ざわめきに似た潮騒。寝台に伝わる船の揺らぎ。
舷窓からさしこむ夕映えを浴びたリオンの金髪は、見惚れるほど美しい。
身体のあちこちで異国の男の体温と重みを感じると、肌が勝手にざわめいてしまった。
(また……あれが始まる)
恋人でも、夫の君でもない男と。
自分が自分でなくなってしまう気さえする、嵐のように激しい行為を。
本当なら……伴侶と、子を成すためにする交わりを。
「……輝夜。そっぽ向くなよ」
罪深さに萎縮するけれど、リオンに名を呼ばれながら唇を奪われると、意識はたちまちそちらに集中してしまった。温もりが、じんわりと身体の芯までしみこむ。
顔が熱い。際限なく熱くなる。
頬や目元にも口づけられるのが、まだ恥ずかしい。
やがて、シャツの前から忍びこんだリオンの手が、輝夜の素肌を愛撫しはじめた。
この手がわたしに悦楽を教えたのだと思うと、怖くて切なくて……なのに、肌には急速に熱がこもってしまって。
キスの合間のささやきを、輝夜はぼうっとした頭で聞いた。
「――舌、出せるか?」
「舌……ですか?」
おずおずと小さな舌を動かせば、すぐにリオンのそれで絡めとられる。
押し重ねられた唇と唇の間で、リオンは輝夜の舌を果実でも吸うようについばみ、また彼女の口の中で何かを探すかのように舌を滑らせていく。
口内のやわらかさをくまなく確かめるかの如きそれに、輝夜は次第に形容しがたいしびれを感じはじめた。苦しいほどの執拗さで唇を求められれば、軽く眩暈さえ感じる。
抱かれることなんて望んでいないはずなのに、どうしようもなく陶酔を誘う――それはそんな口づけだった。
「……舌で転がすようにしてみろ。そう――そんな感じだ」
最初はぴんとこない指示だったが、飴を味わうように輝夜の舌を吸うリオンの動きを追ううちに、いつのまにかなじんでしまった。互いの一部分を絡ませて官能を高めあう口づけなど、この前、初めて経験したばかりなのに。
(わたし、もう、この人に慣れはじめてる……?)
一歩一歩導かれ、リオンとなじみやすいよう、身も心も作り変えられている感覚だ。
最初の夜、強引だが大事に抱かれたせいか、その被虐的な状況に思ったほど屈辱や絶望を感じていない自分がいるのが怖い。
夫君でもない男性に抱かれることへの抵抗感はまだくすぶっているはずなのに、肉体は勝手にリオンに従順になってしまう。
――溶けてしまいそうな悦楽を教えられた一夜の、あまりに鮮烈な記憶。
なるべく思い出さないよう努めてきたそれが一気に甦り、輝夜はうろたえた。
「……輝夜」
かすれ声。
リオンの手が、唇が、輝夜のシャツを乱して素肌をくすぐる。輝夜が恥じらって身をすくめても、リオンは容赦なく彼女の肌を暴いた。
堅さの残る輝夜の乳房は、男の手の中でやわやわと形を変えながら熱を上げる。
金髪の海賊はそれが楽しいようで、艶めいた笑みを浮かべながら、愛撫にまだ慣れない乳房を揉みしだき、指先で頂を探ってきた。初々しい珊瑚色の先端が火照りと堅さを得てくれば、リオンは熟れかけの木の実でも食むようにそれに口に含む。
「あ、ぅ……ッ」
小さく音を立てて吸われ、軽く歯を立てられると、ぴりぴりとした心地よい刺激が下腹部にまでしみた。輝夜はひたすら、切ない吐息をこぼす。
愛してもいない男と淫行に耽る苦悩が消えたわけではないが――しょせん、どこにも逃げられはしないのだ。
海上の牢獄。
帰る日まで――リオンが飽きるまで、きっとこんな夜は何度でも来る。
あきらめと無力感と、巧みな愛撫に力を殺がれて、輝夜の身体はじょじょに当初のこわばりを失っていった。
そのまま何も感じずにいられたらよかったのだけれど、あいにく彼女を抱く男は、心を封じた人形を犯して満足できるほど単純ではなかった。
「輝夜。――こっちを見ろ」
厳しさのある口調で命じられ、はっとう現実に戻った刹那、輝夜は色違いの双眸を至近距離に見つける。
リオンの瞳の底に満ちる鋭い光に息を呑んだのと、愛撫で火照りつつある内股に彼の手を感じたのは、ほぼ同時だった。
「ひ……ッ」
思わず、ナイフを突然首に押し当てられたような、高く短い悲鳴を上げてしまう。
ふとももの吸いつくような感触を堪能しながら、リオンの手は、彼女の秘めた部分へと忍び寄ってくる。輝夜は反射的に彼の手を押さえようとするが、間に合わない。
薄布越しに男の指を感じた途端、身の内でひそかに渦巻いていた熱が出口を求めてほとばしった。どくどくという淫らな疼きに、輝夜はきつく眉を寄せ、かぶりを振る。
「……ま、待って――」
「大丈夫。今日は痛くないようにするから」
「そういう問題じゃ、な……ア、ッんん……!」
切なる哀願をよそに、リオンが彼女のそこをやわやわと愛でる。
敏感な花びらをまさぐられれば、おなかの奥がうねる感覚とともに、疼きだした秘部がじわりと湿った。
(そんな……も、もう?)
これがもう初めてではない悲しさ。今はまだ薄布で隠されている淫らな花は、以前たっぷりと与えられた悦楽を予感して、急速に火照りと疼きを増していた。
感じたくないのに感じて、愛撫にあっけなく堕落する身体が恥ずかしい。……とても、これが自分の身体だなんて認めたくない。
輝夜はシャツの胸元をかき合わせた指にぎゅっと力をこめ、ひたすら刺激に耐えた。
そんな彼女の苦悩などお見通しというように、リオンは流れる黒髪に口づけると、奇妙な穏やかさでささやいた。
「楽にしろよ、輝夜」
「――楽……に?」
潤んだ瞳を上げて、輝夜は薄暗がりの中、リオンの顔をぼうっと見上げる。
彼女を腕の中に閉じこめるみたいにした男は、唇を奪いながら悪魔の如く笑う。
「素直に気持ちよくなって、俺のものになれば、つらくないぞ」
「……それなら、痛くてつらいほうがマシです」
輝夜はとっさに反発した。リオンの頬がゆがむ。
「変わった趣味をしてるな。じゃ、お望み通り苛めてやろうか?」
海賊らしい悪辣な笑みに、輝夜が思わず息をのんだとき、リオンの手が彼女の下着をぐいと引っ張った。
「ッひぁ!?」
疼きはじめた秘裂に薄布が喰いこみ、突き上げるような強い刺激に襲われた輝夜はびくつく。悲鳴に似た嬌声をもらす少女を見下ろして笑みをさらに深めると、リオンは淫らな花に喰いこんだ布をいやらしく揺さぶりはじめた。
どこもかしこも感じやすい秘所はすぐに、薄布にこすられて熱く疼きながら、何かが溶けたように蜜を滲ませはじめる。やがて響いたかすかな水音に、輝夜は愕然とした。
「う、ぅんん……やぁ――ッああ……!!」
(こんなこと、したくないのに……そのはずなのに……どうして)
意に染まぬ快楽に目覚めた自分の身体と、リオンの「苛める」ような愛撫の両方に翻弄される輝夜には、膝をこすり合わせるくらいしかできない。
指を噛み、その痛みで自分の淫蕩な反応から意識を逸らそうとしても、些細な痛みなど霧散させるほどの刺激をリオンから惜しみなく与えられるせいで、ちっとも巧くいかない。