゃ、なんで最初から嫌がらなかったんだ?」
「嫌がったら、あなたはどうにかしてくれたのですか」
最初から身体を奪う気でいたくせにと、つい、詰るような色が声に出る。
が、ちらりと背後を見て、リオンの瞳に罪悪感の翳りを見つけてしまうと、瞬間的な反発は萎えた。もともと、怒ったり詰ったりということが得意ではない性格だ。
「……でも、わたしは、妊娠はしないと思います」
「どうしてそんなことが言えるんだ?」
「実は……わたしはずっと、一族秘伝の、妊娠しない秘薬を飲んでいて」
たとえ戦いの中で敵に陵辱を受けても、孕むことはないように。堕胎も出産も命と引き換えになることの多い時代だから、戦場に舞う女たちは、孕める年頃になると秘伝の薬を服用していた。国主の妹であり、隠し巫女であった輝夜も例外ではない。
――まさかこんなふうに、実際に薬の効果をたのみにする事態になるとは、思ってもいなかったけれど。
それに頭では妊娠しないとわかっていても、肉と肉でもっとも親密な接触を繰り返したあげく、彼の子種を最奥に叩きつけられれば、本能的な怯えが心に爪を立てる。
なのに、抗いきれなかったのは――
「その薬、まだ飲んでるのか」
「……はい。幸い、懐の薬入れは無事でしたし……ひと月に一度は飲まないと、効果が続きませんから」
答えつつ、輝夜はリオンの顔をちらりと振り返る。
今は落ち着きを取り戻しているけれど、はじける寸前の彼は、強い快楽で崩れ落ちそうな声をしていた。
わたしより年上で、はるかに強靭な身体を持つ男の人が、そんな弱いところを見せながら夢中になって抱きついてくるのは不思議で……やさしくしてくれたり、花をくれたり、彼の痛ましい過去を聞いたこともあってか、どうしても突き放せなくて。
望まれない子を孕みさえしなければ、彼をすべて受けとめてあげたいと思ってしまった。
(こんなこと……おかしいのに)
リオンに飼い慣らされたように従順になっている自分の肉体が恥ずかしい。
女の身体は柔軟にできていて、別に「その気」がなくても、刺激を与えられればそれなりに反応してしまうことはわかってきた。しかし、リオンに犯されているときの輝夜の身悶えは「それなり」の範囲を明らかに超えている。
沈んだ気持ちに囚われていると、リオンが突然奇妙なことを言いだした。
「薬は飲むなって言ったら、おまえ、どうする?」
「とりあえず、……あなたの正気を疑います」
なんでそんなことを言うのだろうと眉をひそめながら、輝夜は正直に答える。
輝夜が孕んで困るのは、彼女だけではないはずだ。
――いや待てよ……海賊?
「もしかして、わたしに子供を生ませて、奴隷商人にでも売り飛ばすつもりですか?」
リオンがむせた。
「どうしてそういう発想になる!?」
「どうしてというか……海賊らしく考えたら、そうかな、なんて」
「海賊がどうこうじゃなくて、俺がそういう真似をするとおまえは本気で思ってるのか」
本気でむっとした声音のリオンに、彼のプライドを傷つけてしまったことを悟る。輝夜は素直に反省した。
「いえ……思いません」
「ならいい。――俺が心配してるのはな、そんなヤバい薬を飲みつづけたら、本当に子供ができねえ身体になっちまうんじゃないかってことだよ」
「それは、大丈夫なはずです。わたしの母も結婚を機に服用をやめたら、すぐにあにさまを身籠ったと言いますし……一族の女たちにも、生めない身体になった人は、わたしの知る限りいません」
輝夜の母などは驚くほどの安産型だったという。亡くなったのは戦いの中でのことだ。
「……まさかあなたは、わたしに子を生ませたいのですか?」
「そうだな。……実は、ときどきそう思う」
「ときどきって」
「だって、おまえに似たら絶対、不器用だけど美人でいい子になるだろうから、それなら可愛いだろうなって思うんだが……俺に似たら絶対性格の悪いクソガキ様になると思うと迷うな。……この色違いの目が受け継がれたら、きっと苦労するだろうし」
相変わらず輝夜を抱きすくめたまま、リオンはぶつぶつと言っているが、そういうことが聞きたいのではない。
(……わからない人だ)
ため息をついて、輝夜は乳房にふれるリオンの手を押し戻すが。
身じろいだ拍子に未だに中に受け入れたままのものに敏感な内部を刺激され、腰がびくりと跳ねてしまう。
(や、やだ……わたし、こんな――)
輝夜は耳まで朱に染めた。
不意打ちのせいで抑えることもできなかった、身体の反応が厭わしい。男女の肉が淫らにこすれあう感覚を急に意識させられれば、輝夜のそこは勝手に男の欲望をきゅうっと食い締めてしまう。
「……おまえ、誘ってる?」
「! ち、ちがいます……ッ」
少なくとも輝夜にそのつもりはなかったが、考えなしにもがいたせいで、自分でリオンの楔を愛撫する結果になっていた。じっとりと潤む内壁にこすられた楔はたちまち芯を取り戻して、輝夜の中でじわじわと熱量と硬さを増す。
(あ……また……)
おもむろにリオンが身を起こし、輝夜の片脚を軽く抱え上げるようにした。
寝台の上方に逃れる間もなく、ゆるやかに抜き差しを――いや、違う。
「……ッあ」
リオンは彼の欲望の証を、先端がぎりぎり輝夜の蜜口に引っかかるくらいまで抜いた。
やめてくれるのかと楽観しかけたが、違った。意地悪そうに唇を歪めたリオンは、輝夜の秘部のごく浅瀬で、硬くなった先端を小刻みに動かしはじめる。楔のほんの先だけが探るように輝夜の中にもぐりこんでは、びくりと緊張した彼女を嘲笑うようにすぐに退く。それが繰り返される。焦らすように、いたぶるように。
「あッ……あ、あぁ」
胎内に満ちる蜜と白濁の混ざったものがかき出され、内股を伝った。
ひどく淫靡な感触に恥じらう間も与えないかのようにリオンの手が伸び、情事の名残りで尖ったままの花芯や乳房の先に悪戯を仕掛けてくるから、輝夜は声を殺すだけで精一杯だった。
「誘ってるんじゃないなら――もっと欲しいだけか?」
リオンの熱っぽいささやき。
ぷちゅぷちゅと秘めやかな音を立てて楔が前後して、ときどき内壁の感じやすい部分をくすぐっては、あっけないほどすぐに引いてしまう。露骨に焦らす愛撫が憎らしかった。
「ん! ……んぅ、ッふぁ……」
「……これでも、それなりには楽しいけどな」
腰が揺れないよう必死にこらえる輝夜の耳元で、リオンがそっとささやいた。
「おまえに全部包まれるのが、やっぱ最高だ。――奥まで行ってもいいか?」
「……ッ」
「輝夜」
淫猥な雫で濡れた男の手が、輝夜の下腹部をさまよう。物足りないだろう? 奥まで楔で貫かれて中をたっぷりと愛撫されたいだろう? とささやくように。
もはやリオンのなすがままと成り果てた輝夜の身体の中で、悪魔の誘いにのって堕ち切ってしまえ、情欲のままに男に愛されて何が悪い、もう子種まで受け容れたのだから守るものなどないではないかという想いが渦巻く。
――けれど、それだけはだめだと、どうしても思って。
身体いっぱいに渦巻く淫蕩な疼きと戦いながら、輝夜は必死にかぶりを振った。
「も……あなたの好きにすればいいでしょう……ッ」
最後の意地で突き放せば、金髪の海賊はぴたりと卑猥な動きを止める。
――どうする気?
どきどきとして反応を待つ輝夜の背後で、リオンが小さくため息をつくのが聞こえた。苦笑しているようでもあった。
「俺が欲しかったのは、そういう言葉じゃないんだけどな。――ま、今日は我慢しよう」
「……ッ、ひぁあああ!?」
一瞬何が起こったのかわからなかった。つながったまま身体を引っくり返され、胎内がぐるりとねじれるような刺激に悲鳴に近い嬌声をほとばしらせて、再び気がついたときには、リオンと正面から向き合う体勢に移行していた。
突然のことに茫然としてしまうが、暗がりの中でリオンが目を細めるのを見て、ぎくりとした。火照った乳房も、淫らに男を呑みこんだ場所も――潤んだ双眸や朱に染まった頬といった浅ましい表情も、すべてリオンに見られている。
「いや――」
とっさに裸身を隠そうとした輝夜の手は、リオンに捕らえられてしまった。
手首に口づけられれば、それだけで身の芯が疼いてしまうのが恥ずかしい。そうして半ば抜けていた楔が再び輝夜の胎内に押し入り、彼女の全神経は再び強く甘いしびれに支配された。
「ッ……あぁん……!」
輝夜の汗ばんだ背中に、リオンの腕が回される。
口づけができるほどに身体が重なれば、痛いほど充血した乳房の先端が彼の胸板にこすられ、ぴりぴりとした刺激をもたらした。
リオンがふっと笑う。
「ほんと……おまえって、身体はすごく素直だよな」
「……す、素直なんかじゃ――ぅ、あん、あ……いッ……」
震える彼女の尻に指を食いこませるように揉みしだきながら、リオンがゆるやかに腰を使ってくる。たちまち耳を犯すのは、湿った肌と肌がぶつかる音。と同時に楔の硬い先端が最奥をこつこつと小突く感触が内側からも響き、輝夜の頭に、かっと血が昇った。
「やぁ……ッ、音……たてないで――」
「……無茶言うなよ、輝夜」
「はぁぅ! ひ……ッ、あぁ、そこ……急にこすったら……だ、め」
浅く、深く。すでに胎内に満ちていた白濁を、複雑に重なり合う内壁の隅々にまで塗りこめるかのような男の動き。
敏感になりすぎた蜜壷を満たすものの形が、はっきりと感じられる。くびれていたり……ふくらんでいたり。急峻にそりかえった、不思議な形。
でも、なぜか輝夜の胎内にはあつらえたようになじんで、官能を引きずり出すのだ。
逆らえない快楽の渦に再び引きずりこまれながら、輝夜はぼんやりと思う。
(男の人の身体って……皆、こういうものなの?)
(好きな人じゃなくても、こんなになじんでしまうの……?)
戸惑いはすぐに鮮烈な刺激にかき消される。
甘い衝撃とともに下肢から広がる悦楽に身を染め上げられた輝夜は、のしかかってくる男の肩に額をこすりつけるようにして、ひたすら海賊の男の重みと揺さぶりに耐えた。